1988年に誕生以来、幅広い世代の読者の心をつかんでロングヒットを飛ばしている絵本「ゆうたくんちのいばりいぬ」シリーズ(あかね書房)を知っていますか? いばり顔の犬「じんぺい」と、飼い主の男の子「ゆうた」とその家族を描いた絵本です。
作者はきたやまようこさん。同シリーズで講談社出版文化賞絵本賞を受賞し、『りっぱな犬になる方法+1』(理論社)や「いぬうえくんとくまざわくん」シリーズ(あかね書房)などでも人気を博しています。
このたび「ゆうたくんちのいばりいぬ」シリーズ誕生30周年を記念して、『ゆうたのおじいちゃん』『ゆうたのおばあちゃん』が2冊同時発売となりました。待望の新刊制作エピソードや、「じんぺい」誕生秘話をあらためてうかがうことができました。ファン必見です!
- ゆうたのおじいちゃん
- 作:きたやま ようこ
- 出版社:あかね書房
ゆうたがおじいちゃんの家へあそびにいくときは、もちろん、いばりいぬのじんぺいもいっしょ。おじいちゃんがはりきって散歩にさそうと、じんぺいはしっかりつきあってくれる。その様子に、ほのぼのしたり笑顔になれるおはなし。
- ゆうたのおばあちゃん
- 作:きたやま ようこ
- 出版社:あかね書房
ゆうたがおばあちゃんの家へあそびにいくときは、もちろん、いばりいぬのじんぺいもいっしょ。おばあちゃんは、おうちでじんぺいといろんなことをするのが大すき。似てるようでちがうところが、ふんわりユーモラスに描かれる。
●ずっと心の中にもっていた2冊
───「ゆうたくんちのいばりいぬ」シリーズ誕生30周年、おめでとうございます! ロングセラーに『ゆうたのおじいちゃん』『ゆうたのおばあちゃん』が加わることになり、ファンはわくわくしていると思います。
久しぶりのシリーズ続刊には、何かきっかけがあったのでしょうか?
1988年に『ゆうたはともだち』『ゆうたとさんぽする』『ゆうたのゆめをみる』3冊を第1集として同時に出して、翌年『ゆうたとかぞく』『ゆうたのおかあさん』『ゆうたのおとうさん』の3冊を第2集として出したあと、読者から「わたしはおじいちゃんなんですけどおじいちゃんの本も描いてください」「おばあちゃんの本も作ってください」という要望を、実はいただいていたんです。
───出版がはじまってすぐの頃に、そんなリクエストがあったんですね。
出版してまず驚いたのは、読者年齢の幅広さでした。3歳くらいから楽しんでくれるかなと思って描いたら、愛読者カードに書かれている年齢が0歳から84歳まで、本当に幅広いの。子どもだけでなく、大人も「自分の本」として楽しんでくれていることにびっくりしました。
要望に応えようと「ゆうたのおじいちゃん」「ゆうたのおばあちゃん」を描きはじめて8割方はできたんですけど、「待てよ」と。最初に「ゆうたくんちのいばりいぬ」シリーズを描き始めたときこんなふうにつづけるつもりじゃなかったなと思ったの。
これはじんぺいの本であって、つづけるとしたら何を描くべきだろうかと考えたとき、犬にとっていちばん大事な「散歩」のことが抜けていると気づいたんですね。
『ゆうたとさんぽする』は、散歩に出発するまでで、散歩そのものについては描いていなかったから。
───『ゆうたとさんぽする』は、じんぺいは服を着たりする必要はないんだけど、ゆうたが身支度するのを待って、「おれ さんぽに いく。おまえ ついてくる。」で終わりますよね。じんぺいがゆうたの前を歩いていく絵、大好きです(笑)。
犬にとって散歩は、単なる運動じゃなく、情報収集や、生きるためのいろんなことが詰まった、犬の生活の中ですごく重要な時間なの。シリーズをつづけるならまず「散歩」を描いて、そのあとに「おじいちゃん」「おばあちゃん」を描いたら、ひと味ちがうものが描けるんじゃないかと思ったのね。それで、わたしのなかで順番が逆になって、先に生まれたのが『こんにちは むし』『こんにちは ねこ』『こんにちは いぬ』の3冊だったんです。
───では、その後、別巻も2冊出たけれど、本編は完結だったわけではなく……?
わたしは完結という気持ちはなくて、いつかおじいちゃんおばあちゃんを描きたいという気持ちを抱えたまま、きっかけを失っていたんです。
今年、シリーズ誕生30周年に何かやりましょうという話があったとき、心にずっともっていた『ゆうたのおじいちゃん』『ゆうたのおばあちゃん』を描いてみようと思いました。それで出来上がったのがこの2冊です。
───描いてみていかがでしたか。
おじいちゃんのほうが難しいかなと思ったけれど、すんなり描けました。おばあちゃんのほうが、入れたいページがいろいろあって、どれを入れてどれを削るかを悩みましたね。
27、8年前に描こうとしたときは、おじいちゃんおばあちゃんのイメージが、自分の父親・母親だったの。今はほどよく自分たちの世代もまざって、年をとるにつれてできなくなってきたことや、ちょっと余裕が出てきたところなんか、客観的に描けたんじゃないかなと思います。
───おじいちゃんはひろしさん。おばあちゃんはじゅんこさん。わが家の子たちもこのシリーズが大好きなのですが、冷蔵庫に貼った紙にメモを書く、おばあちゃんのじゅんこさんを見て「ばぁばみたい」と言っていました。
そんなふうに自分のおじいちゃんやおばあちゃんみたいだと思って読んでもらえると、嬉しいですね。うちの母も縫い物が好きで、よく犬の服を縫っていましたよ。
───どの巻も、最後のじんぺいの言葉にぐっときます。今回もそうですね。「おばあちゃん はなしたいこと なんでも はなせ。おれ ぜんぶ きいてやる」。
うちで最初に飼った犬の、初代シベリアンハスキーは「チェス」という名前だったんだけど、チェスが亡くなったとき、ときどき散歩をしてくれていた近所の奥さんが来てくださって、「チェスちゃんにたくさん話を聞いてもらった」と言うのね。当時ご家族のことでいろいろ大変だったのを、ぜーんぶ散歩しながらチェスに話して、聞いてもらったんだって。
───大人も毎日いろいろありますよね。じんぺいとおじいちゃんの関係、じんぺいとおばあちゃんの関係、どちらも素敵です。子どもだけでなく、大人がこのシリーズを自分のために読みたくなる気持ちがわかります。