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まほうのさんぽみち

まほうのさんぽみち(評論社)

絵本が大好きな女の子とパパの、幸せであたたかいお話。

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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  すべての親と子どもに贈る、ちいさな幸せの物語『そらはあおくて』杉浦さやかさんインタビュー

安心して遊んでいた幼い日々を思い出すゾロトウの絵本

───原作者のシャーロット・ゾロトウは『うさぎさん てつだってほしいの』(冨山房)、『かぜはどこへいくの』(偕成社)、『ねえさんといもうと』(福音館書店)など、モーリス・センダックやロジャー・デュボアザンといったそうそうたる画家と組んで多くの絵本を世に送り出したアメリカの絵本作家ですね。

これまでゾロトウのことはそこまで深く知らなかったのですが、『いつかはきっと…』(ほるぷ出版)と『いまがたのしいもん』(童話屋)の2冊は、かけだしのころにたまたま買って、ずっと好きで手元に置いていました。
今回、絵を描くことになったとき、その2冊をひっぱり出して「……このゾロトウよね?」と驚きました。とても嬉しく光栄で、一気に緊張しました。


『いつかはきっと…』(ほるぷ出版)。その下に『いまがたのしいもん』(童話屋)が重ねられています。

『THE SKY WAS BLUE』は1963年刊行ですが、今まで日本では出版されたことがなかったんですよね。翻訳されなかったのがもったいない絵本です。
『しろいうさぎとくろいうさぎ』(福音館書店)や、『大草原の小さな家』など「インガルス一家の物語」シリーズ(福音館書店)の挿絵で知られるガース・ウィリアムズが絵を描いています。


杉浦さんのご実家にあった絵本『しろいうさぎとくろいうさぎ』。「6つ上の姉のために母が買ったものだと思うので、おそらく50年前くらいの絵本でしょうね」と杉浦さん。


原書『THE SKY WAS BLUE』(左)と、『しろいうさぎとくろいさうぎ』(右)。同じガース・ウィリアムズでも絵のタッチはだいぶ違います。

正直なところ、ガース・ウィリアムズの絵を見たら、強く影響されてしまいそうで、なるべくまっさらな気持ちで文章と向き合いたいと思ったので、制作が終わるまで原書を見ないようにしました。すべての制作が終わってから、アメリカから原書を取り寄せました。

───ゾロトウの作品にはどのような魅力を感じますか?

制作中は先入観を持ちすぎないよう、シャーロット・ゾロトウについても深く調べることを避けていましたが、制作が終わってから、ゾロトウの作品を、図書館で借りて一気に読みました。
どれも何気ない子どもの心情を描きながら、あたたかな日常の喜びにあふれた、美しい絵本ばかりだなと……。何だか、安心して遊んでいた幼い日々がよみがえってきますよね。大切な人に贈りたくなる絵本だと思います。

───あらためて読んでみて、印象的だったゾロトウの絵本はありますか。

『そらはあおくて』もそうですけれど、母と娘が描かれた作品は、自分に重ねて読んでしまうのか、やはり印象的でした。
『かぜはどこへいくの』は、物事の真理のようなものが、希望に満ちたやさしい語り口で描かれていて大好きです。

すべての親と子どもへ

───このたび描き上げた絵本『そらはあおくて』を、どんな人たちに読んでほしいですか。

絵本は本来子どものものだと思いますが、これはママたちに一番読んでほしいかもしれません。お母さんが子どもに読んであげるとき、きっと、ぐっとくるおはなしだと思うんです。
子どもだけでもなく、大人だけでもなく、親と子、両方のためにこの絵本を描いたような気がしています。

その一方で、子どもがいるいないに関わらず、誰が読んでも、わたしが最初に読んだときと同じような感動と衝撃を感じてくださる絵本じゃないかと思っています。幼いときの記憶や、母や祖母の記憶がよみがえって、共感してくださるのではないでしょうか。


原書『THE SKY WAS BLUE』の最後からひとつ前の場面。


『そらはあおくて』最後からひとつ前の場面。(『そらはあおくて』より)

