●子どもも大人も共感できる思いを描いていきたいです。
───『わすれもの』で絵本作家デビューをされた、豊福さん。絵本出版後、周りの反応はいかがでしたか?
いろいろな方に手に取っていただき、お子さんの反応など感想をいただきました。
印象的だったのは、お子さんを持つお母さんの一人が、「そういえば私も子どものころ、ヒツジのぬいぐるみを持っていました」ということを教えてくれたんです。その方も、絵本のようにぬいぐるみをなくしてしまい、悲しくてワンワン泣いていたんですって。それを見かねた彼女のお母さんが、同じくらいのサイズのサルのぬいぐるみを渡してくれたそうなんですが、そのサルがあまりかわいくなかったのもあって、「違う、これじゃない!」ってさらに泣いてしまったんだそうです。
かわいいエピソードで思わず笑ってしまいました。そうやって『わすれもの』が、子どものころの思い出を思い出すきっかけになるんだって、ちょっと楽しかったですね。
───たしかに、大事なものをなくしてしまう経験は、誰もが一度はしていますものね。豊福さんも、大事なものをなくしたことがありますか?
私はぬいぐるみではないのですが、実はつい最近、デパートのトイレで腕時計を置き忘れてしまいました。出てこないかなと思ったのですが、問い合わせると洗面所のすみにあったようで、無事に手元に戻りました。
見つかったときは「待っててくれて、ありがとう!」って心底思いました。時計に限らず、お財布でもバッグでも、長く一緒に使っていると、そのもの本来の価値だけでなく、それにまつわる様々な思い出が付加価値としていついていると思うんです。
例えば買った時の嬉しさや、旅行に持って行った時の記憶など。そういうものを失くすと悲しいし、戻ってくれば喜びもひとしお。そういう気持ちって大人も子どももないんだな、とあらためて思いました。
───大人も子どもも同じように、共感できる思いですね。
そうです。それは、私の今後の絵本作りの大きなテーマのひとつになりました。今の私が紡げる物語で、子どもと大人のどちらにもある気持ちをすくいとって、描いて行けたらいいなと思っています。
───ところで、子どものころ読んだ絵本で特に覚えているものはありますか?
絵本で特に記憶に残っているのは『九月姫とウグイス』(岩波書店)です。サマセット・モーム唯一の絵本で、武井武雄さんの絵が本当に美しかった。
このおはなしに絵をつけてみたいと、ずっと夢見ています。
───豊福さんの絵で描かれる、サマセット・モームの世界も見てみたいです。今、出版を予定している絵本もあるのですか?
私はバレエが大好きなのですが、今まさにバレエの絵本を作っています。『わすれもの』を出版させていただいてから、いくつかの出版社さんから「絵本を作りませんか?」と声をかけていただいていますが、先ほどもお話ししたように、お話作りにまだ慣れていないところもあって、簡単にはいきません。今は一つずつ、少しずつ形にして行けたら、と思っています。
───バレエのおはなし! すごく気になります。豊福さんの作品が、多くの子どもと、大人の方に届いていくと思うと、嬉しいです。最後になりましたが、絵本ナビユーザーへメッセージをお願いします。
『わすれもの』は、物をなくしたときの気持ちを、“わすれもの”の側に立って作りました。もしかしたら、あのとき忘れてしまったものは、こんな気持ちで、私が探しに来るのを待っていたかもしれない……。そんな風に想像して楽しんでいただけたらと思います。
どうぞ何度も本を開いてやってください。そして、ぬいぐるみと一緒に、再会したときの安堵感や喜びを、味わってもらえたら嬉しいです。
───ありがとうございました。
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取材・文/木村春子
写真/所靖子