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《スペシャルコンテンツ》インタビュー

2010.02.26

岩井俊雄さん
「100かいだてのいえ」シリーズ

一覧を見る

自分の中に残っている子ども性

─── 絵本を読んだ子どもたちからの意外な反応など、印象に残ったものはありますか。

逆に、意外じゃない反応で驚いていますね。例えば、どろんこ遊びとか、とかげのしっぽが切れるシーンとか、七色の宝石だとかって、こういうのは受けるかも?、と思いながらそれぞれ描いたんですが、ものの見事に、感想ハガキにその部分を「○○が好きです!」と書いてきてくれるんですよね。描いたほうとしては、もうニンマリしちゃうんですけど。そういうのを見ると、自分の中にある「これ面白い!」という感覚は、誰でも共通なんだなと感じますね。

自分の子ども時代を思い出しながら描くというより、自分の中にある子どもの部分を最大限に使うということなのかな。子どもの遊びって、ハイテクなゲームなどを見ると表面的には変わってるように思うけど、一番原点の部分ではあまり変わってないと思うんです。自分はもう四十代後半だけど、自分が描いたひとつひとつのシーンが子どもたちに喜ばれると、自分の中に残ってる子ども性と、平成に生まれた子どもたちが、実は一緒、ちゃんとつながってるいうことを実感して、すごく幸せな気持ちになりますね。

─── 絵本の場合は、発売後にまた反応が大きく返ってくるというのがまた面白いですよね。そこからがまたスタートというか。

本当にそうです。今日のワークショップ(※)みたいに、絵本を元に子どもたちがさらに発展させていってくれる。『ちか100かいだてのいえ』につけた「みんなの100かいだてのいえ」(※)への応募はがきは、もう2千枚ぐらい来ているんですけど、日本中からそれだけのリターンがあるというのは本当にすごいことだと思います。
僕はこれまでインタラクティブに映像を触ったり、音楽を作ったりという様なことができる作品を展覧会などで発表してきたんですが、子どもたちが家の中で絵本とつきあってる時間というのは、展覧会なんかよりもっとずっと長いじゃないですか。小さい子にとってはものすごく濃い時間だと思うんですよ。全然違いますよね。

※ワークショップの様子はこちらから>>>

─── 子どもたちが絵本の中で体験してるっていうのが、見ていてわかりますよね。

子どもたちにとって絵本とのつきあいは生活の一部ですよね。だからこそ、すごくやりがいのある仕事だなと思い始めています。僕は小さい頃、『そらいろのたね』がすごく好きだったんですけど、その本の事を思い返すと、いまだに温かい気持ちになれるんですよね。絵本の中には実は「たね」自体が描かれてないんだけれど、空色のたねって、どんなふうに見えるんだろうと、想像した感じまで思い出せるんです。これってすごい事ですよね。最後に家がぱっと消えるところは、本当にハラハラドキドキして。40年以上たって、まだ覚えてるんですよね。
だから僕の『100かいだてのいえ』も、「あの絵本は面白かった」とか「あの時自分で考えた家はこうだったな」とか、今の子どもたちが大人になって思い返してくれたら最高ですよね。

みんなでつくる100かいだてのいえ

─── 今日の様な「みんなの100かいだてのいえをつくろう!」というワークショップは、丸善ラゾーナ川崎店さんが最初に考えだされた事がきっかけだったそうですね。

林健造さん ※この日、丸善ラゾーナ川崎店さんで「いわいとしおさんと100かいだてのいえをつくろう!」というワークショップが行われました。様子はこちら>>>

僕は、以前から参加性のある作品をつくっていたこともあって、それをさらに発展させたワークショップや小学校での特別授業なども積極的にやっていました。子どもたちから、何かを引き出すことが好きなんです。

光のえんぴつ、時間のねんど光のえんぴつ、時間のねんど

作・絵:岩井俊雄
出版社:美術出版社

※小学生のためのユニークな特別授業がまとめられた本です。

それで、絵本ではどうしたらいいのかな、と思うところがありました。自分の絵本が、各家庭で読み聞かせされているというのは、ある種インタラクティブでいいことなんだけど、受身的でもありますよね。本当は、自分の絵本をきっかけに、子どもが触発されて何かを創り出すみたいな所までいってくれたら理想だな、と思っていたんです。
物語性の強い絵本だと、どうしても読者は受身になりがちなイメージを持っていたんです。絵本の中には、五味太郎さんの『らくがき絵本』の様に直接子どもが絵を描いて参加できるものもあるし、『100かいだてのいえ』を作る前は、自分が絵本を作るなら、そういった参加性があるほうが自分らしいのかな、とも考えたりしました。ところが、実際にこの絵本を出してみたら、近所のお母さんが「子どもがこんな家を描きました」と見せてくれたりして、子どもが予想以上にリアクションしてくれてることがわかったんですよ。

