「ことばのえほん」シリーズ全3冊は1972年に刊行された絵本。当時、あかちゃん絵本がまだ今ほど広まっていない時代に、詩人・谷川俊太郎さんと画家・堀内誠一さんが、“幼児とことば”について、感覚を研ぎ澄まして創りあげた珠玉の名作です。37年間、堀内さんの書庫に眠っていた幻の絵本がくもん出版さんから復刊され、再び私達も楽しめるようになりました。



更に、40年前に堀内誠一さんが描かれていた英語版「かずのえほん」に谷川さんが新たに詩を書き下ろし、『かずのえほん いくつかな?』として登場。
- かずのえほん いくつかな?
- 作:谷川 俊太郎
- 絵:堀内 誠一
- 出版社:くもん出版
谷川俊太郎・作 堀内誠一・絵「ことばとかずのえほん」シリーズ、「かずのえほん いくつかな?」。40年前に堀内誠一が描いた絵本のイラストに、2010年、谷川俊太郎が新たに詩を書き下ろしました。
かたつむりがおさんぽしながら1から10まで数える、美しくて楽しいかずのえほんです。
その発売を記念して、谷川俊太郎さんへのインタビューが実現しました!38年前になる制作当時の貴重なエピソードを伺いながら、それぞれの絵本のみどころ紹介してくださっています。また、今は亡き「天才」堀内誠一さんとのやり取りの話なども登場します。
お楽しみください!!
●「ことばのえほん」シリーズの誕生
─── 「ことばのえほん」シリーズが作られたのは今から38年も前のことですね。誕生のきっかけなどのエピソードを教えて頂けますか?
当時、波瀬満子さん(※)たちと設立した「ことばあそびの会」の活動の中で言葉遊びの詩なんかを書いていたんですね。日本語の響きの面白さを伝えたいというのが発想のもとになっているんです。そこから絵本をつくってみようという話になって。だから音の方から入っているんですね。1972年にこの「ことばのえほん」シリーズが発売された時はソノシートと呼ばれる薄いレコードが付いていたんですよ。
※波瀬満子(はせみつこ)・・・パフォーミング・アーティスト。劇団四季・仮面座を経て、1977年詩人谷川俊太郎らと「ことばのあそびの会」を設立。以来一貫して“ことば・パフォーマンス”の道を歩き詩やことばあそびをステージ構成し、表現するジャンルを確立。著書に『しゃべる詩あそぶ詩きこえる詩』『あいうえおとaiueoがあいうえお』他。
谷川さんと波瀬さんの対談集『かっぱ、かっぱらったか?』(太郎次郎社)に「ことばのえほん」シリーズ誕生にまつわるエピソードがたっぷり掲載されています!
3冊一緒に出すということで、やはり変化をつけなければいけないと。まず1冊目『ぴよぴよ』はヒヨコの冒険物語でストーリーがあるもの、『かっきくけっこ』は、その当時から日本の50音というのがすごく音的におもしろくて、その多様さは世界でもちょっと稀な言語だという事を「ことばあそびの会」でも表現していたので、それをそのまま2冊目にして。日本語というのはすごく擬音語や擬態語が豊富で、いくらでも作れちゃうようなのが一種の長所だと思うんだけど、3冊目の『あっはっは』は笑い声のバラエティーでやろうではないかというので作りました。3冊とも擬音語などのいわゆるオノマトペが基本的な発想ですね。
●オノマトペだけでつづるひよこの冒険物語『ぴよぴよ』

─── 『ぴよぴよ』というのは、言葉だけ抜き出してみると本当に短い言葉ばかりですよね。“ぴよぴよ”“もーう”“しゅばしゅば”などなど。それがこういう物語性を持った絵本になっているというのがとても不思議な感じがします。
そうですよね。それは堀内さんの才能にすべてお任せしてますね。
─── 谷川さんは、絵本を創作される時には絵を浮かべながら考えられるのでしょうか。
いや、ほとんど僕はないですね。他の絵本の場合で、どうしても画面がこうであるべきだというのが必要な場合には、ちょっとメモをしたり、それからラフスケッチを見て意見を言うことはあるけど、堀内さんとの作品に関してはそれはもう全然なかったと思います。いきなり(絵が)出来てくるっていう。
─── “めええ”とか“もーう”とか、声に出されながら創作されるということは・・・
いやいや、そんな不気味なことは言いませんよ(笑)。「もーう」なんて気持ち悪いじゃん。
─── 頭の中でパパパッとひらめいていく感じですか?
そうですね。僕は作るのは速いほうだからそんなに時間はかからなかったと思うんだけど。『ぴよぴよ』はある程度ストーリーを考えなきゃいけなかったから、もちろんそれは考えましたけどね。他の2冊は音だけでストーリーがないでしょう。
─── 堀内さんとのやりとりというのは、どんな感じで行われていたのでしょうか。このテキストをお渡しする時は色々説明とかされたりは・・・?
全然ないんですね。もう渡せばそれでできちゃう、彼は。『ぴよぴよ』では順番だとかは多少書いたかもしれませんけどね。
─── 堀内さんと組まれるきっかけとなったのは?
『マザーグースのうた』(※)が一番大きな仕事ですね。これは「渡せばそれでできちゃう」、本当にそんな感じでしたね。僕が訳したものを出版社の方が堀内さんに送ってくれるだけ。後はそれを全部レイアウトして順序も決めて、それで1冊目、2冊目、3冊目って彼が作ってくれる。彼は編集者としての才能もすごいんですよ。
※『マザーグースのうた』(全5集、草思社)・・・英米人なら子どもの頃に必ず親しむ伝承童話集、マザー・グース。明確な意味のない口承の歌を、独自の解釈で表現している本作はベストセラーとなった。谷川俊太郎×堀内誠一のコンビが好評を博し、『わらべうた』(上下巻、冨山房)も刊行されている。
─── その中で信頼関係を築かれたのですね。堀内さんなら安心して任せられると。
本当にそうです。テキスト以上のものを描いてくれるということは、最初からわかってますので。
─── 堀内さんが描かれた絵をみて予想外だったというものはありますか?
『ぴよぴよ』のひよこがあまり可愛くて。こんなに可愛く、しかもほとんど一筆書きみたいな感じで描いてるじゃないですか。丁寧に描いている訳じゃないよね。そこにすごくびっくりしましたね。こんな単純な書き方で、ここまで表情が出るっていうかな。ひよこの心理まで伝わってきますよね。
●50音に親しみをもたせたい!『かっきくけっこ』

