新しい町に引っ越してきた女の子におとずれた、夏のある不思議な出来事。
海が大好きなまりは、お父さんの仕事の都合で、海のない町に引っ越してきました。まだ友だちがいないので、夏休みだというのにだれとも遊べません。
「つまらない。つまらない。だれともあそべなくてつまらない。海がなくてつまらない。」心の中でそう言ったらどこかに出かけたくなって、公園に行くことにしました。途中でいろいろな家を眺めながら歩いていると、「こんにちは」という声が聞こえてきて…。けれどもふりむくとだあれもいません。もしかして、ようせい?それとも、おばけ?不思議に思っていると生垣のところからにゅっと女の子の顔が出てきました。
「いっしょにあそばない?」
女の子の家の広い庭でまりと女の子はおままごとをして遊びます。雲のもようが入った水色のシートはまるで空のよう。この本の表紙の絵はここだったのですね。新しいお友達とワクワクしながら夢中で遊んでいるまりの心は、まるで雲の中にいるように幸せな気持ちで満たされているのでしょう。はじめて会ってはじめて一緒に遊んだのに、ずっと前から知っている友達のように感じたその女の子の名前は、「わたしちゃん」。
けれども、“新しい友だちができた幸福感”で終わらないところが、このお話のさらなる面白さ。このあとは一気に不思議な世界へとひきこまれていきます。不思議な気持ちになりながらも、読み終えた後の余韻がとてもすがすがしく残ります。
色使いがきれいで出てくるお家やお庭や道具がとってもおしゃれ、なんといっても表紙がとびきりかわいいこちらの本は、女の子のそばに置いておいたら、何も言わなくてもすぐに手に取られる様子が目に浮かんできます。小学生の女の子の頭の中や揺れる気持ちがとてもうまく表現されているところは作者の石井睦美さんのさすがの持ち味。ひとりで読むなら2年生の終わりから3、4年生ぐらいまでの女の子におすすめです。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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