野原にぽつんと立つポスト。長い間、誰にも使われずに眠りについていたポストは、嵐で吹き飛ばされ、海に落ちても気づきません。でも物知りのカメに教えられた魚たちが、ポストに手紙をぽとんと入ると、ポストは目を開けました。(ひさびさのお手紙だ。届けにいこう!)
赤いポストはぽすぽす海を泳いで泳いで、つむじ風にお手紙を届けます(それは、貝殻に魚たちが声を吹き込んだものなのです)。風は貝を耳にあて、にっこり。風に抱かれてポストも魚の元へ戻りますが、うっかり森に落ちてしまいます……。
海で、森で、生きものたちの手紙が投函されるたび、ポストは目を覚まし、起き上がり、泳いで歩いて届けに出かけます。ちなみに投函される「お手紙」は貝殻やつぼみ。そしてそんな小さな「お手紙」をポストが宛先に届けようと起き上がり、「ぽすぽす」「ぽぽぽぽぽすーん」と動き出すときのかわいらしさと言ったらたまりません。
文を担当した北川チハルさんは、声を誰かに届けようとすれば、必ずそれを届けてくれようとする人や、届いてほしいと願ってくれる人が現れるよ、と伝えられる物語にしたかったそうです。小池アミイゴさんが柔らかな筆致で描き出す絵が、「手紙っていいなぁ」「誰かに声を届けるっていいなぁ」と共感を呼び、心をやさしくくすぐります。あたたかい感覚が自然に伝わってくる、絵本らしい魅力が詰まった作品です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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