絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  「ぐりとぐら」の生みの親が贈る、心がほぐれる45のメッセージ『子どもはみんな問題児。』中川李枝子さんインタビュー

絵本を読めば子どものことから、その子のお母さんのことまで分かるのよ。

───中川さんは17年間、世田谷区駒沢公園にあった「みどり保育園」で保母さんとして子どもたちと接してこられましたが、保育園で絵本を読むことは、家庭で読むこととは違う感覚でしたか?

そうね。保育園は公共の場ですから、時速250キロでは読まないわね(笑)。みどり保育園はほとんど3年か4年保育で、入園式はなく、入った子が保育園に慣れて私たち保母の手がかからなくなったら次の子をひとり預かるという形だったの。保育園に来る子には、初めが肝心。ひとりずつみっちり、スキンシップからはじめます。少しずつそばに行って、その子に気に入られるようにして、抱っこができるようになり、自然にはなせるようになる。最初から絵本を読むことはできないのよ。まずしっかり信頼関係を築いてからでないと。

───絵本を読むのは信頼関係を築けた、最終段階なんですね。中川さんが保育園の子どもと最初に読む絵本は決まっているんですか?

いつも決まって『ちいさなねこ』。はじめての絵本には、日本の作家のものがいいの。子どもを膝に抱いて、「これなあに?」って聞くと、どの子もみんな「ネコ」っていうの。「はっきり」していて「分かりやすい」。これは良質な絵本の定義のひとつなの。

───本の中にも「子育て真っ最中のお母さんには、ぜひ良質のものを選んでほしい。」と書かれていますよね。中川さんの中の「優れた絵本」の定義はほかにどんなものがあるのですか?

基準は「面白く」「はっきり」「わかりやすく」。『ちいさなねこ』は、人間のお母さんではなく、ネコのお母さんという部分に「分かりやすさ」があると思うの。

───たしかに、人間のお母さんですと、髪形や洋服など時代によってもいろいろ変わってきてしまいそうですが、ネコなら見た目で子ネコと親ネコがすぐに分かりますね。

「素材の親近性」と「スリル」「リズム」「ユーモア」。赤ちゃんだからって、ただ繰り返しばかりの絵本ではつまらないのよ。「次は何があるかな……」という期待が持てて、ワクワクする内容でないと。だから、『ちいさなねこ』の様にちゃんとストーリーがあるものが良いのよ。保育園でこれを読むと、みんな身を乗り出してました。絵本に反応する子どもの様子をみていると、その子のお母さんがどういう人なのか、私たちは分かってくるのよ。

───え? おはなしを聞いている子どもたちの姿からですか?

もちろん。神経質なお母さんの子か、のんきなお母さんの子かでも、絵本を見ている子どもの反応はそれぞれです。例えば、子ネコが外に出てしまう場面。神経質なお母さんの子は、そんなこととんでもない!という顔をするの。そんなの当然という顔をしている子もいて、そういう子は、外にお散歩に行くとき、ひとりで行ってしまう危険性があるから、しっかり見ていなくちゃと思うのね(笑)。

───なるほど……。

子どもひとりひとりの今までの育ち方が、絵本を通して分かるのよ。ネコに引っかかれたことのある子は、ネコが子どもの手をひっかくページで、ちゃんと同じ経験をしたことがあると白状します (笑)。あと、どの子もネコが木の上に逃げる場面はすごく好きね。あるとき子どもたちとのお散歩でネコと出会いました。そうしたら、子どもたちがネコを見て立ち止まるやいっせいに、「木があれば大丈夫、ネコは木に登れるけれど、犬は登れない」って言うのよ。それも嬉しそうに。私、なんて賢いんだろうってビックリしました。あれはきっと、子どもたちにとって、安心する場面だったんでしょうね。

───絵本の中の言葉をつぶやくなんて、とってもかわいいですね。

お母さんが子ネコを助けに来る場面での反応もいろいろね。安心している子もいるし、心配になっている子もいる。このページで安心している子のお母さんは心配はないけれど、不安にしている子は、ちょっと気にしないと……と思ったわね。

───その1ページで、そんなことまで分かるんですね!

