絵本ナビオフィスの机の上に置かれていた筒状の箱。中身はお菓子?
パッケージには絵本作家さんの絵が描かれていて、作家さんとパティシエのクレジットが入っています。食べてみると・・・これがおいしい!!
実はこれはパティシエがレシピを作り、障がい者就労支援施設に通う方々が一つ一つ手作りし、絵本作家さんがパッケージに絵を描いた、お菓子のシリーズ。
荒井良二さん、
いわむらかずおさん、
村上康成さんなど絵本作家さんが、障がい者自立のためのお菓子プロジェクト「テミルプロジェクト」に賛意を示し、絵を描いていらっしゃいます。
プロジェクトから生まれた絵本「ハリエさんとゆかいななかまたち」シリーズ、『うれしいかおってどんなかお?』『おかしをじょうずにつくるには?』(ともに
山本省三・文、
西内としお・絵)に「ふなにぃ」「ぶんぶん」として登場する、テミルプロジェクト事務局の船谷博生さん、中尾文香さんにお話をうかがいました。
※「テミルプロジェクト」ってなに? 先に詳しく知りたい方はこちら!>>>
- うれしいかおって どんなかお?
- 文:やまもと しょうぞう
絵:にしうち としお
監修:テミルプロジェクト - 出版社:クラブハリエ
まゆちゃんは知的障がいを持っています。知的障がいや精神障がいを持つ人は、自分の感情を上手に伝えられない場合があります。この絵本では、笑顔になるほどの楽しい気持ちを感じているけれど、その気持ちを伝えられないまゆちゃんを主人公としました。
まゆちゃんを通して、「自分のことを伝えるのが苦手な人もいるけれど、みんながいろんなことを感じるのを同じように、彼らもいろんなことを感じるんだよ。」ということを多くの子どもに分かって欲しい、この絵本がその理解の一助となればと考えています。
(監修 テミルプロジェクト)
- おかしをじょうずにつくるには
- 文:やまもと しょうぞう
絵:にしうち としお
監修:テミルプロジェクト - 出版社:クラブハリエ
バームの森のお菓子作りの名人ハリエさんのところへ、チョコりんがやってきました。
「アーモンドショコラのつくりかた、おしえてくれるかな?」
ハリエさんから教わったとおり、早速チョコりんもアーモンドショコラづくりをしてみます。
ところが、おなべからけむりがもくもく、ココアの粉をひっくり返して、しっちゃかめっちゃか!?
「うひゃあ、なんで こうなるのかな!」
すると、様子を見にきたハリエさんが大急ぎで・・・?
ハリエさんが呼んでくれたアーモンドドラゴンが手伝ってくれればもう大丈夫。
チョコりんにだって、上手にアーモンドショコラがつくれます!
「チョコりん、すごい!!」
●2冊の絵本ができるまで
この可愛らしいパッケージ!とても気になりますよね・・・。
───まず、正直言ってお菓子のおいしさにびっくりしました! こんなにおいしいお菓子はどうやってできるんだろうという疑問はひとまず横に置いて(笑)、絵本のことからお聞きしたいと思います。
シリーズ「ハリエさんとゆかいななかまたち」の『うれしいかおってどんなかお?』はどうして生まれたんですか。
テミルプロジェクト事務局の船谷さん(右)と中尾さん(左)に詳しくうかがいました!船谷:私たちは社会福祉士として障がい者が社会に出ていくためのプロジェクトを運営してきましたが、ずっと前から絵本を作りたかったんです。
いまの社会では、障がい者の人たちは、一般の生活からある意味隔離されているので、互いに触れあう機会が少ないですよね。たとえば電車の中で障がい者の人が大声を出すと、彼らのことを知らないからびっくりしたり、こわいと感じてみんな不審な目で見てしまう。
でも持っている感情は同じ。たとえば、おいしいものを食べて「おいしい」って思う気持ちはみんな同じなんです。ただ気持ちをあらわす方法が違うだけ。それをわかってもらえる絵本を作りたいなあと思っていたら、クラブハリエ(※)さんに協力していただけることになり、山本省三さんに文章を、西内としおさんに挿絵をお願いして、絵本を作ることができました。
※クラブハリエはバームクーヘンなどで有名な洋菓子製造販売会社。サイトはこちら>>>
───お話は、森に住む「ハリエさん」が作ったチョコレートがあんまりおいしいので、なかまたちはみんな一口食べて泣いちゃったり、びっくりしたり、くるくる回ったり「ぐわあ、なんだこのあじは!」と怒り出しちゃったり(笑)。でもまゆちゃんはうつむいて何も言わないんですよね。
