エーデルダム修道院。
それは孤島にそびえ、引き潮で海上に現れる細い道でのみ陸とつながる、閉ざされた世界。
そんな場所を、故郷を追われたひとりの少女がおとずれた。
彼女の名はアイラ。
アイラは世間から逃れ、穏やかに生きるためにエーデルダム修道院で見習い修道女となる。
美しいけれど、冷たいシスター・クラリス。
いじわるで傲慢な、先輩修道女ドミニク。
そして——
「ウパーラに選ばれしもの!」
アイラに抱きついてそう叫んだ、魂を病に侵されてしまったという少女ジジ。
きらいな子もいる、厳しいシスターもいる、大変な仕事もある。
完璧ではないけれど、でも、危険もないし飢えもしない。
ここでは、外の世界で生きるより、ずっと安心して暮らせる。
そのはずだった。
ただ平穏を求めておとずれたはずの修道院で、アイラは徐々に、ウパーラをめぐる秘密と残酷な陰謀の渦にまきこまれていく―――
不老不死の薬酒。
堅牢に守られた秘宝。
龍と女神の伝説。
―――わくわくしませんか?
かすかな胸の高鳴りを感じたら、どうぞ本書を手にとって!
伝説と魔法がすぐとなりにありながら、はっきりとそこに息づく人々の生活が感じられる描写は、あたかも、いつかどこかにあった本物の土地のことを書いているよう!
なんだかちょっと、旅行気分にもなってしまいます。
ところが、ただわくわく、うきうきさせてくれるばかりではないのがこの物語。
歴史という背景に、国家の思惑が絡み、人間の欲望がきっかけとなって、大きな事件が起こる。
物語を支えるリアリティが、アイラにおそいかかる試練を生々しい実感として読者につきつけ、ひとりの少女の冒険と成長の物語に深く没入させてくれます。
舞台となるパラビア王国の情勢や、パラビア建国とエーデルダム創設の歴史など、作中でわずかに語られる物語の背景は、この先にも広がる壮大な冒険を予感させるものばかり!
結末のあとにもつづくであろう少女の行く末に想像をめぐらせ、続編に期待をふくらませてしまうのは、わたしだけではないはず。
密かに、しかし確かに魔法が息づくかの地で、アイラが出会う、おそろしく、そして美しいもの。
陰謀うずまく孤島の修道院を舞台にした、異国ファンタジー開幕!
(堀井拓馬 小説家)
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