─── 2冊目は『かっきくけっこ』。この「あいうえお」の表現には鳥肌が立ってしまうといいますか、こんな絵本が出来るなんてもう驚きです。今また新聞の書評などでも評判になっているようですね。
▲「さしすせそ」のページ。字がそのまま絵になっています!
「さしすせそ」の行をこういう表現でやるなんてね。本当に簡単には思い付きませんよね。普通のグラフィックの人には思い付かないと思うんだけどね。
─── 子どもと一緒にこの絵本を声に出して読んでみると、発音やイントネーションがまた全然違ったりしてまた新鮮!この絵本は子ども達にどんな風に楽しんでもらいたいと作られたのでしょうか?
子どもじゃないんですよ、最初は。「ことばあそびの会」の人たちはもともと演劇の出身なんだけど、翻訳劇の劇団だったものだから、それに飽き足らなくなって。演劇の基礎はやっぱり詩だと思って詩の朗読を始めたグループなんですね。その人たちも最初は近代詩なんかを割とかっこよく朗読してたんだけど、だんだんそういうのがつまらなくなって、我々と一緒に仕事するようになってね。僕は随分音だけのナンセンスなやりとりとか、そういうのを彼らと一緒に考えてやってたんですね。
日本語の50音というのは今は文字の表みたいになってるけど、あれはもともと音の表であると。全部母音で割ってるわけですよね。子音プラス母音で。その母音が全部あいうえおで、いってみればあれは全部韻を踏んでるわけです。日本語に初めて接した東南アジアの留学生が感動してたっていうんですね。こんなきれいにひらがなが表になってるのは素晴らしい、文字と音の秩序が見事だと。我々も学校で習っただけだから、そんな大したものだと思ってなかったんだけど、言われてみると確かに50音というのはおもしろいと。それを文字で見るだけじゃなくて声に出してみると、ものすごく多様な声の出し方があるんですよね。「ことばあそびの会」ではそれを舞台でやっていたんです。
─── そういった活動をそのまま絵本で表現して、読む時に体感してもらえればという感じでしょうか。
そうですね。堀内さんも楽しんでますよね。そういうことを堀内さんは十分認識してくれていて、いろいろな書き方で文字を色と形で書いてくれたから。
これは38年前だっけ?そんな前だと思わないじゃないですか。今みるとすごい新鮮でしょ。堀内さんの感覚っていうのは、やっぱりすごいっていうことですよね。
それとやっぱり文字と絵だけじゃつまらないから、実際の声も入れましょうみたいなことで、ソノシートが入ってたんです。『かっきくけっこ』に関しては、どんなものにしようかということを、「ことばあそびの会」の人たちと堀内さんと一緒に一度ぐらい打ち合わせしたんじゃないかな。録音の時に堀内さんが付き合ったという記憶はないんですけどね。
――「ソノシート」はどんな内容だったのでしょうか?
いや、すごくいいかげんにやってましたよ。みんな半分遊んでるわけですからね。『あっはっは』では「あーっはっは、いっひひひ、くすくす、ガッハッハ」ってだたもう笑ってる声だけが入っていたりね。
―― 堀内さんの絵は、シリーズ3冊の中でも『かっきくけっこ』は飛びぬけて多彩な表現をされていますよね。ご覧になった時の印象は覚えてらっしゃいますか。
こちらは堀内さんに任せっぱなしでさ。もうなんか当然できてきたみたいな。堀内さんなら当然だろう、他の人には絶対できないよね、みたいな話はした記憶がありますね。