1977年の初版以来、多くの読者を得て、いまも売れつづける『100万回生きたねこ』。幼稚園や保育園、図書館の児童書コーナーなど、子どもの本棚で必ずといっていいほど見かける一方で、本屋さんでは大人がギフトとして購入する姿も多く見られます。
ねこが100万回死に、100万回生きる物語。「でも、究極のラブストーリーでもあるんです」とおっしゃる、佐野洋子さんを最後に担当された編集者・山田智幸野(ちさの)さんにお話をうかがいました。
『100万回生きたねこ』200万部突破記念インタビューです!
- 100万回生きたねこ
- 作・絵:佐野 洋子
- 出版社:講談社
幾百万の魂をゆさぶり続ける大ロングセラー絵本。 100万回死んで、100万回生まれ変わったとらねこ。自分しか愛せなかった彼が、初めて他者を愛したとき……。この世に生まれた意味を問いかける絵本。
●愛されるより、愛することが人生
───「これって恋のはなしだね」・・・ピンクの帯を見てドキッとしました。すでに36年間読み継がれている『100万回生きたねこ』。佐野洋子さんの絵本は『おじさんのかさ』『わたしクリスマスツリー』『わたしのぼうし』などもロングセラーですが、『100万回生きたねこ』はまた特別ですよね。佐野さんも生前エッセイのなかで「私の絵本の中でめずらしくよく売れた」とおっしゃっています。
そうですね。本当にいろいろな年齢の方に読んでいただいているなと思います。『100万回生きたねこ』の読者ハガキを見ていると、子どもより私が読んで感動しました、というお母さん方からのハガキもけっこうあるんです。
───「恋のはなし」「大人が読んでも感動する」と耳にすると、「そういえば有名だけど、どんな絵本だろう?」と気になります。どんなストーリーですか?
100万回生まれ変わっては、さまざまな飼い主のもとで死んでゆく、とらねこの話です。とらねこは、飼い主のことなんか大きらい。あるときは、一国の王のねこ。あるときは、船乗りのねこ。サーカスの手品つかいのねこ、どろぼうのねこ、ひとりぼっちのおばあさんのねこ、小さな女の子のねこ・・・。ねこが死ぬと、みんなは泣きます。でもねこは泣きません。死ぬのなんかへいき。好きなのは、自分だけでした。
───うーん、いったいどれだけ自分中心なねこなの?と思いますよね(笑)。
そうですね。ここまでは序章なんです。お話のなかで大事なのはここから。 あるとき、ねこは、はじめて、のらねこになります。
「あるとき、ねこはだれのねこでもありませんでした。のらねこだったのです。ねこははじめて自分のねこになりました。」

「たった1匹、ねこに見むきもしない、白いねこがいました」・・・女の子はみんな、ここに自分を投影するなって思います(笑)、と、山田さん。
のらねこが「おれは100万回もしんだんだぜ」と自慢すると、いろんなねこがよってくる。モテモテです(笑)。でも、自分に関心を示さなかった1匹の白いねこがいた。興味をなんとか引こうとするうちに、いつのまにかとらねこは白いねこと一緒にいたいと思うようになります。
───白いねこに、恋をするのですね。
「『おれは、100万回も・・・。』といいかけて、ねこは、『そばにいてもいいかい。』と、白いねこにたずねました。白いねこは、『ええ』といいました。」
ええ。やがて子ねこが生まれ、愛し愛されて穏やかな時間が流れる・・・。でも、そのときも終わりがきます。 白いねこはいつか動かなくなり、とらねこははじめて泣きます。朝も夜も、泣きつづけて、そして白いねこのとなりで、しずかに動かなくなるのです。
───最後、ねこは本当に死んでしまう。そういうお話なのですね?
はい。子どもの絵本では、あまり他にないかもしれません。読者の方がどんなふうに読んでくださっているかというと、本当にさまざまな感想をいただくんです。いくつかご紹介しますね。
小さいころに読んだ気持ちと大きくなってから読んだ気持ちとは違いがある本だと思います。いまの私の感想は、命は、限りあるもので一瞬で消えてしまう儚いものですが、この猫ほど愛する事、愛される事ができれば素晴らしいと思います。(39歳・女性)
かつて独身時代に読んでいました。いまはふたりの子どもとかみさんと4人で生活するようになって、この本のねこと同じ気持ちになれたと思います。
今回8歳になる長女の誕生日プレゼントにと、この本を買いました。どんな感想を持ったか、聞いてみたいです。
(30代・男性)
「死」が、冷たいものではなく、温かいものに感じられました。ねこのように、誰かを愛し、幸せだったと思いながら死んでいけるように、優しく生きてゆきたいです。(22歳・女性)
愛する人と子どもを育てて、年をとって死ぬ、というのは、すごくふつうのことだけど、ふつうのことがじつはむずかしい。
『100万回生きたねこ』は、とっても個人的なことを追求していると思うんです。
愛するとは、どういうことか。自分の人生は「生きている」と言えるのか、と。