●2023年に実る「クルミの林」を作るワークショップを行いました
───前回のインタビューでお伺いしたときは、えほんの丘「くさっぱら広場」を散策して、野ウサギの赤ちゃんやリスの木の話を伺いました。今回はあいにくの雨で、外に出てお話を伺えないのが残念です…。
今の時期はクルミが実る季節なので、晴れていたらリスたちがクルミの実をとって食べているところに出会えたかもしれませんね。
───残念です…。
リスはこの時期、食べるためだけじゃなくて、冬の保存食用に土に埋めるんですよ。でもリスは土に埋めたクルミを全部食べることはしないんです。春になると、リスが食べずにいたクルミが芽を出して、木の周りがクルミの若木でいっぱいになる。それはそれは素晴らしい光景です。僕は、リスというやつは、クルミを食べるのを忘れてしまったんじゃなくて、次の世代の為にクルミの木を残すことを、自然にやっているんだと思っているんです。
───クルミの木とリスは共生しあって生きているんですね。
そんなリスの行動を少しでも見習おうと、美術館のイベントでリスが植えたクルミの若木を移植するワークショップを行いました。
───リスとクルミのお手伝いですね!
そうです。10年後には美術館にクルミの林ができる予定です。2013年に植えた若木に、2023年のリスと美術館に来た子どもたちが出会う。ワクワクしますね。
───10年…長いようで、きっとあっという間に経ってしまいそうです。「14ひき」シリーズも誕生してから今年でちょうど30周年ですね。
私がこの作品をじっくりと読ませていただくようになったのは息子が生まれてからでした。一緒にお散歩に行くと、息子は目線が地面に近いから、背の低い植物とか小さな昆虫とかをすぐに見つけるんです。ちょうどその頃『14ひきのぴくにっく』を読み聞かせたら、まさにタイムリー!それ以降、「14ひき」シリーズにはすごくお世話になりました。
30年も経つと、子どもの頃「14ひき」を楽しんでいた子たちがおとうさんやおかあさんになって、自分の子どもに読み聞かせてくれます。両親は、おじいさん、おばあさん。読者は3世代にわたるようになってきました。すごくありがたいですね。
───絵本ナビユーザーの中にも、子どもの頃に「14ひき」シリーズと出会っている方がたくさんいらっしゃいます。現在、シリーズ12冊が発売されていますが、1冊1冊にそれぞれ違う魅力があって、読者の中のベスト作品も違うと思います。今回はそれぞれの生まれた背景や、いわむらさんの考えるシリーズの魅力について紐解いていきたいと思います。
「なんで30年も読み継がれているのか…」とか「どんな魅力があって、価値があるのか…」ということを掘り下げられたことはほとんどないんですけどね…。頑張ります(笑)。
●雑木林に移り住んだことで生まれた『14ひきのひっこし』と『14ひきのあさごはん』
- 14ひきのあさごはん
- 作:いわむら かずお
- 出版社:童心社
もりのあさ。のいちごつんで、どんぐりのこなでパンづくり。きのこのスープもできた。みんなでつくった、あさごはん。14ひきのあたらしい一日のはじまり。
───記念すべきシリーズ1冊目は『14ひきのひっこし』。最初が引っ越しの話ではじまるのがとても面白いと思ったのですが、これは、いわむらさんご自身の引っ越しと密接につながっているんですよね。
もともと、東京を離れて田舎暮らしをしたいという思いは、ずっと持っていたんですね。栃木へ引っ越す前は、5年ほど多摩丘陵に住んでいて、そこを舞台にした絵本を3冊描きました。
───いわむらさんご自身の暮らしと絵本が重なっているスタイルは初期の段階から形作られていたんですね。
───大工さんと話をして家の設計をしたり、水道がなかったので井戸を掘る依頼をしたりと家造りに奔走されたと伺ったんですが…。
まさに『14ひきのひっこし』のおとうさんみたいにね(笑)。工務店に頼まず職人さんの手配など自分でやりました。でも、この頃は、念願だった雑木林での暮らしが実現したことの喜びや希望があふれていて、それが作品にも出ていると思いますね。
───そして、このシリーズの目玉でもあるおいしい食事の風景は1冊目から登場してますね。
このシリーズを描きたいと思い、最初に描いた絵があるんです。それが野ネズミの家族の食卓風景。食事を家族で囲むというのがこのシリーズの原点のひとつなんです。
───野ネズミたちの食卓風景では、毎回美味しい食べ物が登場して読者を幸せな気分にしてくれますよね。個人的にそれが全面に出ていて好きなのが、タイトルからすでに美味しそうな『14ひきのあさごはん』なんです。家族全員がそれぞれ役割を持って、朝ごはんの準備をしている姿にとてもワクワクします。文字が絵本の下の部分に来ているのも「14ひき」シリーズならではだと思うんですが…。
絵の上に文字を載せるということをやりたくなかったんですよね。今でこそ、「14ひき」ならではだと言っていただけますが、当時のぼくは、絵をページ全体に描いて読者に絵本の世界に入ってほしいという、自分なりの考え方を持ってやっていたんですよ。
───「おや、まだ ねむそうなのは だれ?」や「わぁ、らくちん らくちん いいな。」といった、読者に語りかけるような文章もいわむらさんの絵本への考え方が現れている部分ですか?
●ちいさな野ネズミの目線にたった『14ひきのやまいも』
───「14ひき」シリーズでは、食べ物の収穫から描かれているおはなしも多いですが、その最初となったのが、『14ひきのやまいも』。野ネズミならではの収穫方法がとてもユニークだと思いました。
「小さい野ネズミだったら、この景色はどうやって見えるだろう…」と常に考えています。人間の場合、やまいもは穴を掘ってそこから掘り出すんですが、野ネズミの体では大きなやまいもを穴から出すことはできないだろうと考えて、じゃあ、どうすればいいか…つなひきだ!と思いついたんですね。
───達成感がとても気持ちいいですよね。
●雪景色を描きたかった『14ひきのさむいふゆ』
- 14ひきのさむいふゆ
- 作・絵:いわむら かずお
- 出版社:童心社
森は雪にうもれています。ねずみたちは、部屋の中でゲーム遊び。おじいさんは、そりを作って……。
───4冊目の『14ひきのさむいふゆ』は前作の秋景色から一転、白銀の世界ですよね。
ぼくは、絵本作りにおいて、全体の構成がすごく大事だと思っています。『14ひきのさむいふゆ』で描いたのは、室内と屋外の対比なんです。室内のときは色を暖色にしてあたたかさを出し、外に出たときはまっ白の世界を見せる。その対比が魅力ですよね。
───絵本に出てくる「とんがりぼうしゲーム」の遊び方が絵本にはさみこんであって、ボードを作れば、実際に遊べるのも、絵本の世界が現実になったようで楽しいですよね。