───おはなしを聞けば聞くほど、ヨシタケさんご自身のことにとても興味が湧いてきました。先ほど、ご自宅でお母様が家庭文庫をされていたと伺いましたが、ヨシタケさんはどんな子どもだったのですか?
───なんだか、おはなしを伺っていると『りゆうがあります』の男の子が、ヨシタケ少年のように見えてきました(笑)。
それはあると思います。絵本を描くことになったとき、今の子どものことは全然わからなかったので、分からないものを対象にするよりも、子どもの頃の自分が読んでみたかった本を描きたいと思ったんです。あの頃の自分に「大人って怖くないよ、子どもと変わらないんだよ」ということを伝えられたら、今、同じように思っている子どもの恐怖が少し薄まって、ちょっと楽になったら…そういう人たちに届くものができたらいいなと思って描いています。
───お子さんじゃなくて、子どもの頃の自分に対して描いているというのが意外でした。
読者の中には「絵本作家って、子ども好きで、子どものことを分かって描いているんでしょ」という方も多いと思うんですが、ぼくは、自分が子どものことを分かっているとは思えなくて…。だから、分からない対象を描くよりも、小さいころの自分に対して描いている。そういう風に絵本を作る人がいてもいいということに、最近やっと気づきました。
───『りゆうがあります』を見ていると、特に男の子の発想や思考がよく分かって、そういう、男の子の発想が分かる絵本を待ち望んでいるお母さんも多いと思います。
ぼくの作品の特徴として、基本的に「男子臭」があると思うんです(笑)。ぼくの子どもも2人とも男の子なので、身近にいる取材対象に女子がいないんです。だから今後、女の子目線の作品が作れないんじゃないかという不安はあります。ただ、ぼく自身は上に姉1人、下に妹2人の女兄妹の中で育ってきたので、女兄妹を見ていろいろ感じたことはあるのですが…。
───女兄妹の中で育ったのなら、男兄弟の息子さん達をうらやましいと思ったりしませんでしたか?
そう思ったことはなくて…子どもが男の子だと分かったときに、最初に考えたのは親父とぼくの関係でした。ぼくは父親とあまり仲のいい親子ではなかったので、男の子の親になると知ったとき、将来、自分も親父のように子どもに憎まれるんだと思って、すごく嫌でした。でも、息子が生まれて、一緒に遊んだり、出かけたりするうちに、ぼくも小さいころは父親のことが大好きだったということを思い出したんです。息子がいなければ、完全に忘れていた「小さいころは無条件に親のことが大好きな時期がある」ということを、息子を通じて気づくことができた。そのとき、子育てってすごく面白いなと感じました。
───子どもを持つ、お父さんお母さんにとってもすごく救われるエピソードだと思います。最後に絵本ナビユーザーに新作『りゆうがあります』のみどころ、メッセージをお願いします。
物にはいろんな「理由」があります。この絵本を読んでくださって、何かしら思ったことにも「理由」があるはずです。そして、一生懸命宣伝しているこちらサイドにも「りゆうがあります」(笑)。くせもうそも悪くないよねと、なんか気が楽になったと思ってくれればそれだけでも成功。良いうそがつき合える余裕をお互いに持てて、それが良いなって思えてもらえたら嬉しいです。
───ありがとうございました。今日おはなしを伺って、これから生まれるヨシタケさんの作品がますます楽しみになりました。
ぼくも、色んな形の作品を出していって、早く当り外れのある人なんだなと分かってもらいたいと思っています(笑)。『りんごかもしれない』は、ぼくの中で大ヒットの作品なので、2冊目、3冊目を描くことに、すごくプレッシャーを感じていました。なので、もっと色んな作品を出して、「あ〜、そっち行っちゃったんだ〜」と思われるような作品も描いて、気楽な目で見てほしいというのが、ぼくの今一番の願いなんです。
───いい意味での裏切りを読者は期待しますものね。
ただ、自分が気に入っているもの、自分だから描けるものを作るという気持ちはずっと変わらないと思います。その中でも、色んなふり幅を見せていけたらいいなと。
───これからのヨシタケさんの描く作品にもそれぞれ「理由がある」ということですね(笑)。母の立場からしたら、謎の多い「男子」という生きものを解明してくれるヨシタケさんならではの「男子臭」のする作品を、これからも期待しています。
取材でお邪魔した、ヨシタケさんのアトリエには、いろいろ「理由」がありそうなものがたくさんありました。
<編集後記>
著作を読んでいるうちに、すっかりヨシタケワールドにはまってしまい、お会いする頃にはただのファンに…(笑)。聞いてみたいことがありすぎて、なかなか取材を終わらせることができませんでした。時間をかなりオーバーしてしまった取材にも、笑顔で答えてくださったヨシタケさん、本当にいい人です!