●好きな妖怪を仕事として描く喜び
───絵本の世界に足を踏み入れたきっかけは何ですか?
妻(たかすかずみさん)が絵本の仕事をしていたので、以前から興味はあったんです。『きつねのでんわボックス』という絵本で読者の方々からたくさん感想をもらっていたのを間近で見て、すごくいいなと。イラストの仕事では、見た人の感想を聞くチャンスはほとんどありませんからね。
実際には、たかしよいちさんの「妖怪伝」シリーズの絵を担当させてもらったのが、絵本の仕事を始めるきっかけになりました。妖怪は昔から好きで、仕事とは別にオリジナルでずっと描き続けていたんです。何度か個展を開催したら、それを見た編集者さんが「妖怪伝」の仕事を持ちかけてくださって。それまでまるで仕事に結びつかなかった妖怪の絵が、初めて仕事になったんです。自分の好きな妖怪を描いて仕事になるんですから、こんなにうれしいことはないですよね。
───絵本作家としてのデビューは、2010年の『カミナリこぞうがふってきた』(ポプラ社)ですね。
初めての絵本だったので、何度も打ち合わせを重ねました。僕の場合、描きたい絵が先にあって、そこから話を広げていくことが多いんです。『カミナリこぞうがふってきた』では、カミナリこぞうが太鼓を叩いたせいで、教室にいる子どもたちが全員アフロヘアになってしまう場面が最初に浮かびました。ドリフターズのテレビ番組「8時だョ!全員集合」みたいなノリですね。
絵本なので、めくったときの驚きや楽しさを意識して、ページごとに様々な構図で描きました。でも毎回そのパターンだと一辺倒で面白くないので、『大名行列』(小学館)では逆に、同じ構図で進んでいくようにしたんです。
───『大名行列』は昨年、小学館児童出版文化賞を受賞された絵本ですね。表紙だけだと一見、大名行列について紹介する歴史漫画のようですが、ページをめくると奇想天外な展開で、シゲリさんならではの魅力がぎゅっと詰まった作品です。
実はこの絵本、打ち合わせの直前までアイデアが浮かばなかったんですよ。どうしようかとコーヒーを飲みながら考えていたとき、行列がいっぱい続いている様子を描いたら面白いかなと、ふと思い立って。ただ、行列の絵本って他にもいくつかあるそうですね。僕はあまり知らなかったんですが。
───確かに行列を描いた絵本は他にもありますが、『大名行列』にはまた別の新しさとインパクトがあって、それが賞につながったのだと思います。
徹底的に描き込めば面白いものになるかな、とは思っていました。あと、オチですね。僕は昔、星新一さんにすごくハマったときがあったんです。星さんのショートショートって、きちんとオチがあるんですよ。だから自分も、ちゃんとオチがある作品を作りたいなと思っていて。アホみたいなオチを壮大なスケールで描くと、そのギャップが面白いじゃないですか。読者の方々には、そのあたりを笑っていただければなと。新作『だれのパンツ?』もまさにアホみたいなオチの話なんですよ。
●自分が描きたいものを存分に盛り込んだ新作『だれのパンツ?』
───シゲリさんの絵本は異世界へのつながりを描いたものが多いですが、新作『だれのパンツ?』でも、主人公のタロウくんが異世界に迷い込んで冒険します。このお話も、描きたい絵から広げていったのでしょうか。
妖怪とかおばけとか牛とか、自分の描きたいものを盛り込むっていうのは当初から考えていました。舞台を団地にしたのも、僕自身が団地を描きたかったから。建物の構造としても好きだし、外からベランダの様子なんかを見ていると、どんな人がどんな生活をしているのかなと、想像を掻き立てられるんですよね。
ストーリーは、編集者さんとあれこれアイデアを出して、いろんな案が上がっていたんです。ラフも何回も描き直して、ブラッシュアップを重ねました。上から落ちてきたものは、柄からしていかにも鬼のパンツなので、当初のラフでは早い段階から鬼を登場させていたんです。鬼が「こっちこっちー!」と手招きしている感じで。でもいろいろと考えた結果、鬼は最後に登場させることにしました。
───鬼のところにたどり着くまでにも、いくつものインパクトある出会いが待っていますが、特に思い入れのあるのはどのページですか。
前半に登場する画家さんのページですね。画家さんの描いた絵の中にいろいろと伏線を張っているので、じっくり見て楽しんでもらえたらと。
───これは絵をよく見ていないと気づかないかもしれませんね。
気づかなくてもいいんですよ(笑)。何が描かれているのかわからないのもあると思うんですが、わからなくてもいいんです。でも、わかるとさらに面白みが増すかもしれませんね。
鬼のパンツのような布の柄の中にも、次の登場人物のヒントを潜ませました。これも、わからなくても楽しめるけど、見つけられたらうれしいんじゃないかなと。ちょっとした遊び心で描きました。