分かるわよ。最後の、お母さんと一緒にいる場面はみんなホッとして大好きなんだけど、それを見て「いやらしい」という子がいたの。弟や妹にお母さんを取られていて、いつも我慢しているのね。そうか思うと、まだお母さんのおっぱいを飲んでいる子もいて、ちょっと恥ずかしそうにしているの。

───そういう子どもたちの反応を見るのに、絵本はピッタリなんですね。

最初は、関係性を築けるようになった子、ひとりひとりを膝に乗せて読んであげるの。どの子も絵本は好きだし、先生を独り占めできるから嬉しいのよね。そうして、だんだんみんなで一緒に本を読めるようにしていく。絵本を通じて集団に慣れていくんです。でも、無理しちゃだめよ。絵本に行くまでに1か月くらいかかる子もいれば、1週間で慣れる子もいる。絵本は必ずこの『ちいさなねこ』からはじめるの。そうすると、失敗はないんです。

───『ちいさなねこ』以外によく読んだ絵本はありますか?

たくさん読んだけれど、中でもよく読んだのは日本の作家ではかこさとしさんの絵本。特に「だるまちゃん」シリーズはアットホームだから、子どもたちは大好き。海外の絵本でもきちんとストーリーができている絵本を読むわね。『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』も良いし、『3びきのくま』や『三びきのやぎのがらがらどん』も。あと、こわいはなし。子どもはこわいはなしが大好きなのよ。

───「こわい話には安全地帯を用意して」の中に、こわいはなしを読むときの心得が書いてありますね。

「大男や鬼ババ、おばけが出てこようと、あわてず騒がず、落ち着いてゆったりと平然と語りましょう。」ね。こわいはなしでよく読んだのはグリム童話。なかなか先生のいうことを聞かないワガママな子が聞いていると、その子の悪さをおはなしの中に盛り込んで、めいっぱいこわくしておどかしたこともあったわ(笑)。もちろん、信頼関係がしっかりとできている子じゃないとダメよ。子どもたちは「キャ!」っていったり「わっ!」って言ったり、こわがりごっこをするんだけど、読み終わると「なんだ、ちっともこわくないや。先生、次はもっとこわいはなしを読んで」って言うの。でも、最後はちゃんと、『ちいさなねこ』や『だるまちゃんとてんぐちゃん』でお口直しをするのが大事なの。

───お口直しがあると、こわいはなしも後まで残らず、そのときだけのドキドキで終わるんですね。ほかにも、子どもたちと絵本と関わるなかで、印象深い事といったらなんでしょうか?

いろいろな子どもたちとつきあいましたが、絵本や物語の嫌いな子どもはひとりもいなかったということね。
もし嫌いな子がいるとしたら、大人の与え方が下手だったのでしょう。よほどつまらない本をあてがわれ、うんざりしてしまったとか。それはその子のせいではなく、周りの大人たちの責任ね。子どもはもともと絵本や物語が大好きです。そうしてお母さんといっしょに過ごすひとときは、人生で一番最初の大切な時であり、人生の原点でしょう。その後、大きくなるにつれていろいろ厄介なことがやって来ますが、それに耐える力や乗り切る力は、幼児期が幸せであればあるほど強くなるに違いありません。
……とはいえ、絵本を選ぶのも、読むのも、忙しい大人です。「もう1回、もう1回」と言われると、くたびれてにくらしくもなるのよね。そんなときには、いつか必ず卒業の日がやってくることを思い出してね。

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中川李枝子(なかがわりえこ)

  • 作家。1935年札幌生まれ。東京都立高等保母学院卒業後、「みどり保育園」の主任保母になる。1972年まで17年間勤めた。1962年に出版した『いやいやえん』で厚生大臣賞、NHK児童文学奨励賞、サンケイ児童出版文化賞、野間児童文芸賞推奨作品賞を受賞。翌年『ぐりとぐら』刊行。『子犬のロクがやってきた』で毎日出版文化賞受賞。主な著書に絵本『ぐりとぐら』シリーズ、『そらいろのたね』『ももいろのきりん』、童話『かえるのエルタ』、エッセイ『絵本と私』『本・子ども・絵本』。映画「となりのトトロ」の楽曲「さんぽ」の作詞でも知られる。『ぐりとぐら』は現在まで10カ国語に翻訳されている。

作品紹介

子どもはみんな問題児。
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著:中川 李枝子
出版社:新潮社
全ページためしよみ
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