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- ためしよみ
絵本紹介
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2021.10.28
2021年10月18日に発売された『ちちんぷいぷい』は、50年ぶりに発見された堀内誠一さんの原画に、詩人・谷川俊太郎さんが文をつけた新作絵本です。
谷川さんが堀内さんの絵に文をつけた絵本は、2010年に発売された『かずのえほん いくつかな?』(くもん出版)以来。11年ぶりに堀内さんとの絵本を作った谷川さんに、絵本ナビ編集長の磯崎がお話を伺います。
出版社からの内容紹介
『ぐるんぱのようちえん』『たろうのおでかけ』(いずれも福音館書店刊)の画家で、没後34年のいまも人気の絵本作家の堀内誠一。グラフィックデザイナーとしての仕事も含めて、昔を知っている人も、新たに堀内誠一について知る人も、どちらの心も捉え続けています。
2022年は堀内誠一の生誕90周年にあたります。堀内誠一の仕事に再び光をあてる展覧会の準備のなかで、単行本として刊行されていない原画が見つかりました。
たくさん残された原画のなかから、子どもたちに新刊としてお届けしたいきつねがいました。きつねは、「ちちんぷいぷい」とおまじないを自分の帽子にかけて、動物の子どもたちを楽しませていたのです。
原画に、詩人の谷川俊太郎が文章を書き下ろし、素敵な絵本が出来上がりました。リズムよい言葉に導かれてページをめくりながら、絵を読み解く楽しさを味わえる一冊です。
この人にインタビューしました
1931年、東京に生まれる。高校卒業後、詩人としてデビュー。1952年に第一詩集『二十億光年の孤独』(創元社)を刊行。以後、詩、絵本、翻訳など幅広く活躍。1975年日本翻訳文化賞、1988年野間児童文芸賞、1993年萩原朔太郎賞を受賞。ほか受賞多数。絵本作品に『ことばあそびうた』(福音館書店)、『マザー・グースのうた』(草思社)、『これはのみのぴこ』(サンリード刊)、『もこもこもこ』(文研出版)、「まり」(クレヨンハウス刊)、「わたし」(福音館書店)、「ことばとかずのえほん」シリーズ(くもん出版)他多数の作品がある。翻訳作品も多数。
この書籍を作った人
1932年東京生まれ。グラフィックデザイナー、絵本作家。主な絵本作品に『くろうまブランキー』『くるまはいくつ』『たろうのおでかけ』『ぐるんぱのようちえん』『こすずめのぼうけん』『ちのはなし』(以上福音館書店)、『おひさまがいっぱい』(童心社)、『かにこちゃん』「ことばとかずのえほん」シリーズ(くもん出版)、『マザー・グースのうた』(草思社)など多数。また著書に『父の時代 私の時代』(マガジンハウス)、編著書に『絵本の世界・110人のイラストレーター』など。1987年没。
磯崎:谷川さんは、堀内さんが50年前に描いたという絵をみていかがでしたか?
谷川:一種の若書きかなって思ったんだけど、その頃から、絵が本当に生き生きしていて、うまいんです。最初に見せてもらった時は、言葉はいらないと思ったのね。でも、なにかちょっと文を入れたほうが、読者がとっつきやすいだろうなと思ったんです。
磯崎:原画の1枚目に「ちちんぷいぷい ぱっ」という言葉が書かれていて、それを元に文を書いたんですね。
谷川:堀内さんと僕は同世代だから、子どものころしょっちゅう親から聞いていた言葉だったんだよね。でも今の子が知っているのか、それがちょっと心配だったわけ。でも言葉の響きがおもしろいからそのまま使えるなと。
磯崎:そんな重要な言葉なのに、実は「ちちんぷいぷい」という言葉自体は、最後まで出てこないんですよね。びっくりしました。絵では明らかに「ちちんぷいぷい」とやっているのに、言葉として書かれていないことにハッとしましたし、手品の仕掛けにだんだん気づくリスの動きにも触れていないところで、「何を書いて、何を書かないか」という谷川さんの意図が見えた気がします。
谷川:絵本の場合、絵描きさんが先に絵を描いて、僕があとでテキストを書く方が少ないけれど、最終的に絵とテキストが一緒になって読者に届くものだから、文を書きすぎてもいけないし、絵が説明しすぎてもよくない。足りない絵と、足りない言葉が一緒になって、第三の違うおもしろさがでてくるというのが、僕の基本的な考えなんです。
磯崎:なるほど。
谷川:だからこの場合も、きつねが自分で「ちちんぷいぷい」と言ってしまうと、つまらないだろうというのが直感的というか、本能的にあってね。絵がこれだけ生き生きとしておもしろいんだから、言葉はできるだけ少なくしたいと思ったんですよ。
磯崎:それは、絵を見た時の第一印象で感じたことでしたか?
