『大名行列』で小学館児童出版文化賞を受賞した絵本作家シゲリカツヒコさんの受賞第一作となる新刊『だれのパンツ?』が出版されました。団地の前の公園で遊んでいたら、空からパンツが落ちてきた!? 持ち主に届けようと団地に入ると、住んでいたのはカメレオンにおばけ……。奇妙な世界に迷い込んだ主人公タロウの壮大な冒険のお話を、シゲリさんならではの巧緻な筆致で描き込んだ一冊です。刊行を記念して、絵本作家になるまでのことや新刊の制作エピソードなどを伺いました。
●緻密な描写のルーツは、子ども時代に読んだ人体図鑑
───絵を描くのは子どもの頃から好きだったのですか。
そうですね。友達と遊ぶよりも家で絵を描いているほうが圧倒的に好きでした。小さい頃よく描いていたのは、ウルトラマンの怪獣。当時は録画もできないから、テレビで一回観ただけなんですが、それを思い出しながら描いていました。
小学校高学年の頃には、漫画の模写もしていましたね。「週刊少年ジャンプ」で連載していた『荒野の少年イサム』が大好きで、ひたすら描き写していました。他にも模写している同級生はいたんですが、みんなサインペンを使っていたんですよ。でも僕は、家にあった製図用のつけペンを使って描いていました。つけペンで描くと線に強弱がついて、ぐっとプロっぽい仕上がりになるからです。友達からも描いて描いてとリクエストされるようになって、それがまたうれしくて、たくさん模写しましたね。
当時の夢は漫画家で、自分でも何度もストーリー漫画を描こうとしたんですが、たいてい扉絵だけで終わってしまって(苦笑)。めげずにストーリーを作り続けた人だけが漫画家になるんでしょうね。
───絵本を読んだ記憶はありますか。
子どもの頃は、ストーリーのある絵本は全然読んでいなくて、とにかく図鑑ばかり見ていました。図鑑は家に何冊かあったんですが、特に夢中になったのが人体図鑑です。人体の機能を機械の絵で解説している部分があって、それが面白くてね。いつも見ていたので、その図鑑だけボロボロになっていました。
その流れで、石ノ森章太郎さんの『人造人間キカイダー』も大好きでしたね。キカイダーは体が右と左の半分に分かれていて、左側の頭や体からは中の機械が透けて見えてるんですが、その機械部分がとにかく好きで。自分でもそれを真似て、人間のアウトラインを描いた中に鉛筆でぎっしりと機械を描いていました。目のところにレンズを入れてみたり、関節にはスプリングを描いてみたり、自分なりに細かく描き込んでいくのが楽しかったんです。
───シゲリさんの緻密な絵のルーツはそのあたりにありそうですね。
そうですね。人間の体を機械っぽく見せるというのは『ガスこうじょう ききいっぱつ』(ポプラ社)という絵本のアイデアにもなっています。
───絵本作家としてデビューされるまでは、どんなお仕事をされていたのですか。
僕は絵の専門学校を出ているんですけど、学生の頃は写実画ばかり描いていたんですね。自分の技術を見せつけたい、というような思いもあって、とにかくリアルな絵ばかり描いていたんです。でも、あまり仕事がなくて……学校を出てすぐはバイトをしながら、医学書の解剖図やゲームの背景などを描いて暮らしていました。
そのうち装丁の仕事もするようになったんですが、懇意にしていた方が1988年に創刊された週刊誌「AERA」のアートディレクターになって、僕にもイラストの仕事をたくさんくれるようになったんです。月曜に依頼を受けて金曜には納品するような流れだったので、そこで納期に合わせて短期間で仕上げる方法を勉強させてもらいました。仕事の内容としては、ただリアルに描くのではなくて、風刺というか、何かしらひねりを加えて描いてほしいというリクエストが多かったので、ただ写実的に描くのではなく、自分なりのアイデアを込めて描く面白さも知りました。