「文様」とは、「着るものや日用品、建物などを飾り付けるために描かれた模様」のこと。
私たちは普段、たくさんの「文様」に囲まれて暮らしています。そんな「文様」の種類や歴史を、分かりやすいストーリーと美しいイラストでまとめた絵本『文様えほん』(作:谷山彩子 出版社:あすなろ書房)が出版されました。
なんと作者の谷山さんは、この絵本を作るにあたり、ゼロから文様を調べ始めたという勉強家! 谷山さんに文様の魅力をたっぷり教えていただきました。
●「文様ってなに?」 調べるところから、絵本制作がスタートしました。
『文様えほん』(あすなろ書房)には、日本人になじみのある文様から、海外の文様まで約300もの文様が登場します。これだけの数の文様を1冊にまとめるのはとても大変だったのではないかと思うのですが、谷山さんは元々、文様に興味があって、詳しかったのでしょうか?
興味はありました。とはいえ、手ぬぐいに描かれた柄を見て「これはよろけ縞って言うんだ」とか思うくらい。すごく知識があったわけではないんです。
───なぜ、文様をテーマにした絵本を作ろうと思ったのですか?
あすなろ書房の編集者さんから、「今度、文様をテーマにした絵本を作ることになったのですが、誰か、文様に詳しいイラストレーターさんを知りませんか?」と相談があったんです。
私は以前、ギャラリーに勤務していたことがあって、イラストレーターの知り合いもたくさんいたので、ご紹介することもできました。でも、「文様」というフレーズを聞いたときに、「私も挑戦してみたい……」と思ってしまって。「私、やりたいです」ってお返事しました。
───編集者さんの反応はいかがでしたか?
それまで、私はイラストレーターとして挿絵やカットを多く手掛けていました。なので編集者さんも、今まで絵本を作っていない私が『文様えほん』を描きたいと言うとは思っていなかったみたいで、大変驚いていました。
───そうなんですね。もともと絵本には興味があったのですか?
興味はありましたが、遠くから眺めている感じ、あまり見ないようにしている感じでした。他のイラストレーターの方が絵本を出版したと見聞きして「絵に独自の世界観のある人は絵本が描けるんだなあ。私には無理だろうなあ」なんて思いながら。本音はとっても羨ましかったんだと思います。
「イラストレーター・谷山彩子」として描いてきた絵はたくさんあるけれど、やはり、自分で作った「作品」を残してみたいと思ったんです。その思いと、「文様」という興味深いテーマがピタッとあって、チャレンジしてみたいと思いました。
───それからすぐに、『文様えほん』の制作に入ったのですか?
まずは私が「文様」をテーマにどんな絵本を作ってみたいと思っているか、編集者さんに構成案をお見せする必要がありました。そもそも文様についても、専門家ではなかったので、資料を集めて勉強するところからのスタートです。
───資料を調べて、どんなことを主に勉強したのですか?
「文様事典」や「日本の文様」に関する本を集めて、文様の成り立ちや、海外からやってきた文様の変遷、どうやって文様が誕生したかなど、文様に関することをまんべんなく調べました。さながら受験勉強です(笑)。
でも、学生の頃の受験勉強はとてもやる気が起きなかったのですが、この勉強は進めれば進めるほど、面白くなってきて、すごく熱中しました。
───まとめられた資料の一部を見せていただいていますが、すごい情報量!
受験勉強よりも勉強されているんじゃないかと思います。
そうですね。若いころは歴史とかすごく苦手で、どうしてこの武将の名前を憶えなきゃいけないのか、どうしてこの時代のことを学ばなきゃいけないのか、考えれば考えるほど覚えられず、勉強がとても苦痛でした。
でも、文様を勉強すると自然に、家紋を通して武将のことを知ったり、その時代に流行った文様を知ったり。あんなに苦手だった歴史にも興味がわくようになったんです。
───『文様えほん』も、最初に縄文・弥生時代から、現代までの日本の文様の歴史が紹介されていますね。
はい。調べたことを基に、どこで文様の歴史を紹介するか、文様についてどういうカテゴリーで載せていくかをまとめて、構成案を作りました。それを編集者さんにお見せしたところ、「文様について伝えたいことが、一本の柱のように絵本全体に通っているから、この構成で行きましょう」とOKをいただきました。
正式に『文様えほん』を作ることになったのは、そこからです。
───おはなしでは、お父さんと一緒におばあちゃんの家へ行った女の子が、おばあちゃんの家にある壺を見て、文様に興味を持ちます。
このようなおはなしも、構成案のときから決まっていたのですか?
それは、後から編集者さんと話し合って決めました。最初に考えた構成案ですとどうしても文様だけを紹介する事典のような印象が強いと感じていました。
それよりも、私のようなはじめて文様に触れる人にも、楽しみながら興味を持ってもらえる内容にしたいと思い、ストーリーを進めてくれる狂言回し的なキャラクターを入れることにしました。
───そこで、お父さん、娘、おばあちゃんというキャラクターが登場することになったのですね。おばあちゃんが孫娘に「文様」を教えるストーリーを、構成に落とし込む作業は大変でしたか?
構成案のときは、勉強した文様のことをまとめるのが面白くて、「あれも入れたい、これも紹介したい」とかなり詰め込んだ内容になっていました。新たにおはなしを追加するにあたって、その流れを一度見直して、おはなしとして伝わりやすいように、全体の緩急をつける必要がありました。なので、何をなくして、どれを残すのか、絞っていくのがなかなか大変でしたね。
───一本の線から文様が生まれる様子のページが、特に大胆で潔くて、格好いいと思いました。
私もこういう構図は大好きです。もともと、私が文様の勉強をはじめて、まず目からうろこが落ちたのが、文様は一本の線からはじまったということだったんです。それまで、文様ってちょっと敷居が高い感じがしていました。でも、小さい子でも描ける線から生まれたと分かったとき、文様をとても身近に感じたんです。
───前のページで、かなりの数の文様をまとめて紹介していて、ページをめくると、この一本の線が出てくる。
ここで、フッと力が抜ける気がして、その感覚もとても心地よかったです。