谷川:そうです。堀内さんは、本当に絵がうまいからね。僕は『マザー・グースのうた』(1975年出版/草思社)で一番、堀内さんと付き合いが長かったわけだけど、あれも本当は、絵のおかげで売れた本だと思っているんです。
例えば長新太さんなんかは、自分のナンセンスな感覚で言葉と絵を一緒に描くでしょう。それがまたすごいんだけれど、堀内さんは、西洋美術と東洋美術全般の教養がすごくあるから、その教養の上で描く人。「ちちんぷいぷい」なんかでも、なにか深い意味があるんじゃないかなと、勘ぐる人もいるらしいけど、そんなことは全然なくて。堀内さんは、そういうのをアドリブで自然にリズミカルにサッサと描ける人なんだなと思いましたね。
磯崎:谷川さんも『音楽の肖像』(2020年出版/小学館)で音楽の知識を前提に素晴らしい詩を書きながら、『ちちんぷいぷい』のような文も書いていらっしゃいます。
谷川:自分にひそむ子どもと大人を使い分けてますね(笑)。『音楽の肖像』は、とにかく堀内さんがいろいろな作曲家の肖像画を描いていたというのが、基本だったわけ。それに僕が過去に書いた音楽の詩と、新しく書き足した詩を付け足しただけですからね。僕は、堀内さんは“耳の人”というよりも“目の人”だと思っていたから、けっこう音楽も聴いていたんだなと思って、すごく心強かったですね。
磯崎:お二人とも、あらゆる表現方法を持っていろいろな場所に行きながらも、感性や趣味という共通点で繋がっていらしたんだなと感じて。
谷川:僕ね、「できれば一緒に仕事をしたいな」と思う、好きな絵描きさんってやっぱり何人かいるわけですよ。もちろん堀内さんもそのひとりで、他の方とちょっと違うのは、教養がありながらそこからはみだすものを持っているという点が特殊で、やはり独特な人だなと思っています。
磯崎:谷川さんのお話しを聞いた読者も、堀内さんのまた違う魅力を感じることができますね。
谷川:堀内さんを本当に知りたいと思ったら、ぜひ堀内さんが自分で書いた本を読んで欲しいですね。あの人、絵本についての分厚い本も書いているでしょう。
磯崎:『ぼくの絵本美術館』(1998年発行/著:堀内誠一、マガジンハウス刊)ですね。
谷川:ああいうのを見ると、このナンセンスな絵の背後にはこういう教養があったんだってわかって、またおもしろいんじゃないかな。
磯崎:『ちちんぷいぷい』は、本当に明るくて勢いのある絵ですが、改めて、50年前の堀内さんの絵の魅力はどんなところだと思いますか?
谷川:実は僕、その頃の堀内さんをそんなに知らないんじゃないのかなと思うのね。だけど『ことばのえほん1 ぴよぴよ』(1972年制作、2009年復刊、くもん出版刊)のひよこの描き方が、僕、本当に好きなんですよ。ああいうセンスというのは生まれつきのものであって、それこそ教養とは関係のない、堀内さんの一番基本的な、良いところじゃないのかなと思っちゃうんだけどね。よくあんな風に、ひよこの歩きかたをひとつの絵で描けるなと思って。動きが本物よりひよこっぽいんですよ。
磯崎:サッと描いているように見えるのに、素晴らしいですね。
谷川:堀内さんは、仕事が早かったからね。考える前にもう描いていたのじゃないかなと思うほど。
磯崎:こんな風に、50年ぶりに原画が発見されて、新刊として発売されるというのも珍しいことだと思いますが。
谷川:でも自分のことを言って恐縮だけど、僕が18歳くらいのときに書いた詩が、いまだに増刷されているんですよ。自分で言うのはおかしいんだけど、いいものというのは時代を超えて、読者の世代が変わっていっても読まれたり見られたりするんじゃないのかな。堀内さんなんか、本当に何年経ってもずっと残る人だから。
磯崎:もうひとつ驚いたのが、谷川さんがカラーコピーを受け取られてから、1日で文を書いたそうですね。
谷川:それはやっぱり、絵に“のっちゃう”わけだから。絵が先にあって、すごく苦労して書くものもたくさんありますが、『ちちんぷいぷい』の場合は絵でストーリーができあがっているし、ちゃんと隠し味もあるので、本当に軽く書けました。そういう風にできあがった絵本というのは、本当に幸せな感じがしますよね。だから、堀内さんが亡くなったという気がしないんだよね、この絵を見ていると。
磯崎:最後のピクニックのシーンがすごく良いと思いました。いろんな要素がいっぺんに集まって、「絵を読む」ということをサラッと子どもたちに伝えていて。
谷川:ちゃんとそういうところを考えて、描いてくれるんだよね。子どもも、そういう絵が大好き。ここになにがある、ここにこういうのがあったって。ちゃんと堀内さんは、知って描いていますね。
磯崎:最後に、絵本ナビ読者に『ちちんぷいぷい』の魅力について、一言お願いします。
谷川:堀内さんのうまい絵というのはもちろん、絵が持つ生き生きとしたエネルギー、登場する動物たちが私たちと同じに生きているというところを、感じてもらえるといいなと思いますね。今は、コミックスにしろアニメーションにしろ、絵も言葉と同じように大洪水になっていますよね。そういう絵の洪水の中で、『ぴよぴよ』に代表されるような、昔の良い絵というのを、子ども時代に発見しておいたほうが良いんじゃないかなという風に思います。絵というのは、本当はこういうものなんだと感じ取ってもらえたら、うれしいね。
取材:磯崎園子(絵本ナビ編集長)
撮影協力:谷川俊太郎
取材協力:紀本直美
文:中村美奈子(絵本ナビ)