「きい」が泣いている。「きい」は「わたし」のふたごのきょうだい。
きっとまたお母さんに怒られたんだ。
やれやれ、こんな時はわたしのでばん。
出だしのフレーズを聞いただけで、ふたりの普段の生活や関係性が見えてくる。
あっという間に絵本の中の世界に引き込まれてしまいます。
性格の全然違うふたりなんだろうな。いつも奔放なのはきいちゃんなんだろうな。
でも、今回はちょっと様子が違うみたい。
きいは「家出」をすると言い出した。
お気に入りのものをリュックにつめて、ちろにさよならをして、よっちゃんにもさよならをして。
こっそりいなくなりたいから、庭から出て行くって。
どうしよう、本当にいっちゃう。
「ねぇ。おかし たべてから いったら?」
きいは、ちょっとたちどまります。
「これ まだ よんでなかったね。」
もうちょっとだけ、たちどまります。
とっさにわたしの口から出た言葉は、他の人から聞くと、なんでもない声がけ。
でもふたりにとっては、まるで魔法のように心を溶かしていく特別な言葉。
声をかけるたびに、「きい」と「わたし」のかけがえのない時間が浮かび上がってくるようで…。
派手ではないけれど、やわらかいタッチと優しい色合い。細やかに表現された表情。
繊細で、でもとってもあたたかい画風は、この可愛らしくて大切なお話にぴったりときているのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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第34回講談社絵本新人賞受賞作
「ねぇ。おかし たべてから いったら?」
ふたごの姉妹の、こころ温まるおはなし
「きい」と「わたし」は、ふたごの姉妹。ある日、お母さんに怒られたきいが家出をすると
言い出した。ぬいぐるみや、お気に入りのものをどんどんリュックに詰めていく。どうしよう、
本当にいなくなっちゃうの?「ねぇ。おかし たべてから いったら?」、「これ まだ
よんでなかったね。」きいの家出を止めようと、行動にでる「わたし」。
やわらかいタッチと、登場人物たちのこまかな気持ちの変化をとらえた表現で、読者を作品の
世界に引き込みます。
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