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《スペシャルコンテンツ》インタビュー

2012.05.31

担当編集者の方にインタビュー!
「はじめての哲学」シリーズ

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親子で哲学思考バトル!?

─── 『哲学してみる』では抽象的な言葉が並びますよね。でも「物体はひとつの物体なのでしょうか?それとも要素の集合体であり、小さな粒子の集まりなのでしょうか?」という文と一緒に、それを表現してくれているイラストを見るとわかりやすいです。「粒と集合体」や「宇宙」「自然」「客観的」など、むずかしそうに見えるかもしれないけど、子どもでもなんとなく感じたりわかったりするのかもしれませんね。

子どもでもイラストから読み取って、あれこれイメージを膨らませることができるんじゃないでしょうか。あるママさんからは、文とイラストが一緒にあることで、子どもたちにとっては、持っているイメージを言葉で考える助けになっているみたいと、言われたことがあります。日本では受験や授業で「正しいひとつの答え」を求めて頭がコチコチとですが、この本のようにひとつのテーマをさまざまなイラストイメージで触れることは、頭のストレッチにならないでしょうかねえ。お母さんと読まなくても、リビングに置いておいて、読みたいときに見てもらうのもいい。お子さんの環境にそっとたたずむ本としてもどうでしょうか。

─── たとえば自分のうちのお母さんお父さんが、人と比べる幸せじゃない、「自分の幸せ」「自分の生き方」を考える方だったら、子どもはきっと楽ですよね。両親だけでなく、教育者にも言えることかもしれない。校長先生がこうおっしゃるからとか正しいからだけではない、「答えはひとつじゃない」視点を持っていらっしゃる先生だときっと子どもは楽。「これが僕の哲学」と胸をはるフランス人のような人が増えれば子どもにとってもっと生きやすくなるかもしれないですね。

ハーモニーを大切にし「お互い様」の文化がある日本では、たとえ自分らしさを追求したとしても、フランスとはまた違った個性や独創性の発揮のされ方をするんじゃないかと勝手に思っています。日本人のDNAを信じたいのかな(笑)。「正しいひとつの答え」に向かう学習は、自分なりに考える機会をうばいがちです。あーでもないこーでもないと「哲学の時間」を作ることは、考える筋トレタイムになります。身近なテーマでも議論できます。「あそこのうちでは甘いお菓子をたくさん食べていいのにどうしてうちは少ししかダメなの」だって考えられる(笑)。ちょっとしたことにも、親御さんそれぞれの考えがあるわけで。これを意識して繰り返すことで将来が変わっていくと思うのです。

─── たしかに、あの人はこういう人だけど自分はちょっと違うとか、自分なりに色々考えて生きてきましたが、この本はそんな「なんとなく違う」を言葉にしてくれて明快。思春期に知っていたらもうちょっと楽だったかなあ。

本のなかで語られるテーマは、誰もが一度はもやもや考えたことがあるテーマばかり。それが簡潔な言葉で語られ、整理されています。小学生のときと大人になってからでは、物事の見え方や考え方は違うでしょうから、いくつになっても読み直してその時期なりに哲学してもらえると思います。
監修の村山保史先生(大谷大学哲学科准教授)は実践哲学でワークショップもされている方ですが、あとがきで(この本は)「あなたの思考をあちこちチクチクせずにはおかないでしょう」と書いています。チクチクを感じるということは哲学のセンスがあるということなのだそうです。運動神経がよかったり歌が上手だったりと、なにごとにも得意不得意あるけれど、「考えるのを楽しめる」ということは哲学センスがあるんだ!とその才能に気づいてもらえると嬉しいです。

─── お父さんと読んでもいいですよね。きっとまたお母さんとは違う、考え方や価値観がある。両者のバトルを見るのも楽しいかな(笑)。子どもがそれを見て、なんか違うこと言ってる、と。でも考えの違う大人が2人いる経験をするだけでも面白いですよね。「僕はこう思うけど」と参加したりして、萎縮がなくなるかも(笑)

大賛成! それぞれ違って当然、違っていて素敵、という世界にいることがわかれば、人生はカラフルですね。この本は、ページごとに異なる考え方が示されていて、それは世界の縮図のようでもあります。この世界観が子どものやわらかい心に映っているだけでも、将来自分と違う多様な意見に出会ったり、議論したりすることに拒否反応がなくなるかもしれません。
それにお子さんが参加するためには、じゃあ自分はどうなの?と自問し、よく考えることになるのですから、すばらしい。そしてちゃんと両親の話に耳を傾けることができれば、その分、成長のチャンスも増すってこと。すごいですね。
将来は、今よりさらに世界は狭く複雑になり、スピードは加速し、未曾有(みぞう)の問題にも遭遇することが多くなるかもしれません。タフさも必要でしょう。そんな社会を、みんなで心が折れるようなことなく生きたい。自分らしさをわかっていて、違うっておもしろいなと思えて、みんなでしなやかに歩めたらいいなあと思うんです。だから哲学は気楽にはじめてほしい。見たこともないかわいいイラストがやさしく誘ってくれます。小さいお子さんをもつ親御さんにとって、哲学絵本の役割は大きいのではないでしょうか。

 
▲フランスではこんな風にキャラクターが人形に!
並べてみると、不思議な魅力(笑)。


▲最後に記念にぱちり。ありがとうございました!

<取材を終えて>

いつもは料理の本の編集者なのに、フランスの本屋で出会った「哲学絵本」に心を奪われ日本での翻訳出版にこぎつけた伊藤さん。自分のようにこの本に出会って幸せになれる人がいるはず、と、出版のいきさつを話してくださるようすが素敵でした!この本を読んで「考える楽しみ」=「哲学」にふれた子どもたちは、どんなことを話してくれるでしょう?みなさんの哲学トークをのぞいてみたい〜。ぜひご報告をお待ちしています!

(編集協力:大和田佳世)

シリーズの続編も刊行予定!
ますます興味深い内容になっています。

出版社おすすめ



【連載】絵本ナビ編集長イソザキの「あたらしい絵本大賞ってなに?」

オスカー・ブルニフィエ(おすかーぶるにふぃえ)

  • 哲学博士、教育者。おとなのための哲学教室と子どものための実践哲学を広めるため数々の国で活動。これまでの著書として、多くの言語に翻訳されている子ども向けのシリーズ『L’apprenti-philosophe』(ナタン社)、教師向けの『Enseigner par le debat』(CRDP社)、『Le petits albums de philosophie』(アルコフリバ・ナジエ社)などがある。日本では『人生って、なに?』(朝日出版 社)、『よいこととわるいことって、なに?』(朝日出版社)、『愛すること』(世界文化社)、『生きる意味』(世界文化社)が翻訳出版されている。また世界における哲学についてのユネスコ白書も手がけている。

ジャック・デプレ(じゃっくでぷれ)

  • 1985年高等美術学校入学。1990年代初め、当時は発展途上だった新しい媒体、バーチャルイメージへと転向。この選択によって、ドキュメンタリー映画、ビデオゲーム、建築、舞台美術といった多方面で活躍するようになる。現在はイラストレーター。言葉とイラストとの奇妙な関係を模索しながら、空間、身体、光に関する自らの考えを追求している。作品『Le livre des grands contraires philosophiques』(邦題『哲学してみる』)は、オスカー・ブル二フィエとの最初の共同制作本で、フランスにて2008年の青年文学賞、同年のフランステレビジョン青年の部賞、2009年の本の科学賞を受賞。現在までに19の言語に翻訳されている。

作品紹介

はじめての哲学 生きる意味
文:オスカー・ブルニフィエ
絵:