小さな子どもは一生懸命考えようとします。
幼い心は一生懸命感じようとします。
そして、自分の集めた情報を一生懸命理解しようとします。
でも、なかなか理解できないのです。
だって、いつもそばにいてくれたお母さんが急にいなくなってしまったのです。
どうやってそれを受け止めたらいいのでしょう。
絵本は、雨の中、たくさんの黒い服を着た人たちが黒い傘をさして立っている、映画のワンシーンのようにはじまります。無邪気な男の子は、お母さんの突然の死が理解できず、ソファの裏やベッドの下など、お母さんをあちこち捜しまわります。お母さんのものはそのまま残っているのに、お父さんは泣いていてお母さんはやっぱりいないのです。お母さんは忘れ物をして行ってしまったんだと男の子は自分を納得させます。お墓の意味もわからないので、枯れたお花を見ては、どうしてお母さんは取りに来ないのだろうと少し不安になります。もしかしたら、お母さんは本当にこのままもどってこないのかも。嫌な考えが少しずつ現実のものとなっていきます。
お父さんは男の子に真実を隠さず話し、そんなお父さんの気持ちに応えるかのように、男の子はゆっくりと現実を受け止めていきます。お父さんもおねえちゃんもきっと自分と同じ気持ちなんだと、自分自身で気づいていくのです。
大切な人を失い、残された家族の心の再生がゆっくりと丁寧に綴られた優しい絵本です。
男の子がゆっくりと自分の気持ちを整理していく過程に胸がしめつけられ、それでも力強く成長していく姿に勇気付けられます。とても重いテーマですが、何度でも読み返したくなります。前へ進むために、何気ない毎日を積み重ねる家族や幼いながらも死を受け止める等身大の男の子を抱きしめたくなるほど愛しく感じられるからかもしれません。
残された人の時間、生きていく毎日をより一層大切に感じさせてくれる絵本です。
今がその時かはわかりません。でもきっとこの絵本が必要になる時が必ずくると思います。
(富田直美 絵本ナビ編集部)
続きを読む