飛鳥時代、仏様の功徳を伝えるための仏像や寺院などが次々と建立されていた。外国からも多くの技術者、芸術家たちが訪れ、職人たちが切磋琢磨していた時代。若い仏師が修行の果てにたどり着いた究極の美とは…
学校の歴史の教科書にも載っている「玉虫厨子」。昆虫の羽根を貼り付けて美しさを表現したということが大変、印象的だった。その厨子を作った人については、いろいろな説があり、本当のところはわかっていないらしい。そのため、仮に「若麻呂」と名前をつけて、現代にも残る国宝となった厨子を作るに至った経緯を、物語る。
絵は、当時の絢爛豪華で自由な気風を感じられるような、不思議な色使い。多くの国から技術者が来日し、勢いがあった都市で、めいめいが意欲的に仕事に取り組んでいたという時代を感じる。
一方、庶民の生活と富裕層の生活の落差もはっきり描かれており、人間の社会の構図が容赦なく表現されている。
物語の主人公、若麻呂が、美を追求するにつれ、日常生活から狂気の世界に突入していくさまは、いろんな制限を超越した境地だ。いつの時代でも一芸に秀でたものは、どこか普通とは違う鋭い狂気のようなものを持っているように感じられる。人間の心の動きを、深い洞察力で表し、時代の空気と共に表現した稀有な一冊。浮世離れしたいときにどうぞ。