悲しいことがあると、いつもお母さんの洋服ダンスに飛び込むはなちゃん。そのくらくてせまいタンスの中にいると、少しずつ悲しい気持ちが小さくなっていくのです。
ところが今日、はなちゃんが泣きながらタンスの中に入ろうとしたら……ごっちん! えっ、誰かいる?
ぶつかったのは知らない女の子。ショートカットで立派なまゆげをしたその子の名前はゆりこ。はなちゃんのお母さんと同じ名前です。はなちゃんはその不思議な女の子に今日あった出来事を話してみたくなります。
「きょうは ともだちの あんちゃんに おにんぎょうのあし とられちゃって」
するとゆりこちゃんも言います。
「あたしは おこると、いつも たんすのなかに とびこむの。
きょうはさ、ともだちの かなこちゃんと あそんでて…」
どうやら二人とも、それぞれのお友だちとケンカしてきたばかりみたい。だけど、二人はその友だちのことが嫌いになったのでしょうか。本当の気持ちを話しているうちに……。
今注目の絵本作家、種村有希子さん。彼女がこの作品を生み出すきっかけとなったのが、小さい頃よく眺めていたお母さんのアルバムをもとに描かれていた絵なのだそう。確かに「母にも子どもだった時がある!」 という発見は、子どもにとって思った以上に大きな出来事です。もし、その子どもだった頃の母と自分が友達になれたとしたら……。そんな素敵な想像の世界をどんどんふくらませてくれるのは、絵本の中のゆりこちゃんとはなちゃんがとっても「いい関係」だから。
そして、絵本を通じてはっきりと見えてくるのは、はなちゃんとゆりこちゃんのそれぞれの気持ちの変化。それはきっと、種村さんご自身が楽しい気持ちと同じくらい、悲しい気持ちや怒りの気持ちを大切にされているからかもしれませんよね。柔らかで豊かな色彩を背景に、二人のどの表情も魅力的に描き出します。
最後にゆりこちゃんがくれた「時をこえた宝物」、いいな。私も息子にあげられるもの、あるかな……。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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