●「ガンに対する思い入れは、動物園の飼育係時代から」
───今回の『新世界へ』では、「カオジロガン」という鳥が主人公になっていますよね。カオジロガンという鳥は、私たちには聞きなれない動物なのですが、なぜカオジロガンを主人公にしてお話を描こうと思ったのですか?
その話をするためには、私の動物園時代の話からしなきゃならないんだけど…。
───ご存知の方も多いかと思いますが、あべさんは北海道の旭山動物園で25年間飼育係として働かれていたんですよね。
はい。動物園の飼育係になって10年くらいたつと、飼育係としてどういうテーマを持って動物を飼育していくか、どの動物の専門知識を身につけたいかを考える時期がやってきます。その時、私がいちばんやりたいと思ったのが、フクロウ、ワシ、タカなど猛禽類、そしてカモやガン、白鳥やシギなどの水禽類だった。当時、猛禽類や水禽類はあまり注目されていなかったんだけど、旭山動物園では猛禽類と水禽類の専用動物舎を作ったりしたんだよ。
───動物園というとパンダやゾウ、コアラなんかが人気ですが、あえて鳥類を選ばれたんですね。
───動物園に研究機関としての役割があったなんて、初めて知りました。
ガンに関しては旭山動物園以外には、仙台の八木山動物園や多摩動物園と一緒に飼育や繁殖の共同研究を行った。僕自身、もともとガンに対して強い思い入れがあったんです。そもそも、ガンは日本人にとってとても身近な鳥なんだよ。
───そうなんですか? スズメやハトだと身近に見るんですが…。
───がんもどきにそんな由来があったなんて、知りませんでした。
日本に一番たくさん来るのは「マガン」で、毎年10万羽近くやってくる。その全てが仙台近くの沼に滞在する。毎日10万羽が朝飛び立ち、夕方戻ってくる…研究のために何度も遭遇したけれど、ものすごい迫力。今回、絵本に描いたカオジロガンは、日本に来ない種なので、実物を見たことはなかったんだけど、私が北極に行った時期には子育てのため北極にいるのは知っていたので、会えたらいいな…くらいの期待を持っていた。実際には北極について3、4日目くらいに出会えて、こんなに早く出会えるなんて…とかなり興奮したんだよね。
───そのときから、絵本にしたいと思っていたんですか?