雪一面の森の中を、真っ赤な帽子をかぶった女の子が歩いていて・・・。その印象的な表紙の絵に目を奪われた方も多いのではないでしょうか。
- もりのおくのおちゃかいへ
- 作・絵:みやこし あきこ
- 出版社:偕成社
雪の朝、キッコちゃんは森のむこうにあるおばあちゃんの家へケーキを届けに出かけます。ところが、途中で転んでしまい、ケーキはぺしゃんこに。泣くのを我慢しながら森のなかを歩いていくと・・・見たことのない館にたどりつきました。そっと窓をのぞいてみれば、沢山の動物たちがおめかしして、お茶会を開いているではありませんか!
読者をふしぎな体験へ誘う、とっておきの絵本です。
絵本ナビでも「レビュー大賞」が開催され、たくさんのレビューが寄せられて話題になりましたね。
作者のみやこしあきこさんが絵本ナビオフィスに遊びに来てくださいました!
『もりのおくのおちゃかいへ』は、例えばお父さんを追いかける場面など、読んでいると、自分の幼い頃にも経験のある様々な気持ちが呼び起こされてくるようです。
「このお話は小さい頃の記憶がもとになっているんです。絵本の中で、きっこちゃんがお父さんだと思って追いかけていったら違った・・・というのは私の経験でもあるんです。スーパーにお買い物に行ったときに迷子になって。振り向いたら知らない人だった瞬間の怖さというのが鮮烈に残っているんですね。」
その時の気持ちを掘り起こしながら制作されていったというみやこしさん。怖さと言えば、動物たちが一斉にこちらをじっと見る場面は本当に印象的!主人公の不安や緊張感がそのまま伝わってきます。あの場面も最初からイメージされていたのでしょうか?
「最初はきっこちゃんが雪の中をケーキを持って歩いていく場面、それだけが決まっていたんです。雪のイメージがあったので色はモノクロで。それからストーリーも大すじは決まっていて。動物たちと出会う場面や途中の場面などは何度かラフを描きながら変化していきました。」
そういって取り出して見せてくださったのは、なんと9冊にもなるダミー!
ぱらぱらと中を見させていただくと・・・。
それぞれ全然絵が違う!
同じ場面でも上からの視点だったり、全く違う方向から描かれていたり。
更に一冊ごとにお話も微妙に変化していて、その度に登場する人(動物)たちの動きや表情まで変化しているんです。完成版には使われていないけれど、どれも魅力的な絵ばかり。よく見ると題名も変わってますね。
こんなにころころ変わっていって、ラフを描くのは大変ではないのでしょうか?
「おおもとのイメージは既にあって、それを膨らませていく感じですね。」
確かに、きっこちゃんがお父さんを追いかけていったけど実はくまだった・・・という場面は一冊目から殆ど変わっていません。
反対に、動物たちがお茶会をしている部屋へ入っていく場面、みんなでおばあちゃんのところへケーキを届けに行く場面は一冊ごとに大きく変化しています。こうやって完成に近づいていくんですね。
担当編集者がおっしゃるには、みやこしさんはどんな角度からの絵でもサラサラっと描いてしまわれるそうで。
「森の風景などは何となく描けるんですけど、建物や家の中の風景は難しいですよね。前作の『たいふうがくる』の制作時には模型をつくって描いたりもしました。」
真上から見る森の場面や、反対に部屋の中をぐっと下の方から描いた場面、近づいてみたりずっと遠景になったり。この自由自在なアングルがみやこしさんの作品の大きな魅力のひとつでもあるんですよね。
あれ?(画面ではわかりづらいのですが)ダミーの1〜8冊目の表紙には、木の陰からくじゃくの様な鳥が顔を覗かせているんですね!この可愛らしい子は結局完成版には登場せず?
