初めこの作品を目にした時には、表紙の作者“やしまたろう”にピンと来ませんでした。
二度目、もしや八島太郎では?と折り返しカバーの作者の略歴を読み、開いた作品です。
『蟹工船』が近年再びブームになっていますが、あの拷問死した小林多喜二の友人で、彼の死顔をスケッチした八島先生でした。
ご自分も反軍国主義の思想を貫き、1939年に渡米された事を聞き知っていました。
この作品は、先生の二人の恩師の方をモデルとする教師(やしま先生)が、学校に居場所を見つけられず存在を認められていない主人公を見守り導き、彼の生活の背景を改めて同級生たちに気付かせ、さらに彼の特技を披露する機会を与えたというお話です。
学校生活の中では伺えない生徒一人一人の家庭環境。
それは黒板の前では必要のないことですが、教師は熟知し考慮たうえで生徒たちを導いていくことが大切であることが伝わってきます。
学習に喜びを見いだせる子どもだけが、人として存在価値があるわけでは無い事をいそべ先生は作中で静かに周囲の生徒に伝えていきます。
お話は90年も前の日本の小学校が舞台ですが、内容は現代にも見られる差別やいじめについて描かれています。
他人を「人間」としての尊厳のまなざしを失い見つめるところから、愚かしい蔑みや先入観・偏見が生まれます。
この世に生を受けた者は等しく存在し生きる権利のあることを大人になっても忘れない人物に育って欲しいと願ってやみません。
人は認められ、初めてその社会(共同体)の中で、心置き無く呼吸でき生かされる存在となるのだと教えられる作品でした。