2006年、絵本業界にそれまでの常識をくつがえす、強いインパクトを持つ絵本が誕生しました。それが『こびとづかん』です。奇妙なビジュアル、ぶきみな表情、へんてこな生態を持つコビトは、子どもたちの熱狂的な支持を受け、今やシリーズ6点、その累計発行部数は270万部を突破する大ベストセラーになりました。2016年、「こびとづかん」シリーズは10周年を迎えます。新たな節目を迎えた年に、作者のなばたとしたかさんにおはなしを伺いました。『こびとづかん』誕生のヒミツや、コビトへの思い、そして10周年記念で考えている新たなチャレンジなどなど内容は盛りだくさん。なばたさんの新しいアトリエのお写真も必見です!
●祝! 「こびとづかん」10周年!
───「こびとづかん」シリーズ、10周年おめでとうございます!
ありがとうございます。自分自身、10年前に描いた本がこんなにも長く多くの方に読まれるとは思っていなかったので、とても嬉しいです。
───一冊目の『こびとづかん』から、最新刊の『こびと大図鑑』まで。10年の間に6冊もの「こびとづかん」シリーズが発売されています。そもそもなばたさんがコビトを思いついたきっかけを伺えますでしょうか?
そうですね。コビトのことを話す場合、子どもたちに話すときと、大人に向けて話すときでは、自分の立場を変えているんです。子どもたちはコビトが実在していると信じているので、ぼくは「こびと研究家」として、コビトとの出会いを話します。今回は大人の方がメインということで、大人向けで……(笑)
───はい、大人向けでお願いします(笑)。
ぼくは小さいとき、すごく臆病な子どもでした。物音とか暗闇とかに何かが潜んでいるような気がして、ひとりでは家の二階にも上がれないくらい怖がりだったんです。でも、あるとき、身の回りで起きているふしぎなこと……例えば、風もないのに草がざわざわと揺れたり、トイレットペーパーが三角折りになっていたり……。そういうことを、小さいふしぎな生き物がやっているんじゃないかと思ったら、怖さがスーッとなくなっていったような気がしました。ふしぎなできごとを当てはめていくために生み出したのがコビトでした。
───子どものころの怖さを軽減させる方法として、発想したのがコビトだったんですね。想像の中のコビトも、今のようなビジュアルだったのですか?
そのときはまだ、明確なビジュアルまでは考えていなかったと思います。コビトのビジュアルを思いついたのは専門学校を卒業して、地元の石川県で働いていた23歳くらいのとき。絵の仕事に就きたいと思って、地元のアートフェスタなんかに作品を出展していたんです。そのとき、作品として描いてみたのがこの『こびとづかんDX』でした。
───『こびとづかんDX』の中にはすでに、「クサマダラオオコビト」や「リトルハナガシラ」など、絵本に登場するコビトが載っていますね!
そうなんです。これを「500部作って、完売したら出版社に売り込みをしよう」と思って、いろいろなイベントに持っていっていました。ありがたいことに、1、2年で完売することができたので、本屋で、自分の本を出してくれそうな出版社を探したんです。そこで見つけたのが空想の生き物をテーマにした「図鑑」のような本でした。もしかしたら、これを作った人なら分かってくれるかもしれないと思い、すぐにその出版社に『こびとづかんDX』を送ったんです。それが、今日までずっと「こびとづかん」シリーズを支えてくれている編集者さんとの出会いでした。
───その編集者さんと出会って、すぐに『こびとづかん』を絵本にすることが決まったのですか?
ぼくの思惑通り、編集者さんは『こびとづかんDX』をすぐに気に入ってくれました。でも、これをどういう形で誰に当てて出版するか、とても悩んでいたようです。でもある日、自宅に持ち帰った『こびとづかんDX』を見つけた小学生の娘さんが、面白がってくれて、「学校に持って行きたい」と言ったそうです。それで学校に持たせてみると、教室中の子どもたちの人気になりました。これがきっかけで、編集さんは子どもに見せる本にしようと決心したそうです。
───当時からすでに子どもたちには大人気だったんですね。
そうなんです。ただ、ぼくは『こびとづかんDX』の形のまま本になるもんだと思っていたので、編集さんが「絵本にしよう」と言ってきたのにはビックリ! それまで、絵本を作ることなんて想像もしていませんでしたし、子どものころに絵本を読んだ記憶もほとんどありませんでしたから。だから、どうやったら絵本ができるのか、まったく分からなかったんです。この形になるまで、編集さんと2年くらい遠距離のやり取りを続けました。
───絵本のおはなしを思いついたきっかけは何だったのですか?
