丘のいただきにそびえる、おおきな城。
そこには、少年がひとりきりで暮らしていました。
かつては少年といっしょに、大勢の人々が暮らしていたはずなのですが——
ある秋の夜、城を無人と思った旅一座が、城で夜を明かすことに。
姿を隠したままやり過ごそうと考えていた少年ですが、一座にいた踊り子の少女に、目を奪われます。
翌日、城の一番高い塔で、一座の向かった村をうかがっていた少年は、あの少女が鳴らすカスタネットの音を聞いて、いてもたってもいられなくなってしまいます。
そして少年は、塔から飛び立つのです。
その姿を、人とは違うものに変えながら——
幻想的な世界観で描かれる、人ならざる愛の物語!
著者は、「魔界都市」シリーズや「吸血鬼ハンターD」シリーズで知られる、作家の菊地秀行さん。
妖しくも美しい世界観で知られる菊池秀行さんですが、本作もまたそうした雰囲気の一冊です。
“赤いジュース”を飲み交わし、月光の下で踊る城の人々。
自分が誰で、なぜ城にいるのかもわからない、孤独な少年。
少年と城にまつわるそうした謎の数々が、どこか不気味ながらも幻想的な物語として、本作を演出しています。
また、その顔を一目見ただけで村の娘たちが魅了される、美しい容姿の青年剣士が登場するのですが——著者のファンなら、ニヤリとさせられるところ!
そんな幻想的な世界に絵で命を吹き込むのが、新進気鋭の絵本作家でイラストレーター、Naffyさん。
淡く、霧にけぶるような景色の中で、深い漆黒と、血のように鮮やかな赤とが、印象的に画面を飾ります。
これが、絵と物語の作者が別人だということを、疑わしく感じさせるほど世界観にマッチ!
どのページをひらいても、それ一枚で、背景にある世界の広がりを感じさせる物語性にあふれています。
さて、村祭の場へと天から降り立った少年は、立ちすくむ少女の手を取り、その腰に手をあてがいます。
「そんなダンス、あたし踊れません」
「僕の動きに合わせて踊りたまえ。美しいものは、すぐ身につく。あらゆる生き物は、そういう風にできている」
少女と少年が手を取り合ってワルツを踊り、祭りが万雷の拍手に包まれたとき——少年を指差して叫ぶ声が、少年自身も知らなかった彼の秘密を、あばくのです。
絵と物語の奇跡的な出会いが描きだす、永遠の愛についての物語!
(堀井拓馬 絵本ナビ編集部)
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