───子どものときの空も、大人になった今も、空は青くて……。昔と変わらないですよね。子どもの自分と今の自分、変わっているような気もするけれど、変わらないものは変わらない……。親子のおはなしであると同時に、子ども時代に自分を包んでいたものすべてが絵本の中に入っている気がします。

何気ないちいさな幸せを、大きく包み込んでくれる何かが描かれていますよね。
娘が5歳のうちにと気合を入れて描いた絵本でしたが、最初はあまり娘の反応がよくなかったんですよ。「だって、これは大人の絵本だもん」と言っていて。たしかに詩みたいですものね。

でも友人の子が声に出して読んでいるところを、撮影した動画を見た娘が、声に出して読むようになって、そしたら急に大好きになったみたいなんです。音読するとすごく気持ちいいんですって。
「好きじゃないって言ってなかった?」と声をかけたら、「前はわからなかったの。今は大好き」と(笑)。まだ年長さんなので読むスピードはゆっくりなんですが、最近、1人で何回も音読しています。

───それは素敵ですね!

ひらがなを覚えたての、自分で本を読みはじめた子が「気持ちいい」と感じてくれたことが、とても嬉しかったです。なかがわちひろさんが訳されたゾロトウの文章は、きっと、子どもの心にずっと残ってくれる素晴らしい文なので、ぜひたくさんの子どもたちに味わってほしいなと思います。

そして、子どもたちがいつかこの本に込められた、本当の意味を知ってくれるだろうなあと。今は字面で受け止めるだけだけど、言葉の奥にある大きな意味を、本当にわかるときが楽しみだなと思っています。

───素敵なメッセージをありがとうございました!


最後にパチリ。杉浦さんの左右のクッションも、実はどこかの場面に描かれています…見つけてみてくださいね。


絵本ナビに、サインを書いていただきました!

杉浦さやかさんにもうちょっとだけ質問!

Q.絵本に思い入れがあるのはなぜ? 子どもの頃にたくさん読んでいたのでしょうか?

母が絵を描く人で、絵本が家にたくさんあったんです。どちらかと言えば西洋の美麗な絵本が多く、『ラプンツェル』や、エッツの絵本などがありましたが、小さい頃は良さがあまりわかりませんでした。おもちゃはほとんど買ってくれなかったけれど絵本だけはいっぱいあって、母がよく読み聞かせをしてくれました。母の趣味には偏りもあったと思いますが、成長してから、ふつうはこんなに家に絵本がないものなんだなと思いました。 大人になってからは、海外の古い絵本が好きになりました。20〜30代の頃は旅をよくしていたので、海外に行くと、その国の古い絵本をたくさん買って帰りました。「絵の参考資料」や「自分の好きなもの」として集めていたと思います。

Q.子どものときに特に好きだった絵本を教えてください。

思い出の絵本は、『3じのおちゃにきてください』『だるまちゃんとかみなりちゃん』『しずくのぼうけん』『ぐるんぱのようちえん』『とけいのほん』(以上、福音館書店)、『RICHARD SCARRY'S BEST WORD BOOK EVER』(『スカーリーおじさんの英単語集』中央公論社)などたくさんあります。

かこさとしさんの『あなたのいえ わたしのいえ』、林明子さんの『ぼくのぱん わたしのぱん』(以上、福音館書店)は当時大好きで、娘もずっと大好きな絵本です。懐かしくて大人になって買い直したのですが、今は娘の本棚にあります。わたしは物が細かく描き込まれた絵本や、仕組み系の絵本が好きだったようです。
それからバートンの『ちいさいおうち』(岩波書店)は幼い頃からとても好きな絵本です。今でも都会にひっそり残る古い家を見ると、「ちいさいおうち……」と思ってしまいます。『せいめいのれきし』(岩波書店)は、わたしも好きな絵本でしたが、どちらかというと兄のバイブルで、理系への道をたどるきっかけになったそうです。

3人きょうだいの末っ子でおさがり絵本ばかりだったわたしに、小1くらいの頃、母の友人が贈ってくれた『100万回生きたねこ』(講談社)はすごく嬉しくて、見返しに「おばちゃんにもらった さやか」と、名前と絵を書き入れたものを今でも持ってます。

Q.最近では、お子さんとどんなふうに絵本を読んでいますか?