そんなことがいくつかあってしばらくしたら、丸善ラゾーナ川崎店の書店員の方が、店頭で『100かいだてのいえ』を使った参加型の企画をやってみたいと言ってる、って担当さんから聞いたんです。「それはいいアイデアですね!」と、すぐに専用の用紙をデザインして使ってもらいました。結果それがものすごく好評だったので、もっと広めたいなと。最初は、自分のブログでやろうかなと思ったんですけど、描いた絵をどう集めるかとかいろいろ難しい。それでなかなか実現できずにいたんですが、『ちか100かい』が出る時に、急に偕成社さんから愛読者カードを参加型のものにしてもいい、という話が出たので、やった!っていう感じでできたんです。

ちか100かいだてのいえ 『ちか100かいだてのいえ』には、「みんなの100かいだて」に参加できる愛読者カードが付いていて、特設HPの方に毎週アップされていきます!

─── 絵本を読んだ事がきっかけで、子どもたちにこんな発想が生まれくる・・・というのは見ていて、本当に面白いでしょうね。

子どもたち

子どもたちって、面白い歌を聞けばそれを歌いたくなるし、面白いものを見れば描きたくなりますよね。だからその受け皿として絵本の中に絵が描けるハガキが入っていて、なおかつ、それが家の中のらくがきで終わらずに、日本中の仲間とつながっていくっていうのはすごくいいんじゃないかと。

─── 「みんなの100かいだてのいえ」では、描く時のアドバイスというのはありますか?

ええ、そのつながった時の感動がまた刺激になってさらに次に、となるといいですね。「みんながこんなの描いてるんだったら、もっとこうすればよかった」って思う子もいるでしょう。ただ、絵本一冊につきハガキ一枚でもすごい数が届いているので、これ以上増えたら大変なことになりそうですが(笑)。

─── つながった瞬間っていうのは感動するでしょうね。

自分の好きなものや、こだわりをなるべく詰め込んで欲しいですね。詰め込めば詰め込むほど面白くなってくるんです。僕がこの絵本を描くときがそうでした。さらりと描いたものより、ディテールにこだわり始めると、すごく面白くなってくるんですよ。今日のワークショップでも、そのレベルまで来てるなっていう人たちが何人もいましたね。最初は「何描こう・・・」という感じなんだけれど、描いていくうちにどこかに臨界点があって、それを超えると面白くてやめられなくなるという感じ。そこまでいって欲しいと思います。

絵本を読んだ後にも

─── 絵本を通して親子でこんなふうに触れ合ってほしい、という事はありますか?

岩井俊雄さん 絵本というのは、結局は人がつくったものなんです。読み聞かせで親子ならではのコミュニケーションができるという、メディアとしての良さはありますが、すでに出来上がった世界を味わうという意味では、テレビなんかと同じで受身に近い部分もあると思うんです。本当は、外に出て遊んだりしたほうがいいのでは、と思うところもあります。

でも、「みんなの100かいだてのいえ」みたいに、うまくやれば子どもが絵本から感じ取ったことを、絵に描いたり、何かを作ったり、そういうクリエイティブな事につなげることがやりやすいメディアだと思うんですね。例えば、テレビでどんなに面白いものを見ても、子どもがテレビ番組を作るわけにはいきません。しかし絵本は、紙の上に印刷されたものだから、真似して描けるし、似たような絵本を作ろうと思えば作れる。うちの娘も、よく自分で紙をホチキスで綴じて本やノートの様にして遊んでいます。そんな風に本というのは、いつの時代になっても僕らの身体にすごく近い、生活に密着したものなんですね。子どもたちが持っている「表現したい!」っていう気持ちにすごく寄り添えるメディアだと思うんですよね。

だから子どもと絵本を読んだあとには親子で絵を描いたり、絵本をきっかけに一緒にお話を作ったり、と世界が広がっていったら、すごくいいなと思いますね。絵本を一方的に詰め込むというよりは、いい刺激を入れたことによって子どもから何が出てくるか、親がしっかり見て伸ばしてあげる気持ちで、絵本を読んであげるのがいいんじゃないかと思います。

─── 岩井さんの中でも、『100かいだてのいえ』シリーズの制作を通して「絵本」に対する発見が色々とあったのでしょうね。

子どもが送ってくれた感想の中で、「ページのめくり方が逆でびっくりしました」っていうのもあるんです。5歳の女の子から「こんな絵本見た事がない」というのも。たった5歳の子でさえ「本とはこういうもの」という既成概念がはっきりあるという事が面白いなあ、と。『100かいだてのいえ』は、読み聞かせがしにくいというお母さんたちの意見はあるのですが、子どもたちのほうはまったく気にしないようです。逆に新しさを楽しんでくれている感じがします。