中尾:おいしくてもうれしくても、まゆちゃんは黙って立ったまま。蜂の「アビー」が「きもちをあいてにつたえるのが にがてなこもいるんだビー」と言うのですが、本当にそのとおりなんです。
───ハリエさんがくるっとぼうしをまわして、アビーが魔法のキラキラをふりかけると・・・まゆちゃんが心の中ではニッコリ笑っているのが見えます。
船谷:現実はなかなかそういうわけにいきませんが、でもそんなまゆちゃんを周囲が理解してくれたらいいなあと思うんです。
ハリエさんとなかまたちは「これからうれしいときは、てをパタパタさせよう!」と言います。最後は「よし、おやつパーティだ!」と言うハリエさんに、まゆちゃんも他の人もみんなそろって手をパタパタ(笑)。
───手をパタパタさせて「うれしい!」の気持ちを伝えあうところ、とってもいいなあと思います。
ちなみにハリエさんは魔法を使えるんですよね。魔法使いなんですか?(笑)
中尾:ハリエさんは「お菓子作りの名人」です。ぼうしを回すと魔法が使えます。モデルがいるんですが、そっくりです。
───そっくり?(笑) どなたですか。
船谷:クラブハリエのグランシェフ、山本隆夫シェフその人です。最初のラフではこんなに毛むくじゃらではなかったんですが・・・だんだんこんな顔になりました(笑)。
───ハリエさん、笑顔がかわいいですよね。登場人物の中に船谷さんと中尾さんもいらっしゃるとお聞きしたのですが(笑)。
中尾:はい。絵本の中の「ふなにぃ」が船谷で、「ぶんぶん」が私です。クラブハリエさんに打ち合わせでうかがうと「あ、ふなにぃさん、ぶんぶんさん。ハリエさん上で待ってますよー」とスタッフの方に声をかけられます(笑)。
他に「リジー」は障がい者就労支援施設の理事長、「まっきーさん」は施設長だったりと、それぞれモデルにそっくりです。私も西内としおさんに「すごく描きやすい顔してるよ」と言われて内心ショックでした(笑)。
───西内としおさんはどのようにして参加されたのでしょうか。
船谷:フェイスブックを通じて「テミルプロジェクト」の支援者になってくださった方が阿佐ヶ谷美術専門学校の方でした。西内さんも阿佐ヶ谷美術専門学校ご出身なので、その方を通じてお人柄をうかがい、ご連絡差し上げてひきうけてくださることになりました。
奮闘するチョコりん!───2冊目の『おかしをじょうずにつくるには?』はアーモンドショコラを作りたい「チョコりん」が悪戦苦闘するお話ですね。1人で作ろうとするとうまくいかないのですが、アーモンドを煎るのが得意なアーモンドドラゴンに手伝ってもらうと、うまくいって、おいしいアーモンドショコラのできあがり!
苦手なところは、それが得意な人に手伝ってもらう。それぞれの能力を生かすとすてきなものができるんですね。
中尾:そうなんです。たとえば100個のクッキーを作るとき、私たちは、いかに100個全部のクッキーを効率よく作るかに目がいって、目の前のクッキーが「100個のうちの1個」になってしまいますよね。でも、そんなことを考えない障がい者の方はすべて「1個のうちの1個」。一つ一つを丁寧に成形します。時間や手間はかかるけれど、それだけ完成度の高いきちんとした物作りをする。
またある障がい者の方は一日中クッキーの型ぬきを洗いつづけることができる。集中して根気よく、ずっと洗う仕事をしてくれるんです。
人はそれぞれ、得意なことは違う。でも力を出しあうとすごくいいものが作れます。
アーモンドドラゴンのおかげで無事「アーモンドショコラ」のできあがり!
───チョコりんにもモデルがいるんですか?
船谷:います。実は、2012年にアメリカで行われた国際製菓コンクールのチョコレートピエス部門で優勝した小野林範シェフです・・・(笑)。
───ええっ。プロですね? しかも優勝者!?
船谷:はい。設定では「まゆちゃん」と同じ、苦手なことがあってうまくいかない人物ということになりますが(笑)。
ちなみにアーモンドドラゴンはおじいさんドラゴン。年寄りの知恵はすごいんだぞ、という意味も込められています。
2冊とも「感情を出すのが苦手な子がいて、でも、おいしいと思う気持ちは同じなんだよ、という話にしてください」というふうに設定と筋書だけをお伝えして、あとは山本省三さんにストーリーをお願いしましたが、あっという間にラフができてびっくりしました。たくさんのなかまたちにめぐまれて、一緒に絵本作りをすることができました。
───2冊とも遊び心とメッセージが詰まっていますね。