わたしが子どもの頃好きだった家にある絵本を読んだり、図書館で「お母さんはこれを読みたいな」と自分が読みたい絵本を選んで、娘と一緒に読むことも多いです。
雑誌で見て気になった絵本をメモしておいて、あとで探して読んだりもします。
最近では、たまたまクレヨンハウスで見つけた1冊から、植垣歩子さんの絵本が好きになり、出版されている他の絵本を探して読んだりしました。

Q.映画についてのイラストエッセイも豊富な杉浦さんですが、今回、映画を参考にされましたか?

描きたい時代の空気をつかみたいときに映画を観ました。『ピクニック』(1955年アメリカ)や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年アメリカ)、『エデンの東』(1955年アメリカ)も参考になりました。
制作中に行き詰まると、描く気持ちを鼓舞するために、地元のミニシアターに駆け込んで1本だけ映画を観て、帰ってきてまた絵に向かったりしました。
ちなみに、参考にしたわけではないのですが、制作中にインド映画の『バーフバリ』(2015年)にハマって、色を塗るときはYouTubeで動画を流しながら気分を盛り上げました。娘もすっかり「バリバリバリバリバーフバリ♪」と歌えるようになりました(笑)。

Q.今回の絵本制作で一番大変だったのは?

以前絵本を作ったときは色々アドバイスをもらいながら作ったのですが、今回は1人で作品に向き合って掘り下げていくという感じでした。作品に思い入れがありすぎて、眠れなくなったり、体調を崩したり……、気持ちのコントロールに一番苦労したかもしれません。
普段のわたしにとっては書き文字も重要な小道具ですが、もちろんそういった小道具は使えない。イラストレーションとは全然違う世界で、一冊の物語世界を、絵で引っ張っていかなければいけない。つい気負いすぎ、描き込みすぎてしまって……「もう描けないかも」と思ったこともありました。でも落ちるところまで落ちたら力が抜けたのか、何日か時間を置いてもう一度描いてみたら、描けました。孤独でしたが、たくさんジタバタした分、絵本のしっぽのようなものを、少しつかめたような気がしています。


水彩で描こうかとあれこれ試していたときの絵。


「何かが違う」とモヤモヤしながら描いていたときの絵(下)。


とても可愛らしい1枚ですが……。


本全体の風通しのよさを意識して、このあとは空の描き方も変えていったそう。

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【おまけ】杉浦さやかさんのお気に入りがさりげなく飾られた、素敵なアトリエをちょっとだけご紹介☆


メキシコの市場から持ち帰ったという、カラフルな刺繍見本が目を引きます。売り物ではなかったのに、お店の人にお願いしてゆずってもらったお気に入り。


可愛いからくり時計!


マーカー(コピック)やペンなど『そらはあおくて』制作にも使用された画材。娘さんが描いた「まま」の絵にきゅんとしてしまいます。


こけし好きで有名な杉浦さん。お部屋のあちこちにこけしがありました。こちらは本棚に並べられていた、小さなこけしたち。

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文・構成: 大和田佳世(絵本ナビ ライター)
撮影: 所 靖子



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杉浦さやか(スギウラサヤカ)

  • 1971年生まれ。日本大学藝術学部美術学科卒業。在学中より、フリーのイラストレーターとして活動。イラストエッセイの著作や、雑誌などの連載多数。絵本作品に『ちいちゃんのたからもの』『りらのひみつのへや』(共に、学研)や、『あかずきん』(白泉社)、『そらはあおくて』(あすなろ書房)など。児童書の挿絵に『うちはお人形の修理屋さん』『お人形屋さんに来たネコ』(共に、徳間書店)がある。

作品紹介

そらはあおくて
文:シャーロット・ゾロトウ
訳:なかがわ ちひろ
絵:杉浦 さやか
出版社:あすなろ書房
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