「おれたちともだち」シリーズ(偕成社)で人気の内田麟太郎さんと、『ちゃんがら町』(岩崎書店)や『あぶないおふろやさん』(ほるぷ出版)など、ヤンチャ男子を描かせたらピカイチの絵本作家山本孝さんがタッグを組んだ「行事絵本」シリーズ。2002年から2012年の間に『十二支のおはなし』や『かっぱのこいのぼり』など全12作が出版されました。今回、ご紹介するのは「行事絵本」シリーズ完結から2年ぶりに復活した名コンビが贈る、ドキドキおばけ絵本『おばけのきもだめし』です。今回、絵を担当された山本孝さんのアトリエにお邪魔して、おはなしを伺いました。とっても貴重な読み聞かせつきインタビューをお楽しみください。
●内田麟太郎×山本孝 待ちに待った2人が再タッグを組んだ!
───「行事絵本」から2年ぶりのお二人の共作ということで、待っていたファンも多かったと思います。
そう言っていただけると嬉しいですね。
───この作品がどうやってできあがっていったのかを伺えたらと思います。まず、内田さんから原稿が来るんですよね。
そうです。最近は主にメールで原稿が来ます。『おばけのきもだめし』の原稿を最初に読んだときは、おばけがたくさん出てくるから大変だぞと思ったのと、内田さんが、ぼくが絵を描きたいと思うようなめちゃめちゃ濃い〜おはなしを書いてくれたのも嬉しかったですね。
───おばけって好きな子も多いですが、やっぱりこわくて苦手という子も多いと思います。でも、この絵本に出てくるおばけは、おばけがこわいおばけで、なんだかとってもかわいくおもえました(笑)。おばけのキャラクターを描くのは大変でしたか?
ぼくは、今までにも何作か、おばけや幽霊が出てくる絵本を描いているんですよ。「行事絵本」シリーズの中でも『おばけの花見』を描いていますから。だから、おばけのキャラクターを考えるのはそれほど苦労しなかったのですが、本当にこわいお化けにした方が良いのか、それともコミカルなかわいいおばけにした方が良いのかはちょっと考えましたね。
───きもだめしに行く、おばけの子どもたちはかわいくて、おどろかせる役の大人のおばけたちはこわく描かれているように感じました。
そうなんです。おばけをこわがる子どものおばけは、子どもたちが身近に感じやすいようかわいく、動きもコミカルに描きましたね。反面、おどろかすおばけは、こわ〜く、濃ゆ〜く描きました(笑)。
───ガマガエルのヌラヌラとした感じ、水の中に潜んでいるときも妖しさが漂っているんですよね。あと、やまんばも口が耳まで裂けていて、追いかけられたら本当にこわいと思いました。
きっと、内田さんは「山本孝にこんな不気味な絵を描いてほしい」と思っているんだろうな〜と想像しながら、遠慮なく描かせてもらいました。あと、閻魔さまはこのキャラクターを出したかったんですよ!
───『えんまとおっかさん』に出てくる閻魔さまですね! ちがう作品のキャラクターと再会できるなんて、なんだか得した気分になります。原稿を受け取ってからすぐに、絵を描き始めるのですか?
まずは、スケッチブックにどういう構図が良いか、キャラクターをどうするか大まかなラフを描いていきます。
───これがそのラフですね! すごい、描き込み!
最初は本当にラクガキのように、思いつくまま描いていきます。筆を足すごとにテンションが上がってくるんです。ある程度構成が決まったら、鉛筆に持ち替えて、ラフに落とし込んでいきます。
───おおダヌキやガマガエルなどから逃げる方法が、提灯の火だったり、おならだったり……。とってもユニークですが、そのアイディアは山本さんが考えているのですか?
いいえ。内田さんの原稿の中に「ト書き」があって、「提灯を投げて、タヌキのシッポに火がつく」など描いてあるんです。ト書きの指示を絵の中に落とし込みながら、オリジナルの設定も組み込んでいきます。
───オリジナルの設定? 例えばどんなところですか?
絵本の中では、ひとつめと、ろくろっくびが仲良くなりますが、物語が進んでいくと、のっぺらぼうとよろいかぶとの子も仲良くなっているんですよ。そういうところはト書きに描いていないのですが、一組だけだとつまらないから、もう一組カップルを作ろうと思って追加しました。
───絵を見て発見できるのは、読んでいる子どもたちも楽しいですよね。この2組以外にも、だるまとからかさや、火の玉とちょうちんが友情を深めあっていて、きもだめしが終わった後に、おばけの子どもたちの成長が感じられるのがとても微笑ましいです。山田さんが描いていて、一番好きだったおばけはなんですか?
子どもたちの中でいえばカッパかなぁ。「行事絵本」シリーズでも『かっぱのこいのぼり』を描いていますが、好きですね。脇役のおばけではガマガエルが描いていて楽しかったです。潜んでいる感じとか不気味さをだすのにこだわりました。
───ガマガエルのデコボコ、ヌラヌラとした感じとか、描くのが大変そう……。
大変でしたね。でもそれよりも時間がかかったのが、森の木なんですよ。一本一本に顔を描いてあるでしょう。すべての木に顔を描いていったら、描き終わるまでに何時間もかかってしまって……。
───細かいところまで時間をかけて描いているんですね。おはなしのラスト、ちょっとヒヤッとする終わり方ですが、これも内田さんからト書きがあったのですか。
ありました。でも、何が出てくるかはこちらにお任せだったと思います。このおばけにしたのは、きもだめしに出てくるおばけはみんな迫力があるものだったので、ちょっと引いて、そっと佇んでいる様子がよりこわいかなと思ったんです。
───静かについてきていて、でも笑顔というのが、ゾゾゾーっとしました。