『富士山うたごよみ』(2012年12月刊)は、U.G.サトーさんの奇想天外な富士山の絵に、俵万智さんが子ども向けに選んだ短歌、書き下ろした文が寄り添い、二十四節気を軸に並べられている、斬新な絵本です。みずみずしい感性によって俵さんの紡ぎ出す言葉は、どのように育まれたのでしょうか。子どもたちに言葉の大切さを伝えることに尽力してきた松居直氏との対談から、お二人の言葉に対する深い思いが伝わってきます。(2013年1月20日 教文館(東京銀座)にて開催)
●『富士山うたごよみ』で季節を感じる
松居:この『富士山うたごよみ』を読んでいると、季節感というものが自分の中によみがえってきます。今の子どもたちは、季節感をどれくらい持っているでしょうか。この本のように「二十四節気」なんていう感覚をもって自然を見たり、自然を見てその感覚を思い出したり、そういうことをしないと、自然観というものが育たない。子どもがどんなに言葉を豊かに持っていても、自然に対する感覚を自分の体験として持っていませんと、その言葉は生きてこないんです。
『富士山うたごよみ』を読みますと、自分が人間として自然の中に生きているということがどういうことなのかという意味がわかってくると思います。
この本では最後に大寒が出てきます。私はこの大寒のところ大好きです。「『寒いね』と話しかければ『寒いね』と答える人のいるあたたかさ」。この歌、とっても好きです。
俵:ありがとうございます。
松居:みんなが「寒いね」と言いますと、自分の中で「寒いね」と感じていることが生き生きとよみがえってくるんですね。そしてその人も同じ感じ方をしているんだということで、あたたかさというものが生まれてくる。この歌は傑作だと思います。本当に人間の気持ちをよくあらわしている。こういう歌を、お父さんやお母さんが子どもたちに読んでやると、子どもの中の「言葉の世界」というものが独特の感覚をもつようになるんですね。私は、俵さんの歌からそういったことをとてもたくさん学ぶことができました。
そんなわけで、この本を私は今読むときは後ろから読みます。
俵:えっ、後ろからですか……(笑)。いま、大寒のところをご紹介くださったのですが、そこには短歌と、その短歌に関して子どもに語りかけるような言葉が載っています。この大寒ということばを解説する言葉も私自身が書きました。「一月二十日ごろ。大きい寒さと書いて大寒。………」というところです。
二十四節気って、何かフラッグ(旗)を立てるような気がするんですね。季節って、毎日じわじわ変わっていくんですけれども、その節目、節目に旗が立っている感じがあります。大寒なら「一番寒い」と言う旗が立っているんです。ただ、一番寒いということはこれ以上寒くなることはない、という意味でもある。今日が寒さのピークでこれからは春に向かって時間が流れていくんだよ、ということをこの大寒という言葉が感じさせてくれるような気がします。そういうところが、子どもに伝わるといいなと思って、春がそこまで来てるよっていうことを最後に付け足したんです。
様々な季節に旗を立てる二十四節気の言葉はすごく魅力的ですよね。そういう旗があることで、季節のメリハリを感じられる。これ本当に知恵ですよね。 この本、U.G.サトーさんの絵がとても魅力的です。最初に送られてきたときに、小学生の息子がものすごく食いついたんです。これはもう子どもが大好きな本になる可能性を秘めた絵だなということをすごく感じました。何も言ってないのに「ここにある、」「あそこにある」と夢中になって富士山探しを始めた。子どもの目が輝くというところが、やはりこの絵の力だなと感じて、かかわりたいなと思ったんです。
絵本って、無条件に、読んで楽しい、見て楽しいというのが、とても大事だと思うんです。