ゆかいで、リズミカルなお話が14編集められた、むかしばなし集です。
1つめ『七人さきのおやじさま』はノルウェーのお話。旅人が一晩泊めてもらおうと、立派な百姓家にいたおじいさんに話しかけますと「わしは、この家のおやじでない」といいます。教えられたとおり台所へ行って、そこにいたおじいさんに話しかけますと、やっぱり「わしは、この家のおやじでない」。旅人は次から次へと、教えられる場所へ行き、本当のおやじさまに宿の許しを得ようとします・・・。
2つめはロシアのお話『小さなおうち』。小さい動物から順に「おうち」に入っていく、有名な民話『てぶくろ』と同じ筋書きかと思いきや、思わぬ結末にびっくり。
3つめはスウェーデンのお話『くぎスープ』。ひとりのやどなし(仕事も、寝るところもない人のこと)が、おばあさんに一夜の宿をたのみます。けちなおばあさんは、陽気なやどなしが、なべをかりてつくりはじめたスープのなかみに興味しんしん。「くぎ一本でスープができるって?」さて、どんなスープができたかというと?
こんなふうにヨーロッパ北方をはじめ、世界各国から集められた14編が本書には収められています。
グルグル話(ねこがねずみをおいかけ、ねずみが縄をかじり、縄が肉屋さんをしばり・・・と次々つながってグルグルと動いていくお話)が多いこと、そして、しばしばナンセンスなのが、むかしばなしのおもしろさです。
これらのお話を選び、訳したのは、瀬田貞二さん。『三びきのやぎのがらがらどん』『おだんごぱん』をはじめ、長編は『ナルニア国ものがたり』『指輪物語』など、すばらしい翻訳作品を数多く残している人物です。
本書は1971年に出版され、一度は絶版になったものの、2000年にのら書店から復刊されました。瀬田貞二さんの文章は、品がありつつも心が踊りだしそうな名調子が秘められ、太田大八さんの愛らしいカラー挿絵もしっかり収められ、贅沢そのもの!
本文はほぼひらがな、漢字にはルビがふってありますから、小学生の一人読みに最適です。また、耳から聞いて想像すると、さらにわくわく感がかきたてられるので、低年齢の子どもたちに毎日1話ずつ読んであげるのもおすすめ。心のなかでじっくり想像しながら、読んだり聞いたりできるようになれば、たいていのお話は楽しめるようになるのではないでしょうか。
時を超えて私たちのもとに帰ってきた『世界のむかしばなし』は、味わえば味わうほど心の栄養になる、そんな素敵なパワーがあります!
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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