「そうなんです。この子にぴったりなドレスを着せてみたり、アクセサリーを考えたりするのが楽しくて一番最後のダミーまで残っていたんですけどね。ちょっと南国風になってしまって(笑)。最終的には今回は哺乳類だけでということで、鳥類のこの子には遠慮してもらいました(笑)。」
残念ながら鳥さんは幻のキャラクターとなってしまったのですが、『もりのおくのおちゃかいへ』へ登場する動物たちはみんなとってもお洒落なんです。きっこちゃんと一緒に二足歩行をして、更にドレスまで着て、それでも動物としてリアルで不思議なほど違和感がないというのが面白いですよね。木炭と鉛筆で描かれているというそれらの確かなデッサン力と、動物達への深い愛情を感じてしまいます。
「動物は好きです。大きな動物から小さな動物までみんな。図鑑を見たり、動物園などに実際に見に行ったり。たまたま家にオコジョの写真集があって。それがいい資料になってオコジョはたくさん描きましたね。似合いそうな帽子をかぶせて肖像画みたいに描いたりして。(その素敵な絵の数々はみやこしさんのHPでご覧になれます!)他にも色々な角度から描くために、こんな模型を参考にしたりしました。」
そうして完成された作品に企画されたのが「レビュー大賞」。こんなにたくさんのレビューを一度に読まれた時の気持ちはどうだったのでしょう。
「ちょっとドキドキしました(笑)。子どもたちがこの本を見てどんなリアクションをしてくれるのか今まであまり知る機会がなかったので。意外とここでこういう風に思って欲しいと思っていたところを素直に感じてくれるんだなあと。子どもたちが“怖がっていた”という感想も結構ありましたね。でも、それだけお話に入り込んでくれているんだなと思うと嬉しかったです。」
寄せられたレビューの中には「外国の空気を感じる」という声も多く聞かれましたね。
「イメージは最初からあったので、特にモデルとなった舞台があった訳ではないのです。ただ、このお話は思いついてから完成まで四年かかっています。制作の途中でドイツに一年ほど在住していたので、その時に見た森の印象なんかに影響されているかもしれません。最後に登場するおばあちゃんの家は、田舎に遊びに行った時に見た家を参考にしています。」
個人的な経験ですが、この作品を読んでいて思い出したのが、子どもの頃家に飾ってあった絵があって、確かにその絵の中に遊びに行ったことがあるという記憶です。そんな事あるわけないんですけどね。『もりのおくのおちゃかい』では、そんな夢と現実の世界がとても自然に共存しているなぁと感じました。みやこしさんも小さい頃から空想と現実の行き来が自由にできた方なのでは・・・と勝手に想像してしまうのですが。
「そうですね・・・言われてみれば、夢か現実だったのかわからない記憶というのは結構あるかもしれないです。ふと思い出したんですけど、親がテレビドラマの『大草原の小さな家』が大好きでよく見ていたんです。いつも最後に登場する大草原の中にぽつんと立っている木があって。見るたびに、『あ、ここ知ってる』って思ってました(笑)。ここで遊んでいたような記憶になっていたんでしょうね。子どもの頃のそういう混ざった記憶というのが作品に影響している、ということは確かにあるかもしれません。」
その感覚を絵本という形で表現できる、というのが絵本作家としての素晴らしい素質なのでしょうね。驚くべきことに、この作品はみやこしさんにとってデビュー作に続いてまだ2作目!その劇的なアングルやちょっと不思議なストーリーは、彼女の好きなクリス・ヴァン・オールズバーグの作品と通じる部分もあり、次はどんな世界を描いてくれるのか、どんな作品が生まれてくるのかと思うと本当に楽しみです。
落ち着いた雰囲気で一言一言丁寧に答えて下さったみやこしさんですが、次回作に向けて小さなねずみ(!)を飼い始めたとおっしゃられていて、その時の嬉しそうな笑顔が忘れられません(笑)。期待が高まりますね。
最後に記念にぱちり!
みやこしあきこさん、ありがとうございました。