テレビでも映画でも、世の中には横長のものが多いですよね。人間の目が横に並んでいるから当然といえば当然なんだけど、だからこそ縦にしてみると意外性がある。特に、この絵本のように上へ登っていく感じは縦じゃないと出せないから、使わない手はないですよね。絵本だからこそこれができる!ということを、言いたいですね。

それから、本ってどこから開いてもいいっていうのがありますよね。映画やゲームというのは、やっぱり最初から順番に見ないといけないけど、本は、パッとどのページでも開ける。それを利用しようと思って作ったのが、『どっちがへん?』などの絵本だったんですよね。
そんなふうに、本の形はそのままでも、アイデアによってはまだまだいろいろできるんじゃないかって思っています。

─── 今後、どんな考えが出てくるか、その辺りも楽しみにしていていいんですね。

そうですね。でも一方で、普通の絵本もいいなと思い始めてるんです。先ほども言いましたが、僕には絵本を読み聞かせしてもらった記憶があまりないんです。でも、逆に僕の父は本も何も使わずに布団の中で寝る前にお話をよく聞かせてくれたんですね。しかも、それは父の創作童話でした。レパートリーがいくつかあって、姉が3人いたので、4人めの僕の時には、たぶんかなり話し方もこなれていて(笑)。僕はもう、毎晩すごく楽しみにしていたんですよ。そんなことができた父はすごかったな、というか、今はすごく感謝しているんです。そういう体験があるので、僕も父には負けられないと、娘と一緒にお風呂に入る時は即興でお話を作って話したりするんですよね。

─── 私も息子に言われてやっていたんですけど・・・かなり難しいですよね。

僕も苦手だったけど、だんだんできるようになりましたね。もちろん、毎回面白い話にはならないかもしれないけど、即興性があるからこそ、子どもは喜んでくれるんですよね。例えば、子どもに3つ何かを言ってもらって、それをつないでお話を作る三題噺みたいなもの。大変だけど、実際やってみると思いがけない物語が生まれたりして、僕自身にもいい訓練になってます。
口に出す、耳から聞く話っていうのは、読むのとはまた全然違いますよね。無駄がなくて。文字で書いちゃうと、かなりそぎ落としたと思っても、あとから無駄がいっぱい見つかるんだけれども、即興で語る言葉って、その場で子どもがあっち向かないように一生懸命やるからいいのかもしれないですね。

─── 絵本作りのヒントが隠されていそうですね。

こんな風にいまやっている事が、もしかして将来絵本につながるかもしれませんよね。これまで使ってなかった部分を自分からどれだけ掘り起こせるかということでも、僕は今、すごく新鮮に絵本というものと向き合っているというか、可能性を感じているんです。45歳ぐらいから急に絵本を描くことになったんですが、まだこんな人生が自分に待っていたかと思うと、面白いですよ。また新たなスタート地点に立ったみたいで。

記念撮影

───ありがとうございました!

<最後に・・・>
理路整然と話される岩井さんを前に、少し緊張。でも、子ども達の素晴らしさについて話される時のほころんだ表情に嬉しくなって、ついつい長い時間お伺いしてしまいました。
岩井さんと絵本。今後どんな風に向き合われていくのか本当に楽しみです。

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岩井俊雄【いわいとしお】

  • 1962年生まれ。メディアアーティスト。子供の頃に母親から「もうおもちゃは買いません」と言われ、かわりに工作の道具や材料を与えられたことからものづくりに目覚める。1985年、筑波大学芸術専門学群在学中に第17回現代日本美術展大賞を最年少で受賞。その後、国内外の多くの美術展に、観客が参加できるインタラクティブな作品を発表し、注目を集める。テレビ番組『ウゴウゴルーガ』、三鷹の森ジブリ美術館の映像展示『トトロぴょんぴょん』『上昇海流』や、ニンテンドーDSのアートソフト『エレクトロプランクトン』、ヤマハと共同開発した音と光を奏でる楽器『TENORI−ON』なども手がける。2007年、NHK教育の幼児番組『いないいないばぁっ!』のオープニングアニメーションを担当。現在ふたりの娘の父親として、書籍やブログを通して親子の創造的な関係を広めようと精力的に発信している。著書に『いわいさんちへようこそ!』、『いわいさんちのどっちが?絵本』シリーズ(全3冊)、『いわいさんちのリベットくん』(以上すべて紀伊國屋書店)、『100かいだてのいえ』(偕成社)がある。


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