この話は、もしかして最初は短編小説として書かれたものを後から絵本にしたのかなと思いました。あまりにも話が“深い”からです。堪能するにはある一定の成熟が求められているような気がします。
そう感じる一方で、絵に表したからこそ、分かりやすくなっているのかなとも思います。
それにしても、あの途中で出てくる白い婦人は何者なのでしょうか? 運命の女神? それともペンキ(色)の女神? 誰だか断定はできないし、それは読む人が感じるべきことであると思うのですが、この物語の中での重要な存在なのはたしかです。
恥ずかしながら教養のない私は、ユトリロを知りませんでした。思わずネットで調べ、そして彼の作品を見て、すごく納得しました。なるほど、これがユトリロの白なのね、と。
ストーリーはペンキ屋さんの話ですが、やっぱりこれって人生のことを言っているのかなとも思います。生まれてきた時、私たちは無垢で言ってみたら真っ白なのかもしれません。そして年を追うごとに色々な体験やら出会いを重ね、その自分自身がもっている白に色々な色が混ざっていって、緑がかった白とか茶色がかった白とか、そんなユトリロの白になっていくということを暗示しているのではないでしょうか。
正直なところ、絵を担当した出久根さんの絵が最初、あまりにもその能面ぽく強烈過ぎて、ちょっと苦手かもと思いましたが、物語が進んでいくにつれ、出久根さんの絵があっているという気になってきました。不思議なものですね。そして、Wikiによると、作者である梨木さんが出久根さんの絵を指定したそうです。
全体的にベールがかかっているような感じで、読後に静かに心揺さぶられるものがありました。実際に話が長くて、字が小さくて、ストーリー的にも大人向きの絵本だと思います。大人にお勧めです。
そう書きながら、同級生の友人の芸術家肌の娘さん(中2)にこの絵本をプレゼントする予定です! 彼女なら伝わるような気がするからです。