読む者の心の中に、 いい知れぬ愛しさと切なさを残す珠玉の作品を、 スロバキアに暮す画家、 降矢ななが渾身の思いをこめて描き出した。 あたかも一本の映画をみたかのような 深々とした思いに胸をつかまれる作品。 独特の世界観で人気の宮沢賢治の作品。 こどもたちには新鮮な感動を、 大人には一味違う読みごたえのある物語絵本です。
───降矢さんの最新作は宮沢賢治の絵本シリーズ『黄いろのトマト』。様々な絵本作家の方 が取り組まれているこのシリーズですが、遠いスロバキアに住む降矢さんのところに絵本制作の依頼のおはなしが届いた時のことについて教えていただけますか?
───幼い兄妹ペムペルとネリの愛おしくて悲しいこの物語。
博物館に飾られている蜂雀の剥製の口から語られるという設定や、ペムペルとネリが二人だけ で暮らすようになる経緯の原稿が1枚抜けているということなど、賢治の童話の中でも不思議な部分が多いように思います。初めて読まれた時にはどんな印象を抱かれましたか?
また降矢さんの中での宮沢賢治の存在を少し教えていただけますか?
───賢治の童話と降矢さん。その組み合わせにドキドキしながらページを開くと、日本的でありながら異国情緒も漂う雰囲気の絵。ぴったりきていることに驚いてしまいました。
身近なようで、遠い国のような気もする景色。降矢さんは絵本を描かれる時、具体的な場所を想定していたりするのでしょうか?
お話を読んで浮かぶイメージに具体的な場所や建物を取り入れることがけっこうあります。でもそれを丸写しするというのではなく、パーツや印象とか。お話を読んでからそれを頭の中で反芻している時間があって、そういう時はアンテナを張っているから外出先で「あ、これお話のあの場面にいいな」とか「あの壁の色や質が使える」とか。それを写真に撮ったりして記録しておきます。だけど、その写真をそのまま絵にすることはなくて、あくまで記憶を引き出す道具みたいに取っておきます。そういうものが寄せ集まってお話の景色ができていると思います。
───文章から絵が具体的に浮かんでくるまでにはどのくらいかかるのでしょうか。今回の場合は、実際に絵を描き出されるまでは時間がかかりましたか?
お話を読むとわりとすぐに頭に画像は浮かびます。でも絵本にしたいと強く思うのは、最低一場面、ものすごく魅力的なイメージが浮かび上がってくるお話です。また、文章の雰囲気も私には大事な要素なのでそれを生かせるように、全体の色とか墨絵風にしたいとか油絵みたいにしたいとか、最初に読んだ時の印象を大事にしてラフを作ります。 今回は読んで、頭にパッと浮かんだのは、国吉康雄の油絵画でした。私は国吉康雄の描く子どもや裏ぶれたサーカスの絵が大好きです。そのイメージを大切に絵本に持っていきたいと思いましたが、理想が高すぎて苦労しました。すんなり場面が描けたと思ったところも、編集者さんのアドバイスを聞いて納得すれば描き直しました。編集者さんもものすごくこだわりのある方で、私の気がつかないヒントを幾つも提示してくれました。 あと主人公の子どもたち。これはもう絵本ができてから言うべきことではないのですが、ペムペルとネリを西洋人風に描いたのは良かったのか悪かったのか、今も迷っています。でもこの名前で純粋の日本人にするのは抵抗がありました。しかし今度は舞台をまったく西洋にしてしまうのにも抵抗がありました。前に書いたように、賢治のお話には日本の湿っぽさがあるからです。
───このお話で、蜂雀とトマトは読み終わった後も強く印象に残りますね。
可愛らしいけど凛とした佇まいがとっても美しい蜂雀。輝くような実がなっているトマト。これらを描くために、参考にされたものはありますか?