クサマダラオオコビトの抜け殻を見つけるというエピソードを思いついたことです。そこからストーリーがバーッと浮かんできて、試行錯誤を重ねながら、なんとか一冊目の『こびとづかん』のおはなしが完成しました。
───最初に、パグ犬のガルシアがくわえてきた、全身タイツのようなものですね。絵本では男の子がじいじにコビトのことを教えてもらい、身近にいるコビトを探しに行くというおはなし。物語の舞台が緑いっぱいで、いかにもコビトが生息していそうでした。
絵本の背景は、石川県輪島の祖父の家の風景をモデルに描いています。ぼくが小さいころ、ここにコビトがいるんじゃないかと思っていた場所です。
───絵本の中にも、そこかしこにコビトが潜んでいて、見つけることができると、とても楽しいです。クサマダラオオコビトやリトルハナガシラなど、『こびとづかんDX』の中に登場するコビトが、絵本にも登場しますね。
そうですね。絵本はストーリーも楽しめるように工夫しつつ、コビトの詳細も掲載できるように内容を考えるのがとても苦労しました。でも、絵本にできて本当によかったと思っています。絵本だからこそ、長い間書店に置いてもらえて、10年たった今でも、この『こびとづかん』を手に取ってくれる子どもたちがいるんですよね。コビトが今も子どもたちの人気者なのは、この絵本のおかげなんです。
───2006年に『こびとづかん』が出版されて、1年後に第二弾となる『みんなのこびと』が発売されていますね。
『こびとづかん』の中で登場させることのできなかったコビトがまだまだたくさんいたので、そのコビトたちを全部出したいと思って、描いたのが『みんなのこびと』です。
───『こびとづかん』に登場した男の子がコビトを研究するコビト博士になって、世界中の子どもたちからコビトに関する質問が届くというストーリーがとても面白かったです。
ありがとうございます。コビトの設定はあったのですが、一冊目と同様、ストーリーを思いつくまでが大変でした。でも、子どもたちの質問に答えるという設定を思いついたことで、ストーリーが動き出しました。
───この「コビト博士」になった男の子は、なばたさんがモデルになっているのですか?
読者の方にもそう質問されるのですが、コビトの世界はぼくの実家の周りの景色がモデルになっているくらいで、人物などはまったくのオリジナルなんです。
───そして3冊目から5冊目が『こびと大百科』『こびと観察入門(1)』『新種発見! こびと大研究』の「観察ガイドブック」シリーズ。今までの2冊と違って、コビトひとりひとりの特徴や暮らしぶりが詳細に紹介されているところや、絵ではなく、写真で紹介されているところにビックリしました。
絵本を2冊発表したので、何か形を変えてみようと考えたのです。そもそも、最初にコビトを考えたときに作ったのは、絵ではなくフィギュアだったんです。それを標本用の額に入れ、「コビト標本」にしてみました。でも、その姿がまったく魅力的でなくて……。それじゃあと、庭の草の中に置いたら、本物の生き物のように、生き生きとして見えました。すべてのコビトでこれをやったら、きっとすごいことになると思って、いつかやりたいと思っていたんです。それをまとめたのが、この「観察ガイドブック」シリーズです。
───「クサマダラオオコビトのくらし」や籠もりフルーツの中に紛れ込んでいる「カクレモモジリ」など、どうやって撮影したのか気になる写真がたくさん載っていたのですが……。
『こびと大百科』はまだ石川県で制作をしていたころで、コビトを知っている人もほとんどいなかったので、ぼくが自分で本の構成を決めて、写真を撮りに行きました。「リトルハナガシラのおびきよせ方」は近くの広場に鶏肉と罠を持っていってデジカメで撮影。「カクレモモジリ」や「オオヒレカワコビト」が出荷されている写真は、近くのスーパーにお願いして、撮影させてもらっています。
───全部、なばたさんがひとりで撮影したんですか?
そうです。『こびと観察入門1⃣』と『新種発見! こびと大研究』のときは、コビトも人気になっていたので、映像や撮影チームを組んで、本を作ったのですが、『こびと大百科』はほとんどぼくひとりで撮影を行いました。
───実際の風景の中にコビトが映り込んでいる写真は本当にリアリティがありました! これを見たら、子どもたちの多くが、コビトは実在すると思ったのではないですか?
サイン会などを行うと「コビトを見つけるにはどうしたらいいですか?」と聞かれることが増えました。ぼくはいつも「いろいろなことに興味を持てば、おのずとコビトに出会える」と伝えています。もし、出会えなくてもコビトの痕跡は見つけられると思います。それに、本を読んで、外に出てコビトを探すことで、ほかのいろいろなことに興味を持ってくれると思うんです。コビトを入り口に、動物や昆虫、植物が好きになってくれる子がいるとすごく嬉しいですね。