●原書の良さをできるだけ残すための翻訳の工夫
───日本語訳の題名は『なんびきのねこたちおどる?』ですが、疑問形になっているので「どんなおはなしなんだろう?」と興味を惹かれます。題名はどんな風に決めましたか?
出口 題名は、翻訳家のいわじょうよしひとさんといっしょに、すごく悩みました。原題の「キャッツ・ナイト」を取り入れたものや、情景を表した「夜の街の〜」といろいろ候補があったんです。でも「おどる」という単語が、子どもたちだけでなく、大人にも興味を持ってもらえるんじゃないかと思って。「どうなるの? 何が始まるの?」と興味を持ってもらえたらと、「?」をつけました。
───そうだったんですね。
出口 日本語にすると、表紙のイラストをそのまま使用するのが難しく、ねこの位置を変えてデザインし直してもらいました。でも、原書の雰囲気はそのまま残したので、すてきな仕上がりになったと思います。裏表紙の文字が反転文字になっているのも、原書と同じです。
───ほかにも、こだわった部分はありますか?
出口 先ほども少し触れましたが、原書の英文が韻を踏んだ文章になっていたので、最初に日本語でも、韻を踏んだ文章にしてもらったんです。例えば最初の文が「おどる」で終わったら、次の文も「〜る」で終わるという風に。詩のようですてきな文章だったのですが、それだと肝心の子どもたちに内容が伝わらないのではという意見も出たんです。本当にすごく悩んだのですが、最終的に4〜7歳ぐらいの子どもが読めるように、やわらかく、わかりやすい文章にしていただきました。それと、数を数える本なので、文章の先頭にある数字を、大きな文字にしました。
───数字を見ていくと、ねこが増えていることがすぐにわかりますね。「なんびきいるのかな?」とイラストの中のねこを数えて、答え合わせもできますね。
出口 そういう風に読んでもらえると、うれしいです! もうひとつこだわったのは、おどるねこが人間に怒られる「うるさーい!」、「よるに おどっちゃ ダメ!」というセリフの文字です。原書と同じように、文字にヒビが入っているようなデザインにしてもらいました。
───本当ですね! 気持ちよくおどっていたのに、突然怒られたねこたちのキョトンとした顔が、またかわいいです。
出口 ねこが「ハッ」として動きを止めるのが、本物のねこのようでリアルですよね。おどっていたねこが怒られて解散すると朝が来るというおはなしの流れも、おもしろくていいなと思ったポイントです。
───路地裏で開かれたねこの集会を眺めているようで、わくわくしますね。
出口 もしかしたらNYでは、週末ごとにねこのダンスパーティーがあるんじゃないかって、いろいろ想像が膨らむんです。次の夜になると、また2ひきのねこがおどり始める…というラストシーンは、そのまま絵本の最初のページにつながるという、ループ構造になっていて、繰り返し読めるんですよ。
───確かに! ねこって、いつも同じ場所に集まったりするので、そういう意味でもリアルに感じられます。
出口 そういった絵本の味わい深さ、魅力が詰まった1冊だと思います。イラストをよく見ると、ちゃんとねこの数と同じ数字が隠れているので、探し絵の楽しみ方もできます。
───ねこたちのおどりも、数が増えるごとに違うおどりになっていくんですね。タンゴやブギー、タップダンスやポルカなど、いろんなおどりが出てきます。
出口 実は、私もおどりに関しては詳しくないのですが、「これってどんなおどりなんだろう?」と疑問に思ったら、親御さんが調べてお子さんに教えてあげるのもいいかもしれません。
───どんなおどりかわかったら、実際におどってみても楽しいですね。次のページでは、出版までの苦労やできあがった感想をお聞きします。