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《スペシャルコンテンツ》インタビュー

2015.09.03

『ウラオモテヤマネコ』
井上奈奈さんインタビュー

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『ウラオモテヤマネコ』井上奈奈さんインタビュー

裏の世界と表の世界を行ったり来たりする不思議なヤマネコと一人の少女との出会いを描いた絵本『ウラオモテヤマネコ』(堀之内出版)。前作『さいごのぞう』で、地球で最後の一頭となったゾウの物語を描いた井上奈奈さんは、同じく危機に瀕するイリオモテヤマネコが発見50周年を迎えるにあたり、この物語を構想したと言います。発刊の経緯や物語に込められた想い、細部までこだわり抜いた装丁などについて、井上さんと編集担当の小林えみさんに話を伺いました。

ウラオモテヤマネコ
ウラオモテヤマネコの試し読みができます!
絵・文:井上 奈奈
出版社:堀之内出版

「まぁ裏の世界からみれば 裏が表で表は裏なのだけれど」 やさしく、かなしい、ネコが主人公のうつくしい絵本たちは、大人にも子供にも、長く愛されてきました。 2015年、そうしたネコの絵本に新たな1冊が加わります。少女とネコはさまざまな宇宙を旅します。 うつくしさ。永遠。想い。幸福。描かれているのは、世界。 本作品は、2015年、イリオモテヤマネコ発見50周年を記念して刊行されます。 本作品の売り上げの一部は、イリオモテヤマネコ保護基金に寄付されます

女の子とウラオモテヤマネコのひとつの恋の物語

───ウラオモテヤマネコという名前も存在も気になりますが、読んでいる間はずっと、どこか別の世界のことが気になるような気持ちになりました。

ありがとうございます。この絵本は前作『さいごのぞう』(キーステージ21)で売り上げの一部を寄付させて頂いたトラゾウ保護基金から、2015年はイリオモテヤマネコが発見されてから50年だという話を伺い、それをテーマにした絵本を作りたいと思ったことがきっかけで生まれました。


イリオモテヤマネコ(石垣島海辺.COMより)

───イリオモテヤマネコって沖縄県の西表島に生息するヤマネコですよね。

そうです。1965年に児童文学作家の戸川幸夫さんが発見したヤマネコで、現在は100匹前後しか生息が確認されていません。個体数が減ってしまった原因のひとつに人間による開発や交通事故があると知って、今なら、次の50年に向けて何かできるんじゃないか、と思いました。

───そうして生まれたのが、「ウラオモテヤマネコ」というキャラクターなんですね。

「ウラオモテヤマネコ」という存在が私の頭に浮かんできたのは、絵本を作ろうと思ったときより前、西表島へ旅行にいったときです。そこで出会ったお婆さんに「イリオモテヤマネコはよく見るんですか?」と聞いたら、「80年ここに住んでいるけれど、会ったことは一度もないね」とおっしゃったんです。それを聞いて、人目に触れない理由は表の世界にいないときは裏の世界にいるんじゃないかと思ったんです。そんな不思議な存在として、ヤマネコイメージを広げるようになりました。

───絵本の本編はイリオモテヤマネコに関することが直接的には書かれていませんね。ウラオモテヤマネコと女の子の出会いや、その後のやりとりなどストーリーが楽しめる作品だと思いました。

ただ声高にイリオモテヤマネコの保護を描くよりも、ウラオモテヤマネコという気になる存在を登場させる物語にすることで、まず子どもや大人、ネコ好きの方など多くの人に読んでもらえる本にしたいと思ったんです。そこから保護に関心を持つ層を広げられると嬉しいです。

───たしかに。ひょうひょうとしていて、世界を客観的に見続けているウラオモテヤマネコというキャラクターはとっても個性的です。でも、ただ冷静に見守るだけの存在なのかと思うと、少女の願いを何でも叶えてあげたいと思う情熱的な一面も持っていますよね。

編集担当の小林さんにこの物語のラフ(下絵)を見せたとき、「これは一種の恋のおはなしですね」といわれたんです。自分自身では気づいていない視点でしたが、新鮮な視点で嬉しく思いました。

───ウラオモテヤマネコが女の子に抱いている想いと、女の子がウラオモテヤマネコに抱いている想いには、少し違いがある様に思いました。

ウラオモテヤマネコの恋は人間の恋とは違って、もっと超越した感情として描きたかったんです。女の子にとっては禁断の恋かもしれませんね。作品を描き上げた後、小林さんには「これは女の子の罪と罰の物語ですね」ともいわれました。


───「罪と罰」、すごい表現ですね。「罪」というのは、どういうところを指しているのでしょうか?

堀之内出版・小林:まず、この女の子がすごくワガママで生意気に描かれていると思ったんです。でも、その無邪気な残酷さは、ふつうの女の子。そして女の子だけでなく、人間だれしもが持っている傲慢さ、罪です。でも、その傲慢が罰を受けることもある。これが正解ということではなく、そう読むこともできました。「ちがうのでは」など、色々な読み方が出てくるとうれしいですね。

───1度読んだだけでは感じられない、深い部分のおはなしを伺えて、2度3度と読み返したくなりますね。

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井上 奈奈(いのうえなな)

  • 京都府舞鶴市生まれ、東京都在住。猫と活字をこよなく愛する画家・アーティスト。16歳のとき、単身アメリカへ留学、美術を学ぶ。武蔵野美術大学卒業。

    作品は女性や動物を題材とした物語性を感じる絵画を制作。NYや上海など国内外でのギャラリーやアートフェアにて発表を続ける。近年では絵本作品を発表、代表作に『さいごのぞう』(日本図書館協会選定図書)や『ウラオモテヤマネコ』がある。雑誌や書籍の装画なども手がけている。

作品紹介

ウラオモテヤマネコ
ウラオモテヤマネコの試し読みができます!
絵・文:井上 奈奈
出版社:堀之内出版
さいごのぞう
絵・文:井上 奈奈
出版社:キーステージ21
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