●女の子とウラオモテヤマネコのひとつの恋の物語
───ウラオモテヤマネコという名前も存在も気になりますが、読んでいる間はずっと、どこか別の世界のことが気になるような気持ちになりました。
ありがとうございます。この絵本は前作『さいごのぞう』(キーステージ21)で売り上げの一部を寄付させて頂いたトラゾウ保護基金から、2015年はイリオモテヤマネコが発見されてから50年だという話を伺い、それをテーマにした絵本を作りたいと思ったことがきっかけで生まれました。
───イリオモテヤマネコって沖縄県の西表島に生息するヤマネコですよね。
そうです。1965年に児童文学作家の戸川幸夫さんが発見したヤマネコで、現在は100匹前後しか生息が確認されていません。個体数が減ってしまった原因のひとつに人間による開発や交通事故があると知って、今なら、次の50年に向けて何かできるんじゃないか、と思いました。
───そうして生まれたのが、「ウラオモテヤマネコ」というキャラクターなんですね。
───絵本の本編はイリオモテヤマネコに関することが直接的には書かれていませんね。ウラオモテヤマネコと女の子の出会いや、その後のやりとりなどストーリーが楽しめる作品だと思いました。
ただ声高にイリオモテヤマネコの保護を描くよりも、ウラオモテヤマネコという気になる存在を登場させる物語にすることで、まず子どもや大人、ネコ好きの方など多くの人に読んでもらえる本にしたいと思ったんです。そこから保護に関心を持つ層を広げられると嬉しいです。
───たしかに。ひょうひょうとしていて、世界を客観的に見続けているウラオモテヤマネコというキャラクターはとっても個性的です。でも、ただ冷静に見守るだけの存在なのかと思うと、少女の願いを何でも叶えてあげたいと思う情熱的な一面も持っていますよね。
編集担当の小林さんにこの物語のラフ(下絵)を見せたとき、「これは一種の恋のおはなしですね」といわれたんです。自分自身では気づいていない視点でしたが、新鮮な視点で嬉しく思いました。
───ウラオモテヤマネコが女の子に抱いている想いと、女の子がウラオモテヤマネコに抱いている想いには、少し違いがある様に思いました。
ウラオモテヤマネコの恋は人間の恋とは違って、もっと超越した感情として描きたかったんです。女の子にとっては禁断の恋かもしれませんね。作品を描き上げた後、小林さんには「これは女の子の罪と罰の物語ですね」ともいわれました。
───「罪と罰」、すごい表現ですね。「罪」というのは、どういうところを指しているのでしょうか?
堀之内出版・小林:まず、この女の子がすごくワガママで生意気に描かれていると思ったんです。でも、その無邪気な残酷さは、ふつうの女の子。そして女の子だけでなく、人間だれしもが持っている傲慢さ、罪です。でも、その傲慢が罰を受けることもある。これが正解ということではなく、そう読むこともできました。「ちがうのでは」など、色々な読み方が出てくるとうれしいですね。
───1度読んだだけでは感じられない、深い部分のおはなしを伺えて、2度3度と読み返したくなりますね。