近代進化生物学における古典的名著,待望の邦訳!
群選択(=生物は種の保存のため設計されているという俗説の根拠となる理論)を,「自然選択は種内競争である」とするダーウイン的な個体選択主義から徹底的に批判した古典的名著の邦訳版(原著初版刊行1966年)。1976年に刊行されたリチャード・ドーキンスによる『The Selfish Gene(利己的な遺伝子)』は,本書が切り開いた哲学を直接継承し,発展させた一般書といえる。ドーキンスは本書にまえがきを寄せている。
自然選択による生物の適応という概念は,進化の総合説誕生から30年が経った1960年代においても多くの専門家にさえ誤解され続けていた。著者のウィリアムズによればそれは,進化=進歩だという初歩的ながらも根強いものから,適応が生じるには自然選択に加え遺伝的同化が必須であるという専門的なものまで,枚挙にいとまがない。ウィリアムズはこれらの適応進化に関する諸見解を明快な言葉で一刀両断し,適応生物学(テレオノミー)という新研究分野の創設を提唱した。本書の計り知れない影響力は「群選択=誤謬」なる,ウィリアムズ自身が「読んでない人の極端な意見だ」と指摘したような学問的空気を動物行動学や生態学の研究者のあいだに醸成し,1970年代以降に爆発的に流行した行動生態学と社会生物学の方法論のチャートとなった。50年以上経った現在でも,本書の輝きは失われるどころかますます増している。今日それを精読し,正負両面でその現代科学へのインパクトを評価することは極めて有意義であろう。
なお翻訳にあたっては訳者補足が随所に加えられ,さらに訳者あとがきにて,本書の理解を深めるための背景知識や本書が与えたインパクトについて19頁にわたって非常に丁寧に解説されている。これら訳者による補足は,本書に一層の価値を与えている。
[原著:Adaptation and Natural Selection: A Critique of Some Current Evolutionary Thought, Princeton University Press, 2018]
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