1本のリンゴの木が1人の人間に限りない愛を捧げる美しくも悲しい物語です。
リンゴの木が大好きで、毎日やって来ては遊んでいくちびっこ。
やがて大人になるにつれ、木を訪れる回数が減っていくのですが・・・
このちびっこ(成長し、途中から「ぼうや」と呼ばれるようになります)、
突然思い出したようにやって来ては、木に「〜をくれるかい。」と
要求ばかりしてきます。
ぼうやのために身を犠牲にして尽くしてばかりのリンゴの木。
困った時だけやって来て、リンゴの木に要求ばかりするぼうやに、
最初、「なんてやつだろう」と思ったのですが、読み進めるうちに、
決してリンゴの木は不幸な気持ちだったわけではないことに気付き、
ハッとさせられました。
「きは それで うれしかった。」
というフレーズが、ぼうやの願いに応えるたびに出てきます。
愛を与えてばかりのリンゴの木。
ぼうやが困った時に、きっかけやヒントを与えてくれるリンゴの木。
それはまるで、親離れしていく子を遠くから見守る親のような気持ち
だったのではないでしょうか。
なかなか会えないのは、元気に暮らしている証拠。
時々思い出して会いに来てくれるだけで嬉しい。
困った時は言ってごらん、力になってあげるよ。
そう考えたら、なんだかリンゴの木が嬉しかったという気持ちが
理解できるような気がします。
ぼうやの心のどこかに、リンゴの木が存在しているということ。
見えないけれど、心は繋がっているんですよね。
考えれば考えるほど奥が深いストーリー。
大人向けの絵本のような気がします。