タイトルの『死神短歌』。「死神」と聞いてぎょっとした人、逆に読みたくなった人、両方いるでしょうか。死神といったら怖い話なのかしら? と構えてしまった人も大丈夫! この本に出てくる死神は想像しているイメージとはちょっと違っているようです。まず見た目が、どこか顔にあどけなさが残っている中学一年生ぐらいの少年であるということ。黒いマントに黒いパンツ、黒いショートブーツと黒ずくめの服装はイメージ通りかもしれませんが、指先には黒いネイルが施されていてなんだかおしゃれ感まで感じられる死神なんです。
死神の名前は「ウタ」。
上から送られてくるリスト(死せる者の名前や死亡予定時刻が表示されている)に基づいて、対象者の元へ行き、その対象者が未練を持っているものがあれば、その糸を大きな鎌で断ち切るのが仕事です。
よって本来は死に直面している人にだけ見える存在なのですが、今回、10篇のショートストーリーに登場する主人公たちは、死に直面している場合だけでなく、さまざまな理由で、死神を目にしてしまいます。
たとえば、
学校の階段から落ちて魂が幽体離脱してしまった小学四年生の東太ー「ニ.悔む(くやむ)」
ある日銀行強盗に遭遇し、死神のリストに表示されている人の近くにいたことから死神を見てしまった主婦の夏菜子ー「三.贈る」
大失恋をして死ぬことばかり考えていたために死神と出会ってしまった中学二年生の理乃ー「四.遊ぶ」
恋のライバルを蹴散らす強力な呪文を唱えて死神を呼び出してしまった小学六年生の瑠梨ー「八.呪う(まじなう)」
リストに表示されている主人公、リストにないのに出会ってしまう主人公。共に面白いのは、それぞれの未練(心残り)に死神の「ウタ」が仕方なく、でも時には楽しそうに付き合ってくれるところ。実は人懐っこい性格なのでしょうか。そのおかげで主人公たちはそれぞれに現世への未練が解消されていきます。
そして未練の糸を切り、魂を送った後、最後に「ウタ」が詠むのが五七五七七の三十一音からなる短歌です。この短歌から、多くを語らない「ウタ」が、どんな気持ちで主人公と関わったのか、何を感じたのかが読み取れるのもこのお話の大きな楽しみとなっています。
ストーリーと合わせて、俳句と短歌の違いや、小倉百人一種を用いた競技かるたについて、短歌の楽しみ方、有名な歌人についてのページも挟まれており、本格的に短歌について知ることができるのも嬉しいところ。ぞくぞくしたり、ドキドキしたり、ほっこりしたり、ストーリーを楽しみながら自然に短歌に親しむことのできる一冊。1篇は短い時間で読めるので、朝の読書タイムにもおすすめです。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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──あれ、きみ、ボクのことが見えるの?
【あらすじ】
死神・ウタの仕事内容は、魂をあの世へ送り出すこと。目まぐるしい出会いと別れのなかで、ウタは“三十一文字に自分の想いを込める”という短歌に魅せられていき……。
短歌にまつわるショートショートを10篇収録。
【本書の特徴】
●1話5分で読めるから、朝読にぴったり!
●短歌に関する用語説明・解説ページつき!
【目次】一首目:歌う/二首目:悔む/三首目:贈る/四首目:遊ぶ/五首目:失う/六首目:戦う/七首目:登る/八首目:呪(まじな)う/九首目:聴く/十首目:詠む
イラスト:やづな
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