2021年に刊行された伊集院静さんの人気エッセイ「大人の流儀」の10巻め、『ひとりをたのしむ』の中で、
自身の短編が絵本となって多くの読者を得たことを喜んでいる一節があった。
その本が『親方と神様』で、絵本や児童書の出版で定評のあるあすなろ書房から2020年に刊行された。
よく目にする単行本の判型ではないが、絵本というよりも児童書と呼んだ方がすっきりする。
もちろん、折々に入る木内達朗さんの挿絵も魅力ではあるから。それも楽しめる。
物語は「まだ町や村のどこかに鍛冶屋があった時代の話である」という文章から始まる。
最近では鍛冶屋といってもドラマや映画で見かけることはあっても
なかなか実際目にすることはない。
鋼と火を相手の職業に後継者も見つからないということであろうか、
それはこの物語の時代でもそうだった。
鍛冶職人として人生の大半を過ごしてきた六郎の前に、鍛冶職人になりたいという少年が現れる。
そんな少年の先行きを案じる母親が六郎のところを訪れ、
その夢をあきらめさせて欲しいと頼みに来る。
六郎は悩む。悩みながらも、この年になって純粋な目をした少年に会えたことに感謝している。
そして、かつて弟子入りしたばかりの六郎を連れて親方が連れていってくれた山間の神社へ少年とともに足を運ぶ。
そこで六郎はこんなことを少年に話す。
「今はすぐにできんでもひとつひとつ丁寧に集めていけばいつか必ずできるようになる」
それは六郎の親方の言葉でもあった。
これから大人への道を歩もうとする若い人へ、何をどう伝えていくか、
それこそ大人の器量だし、大人の流儀が試されるのだろう。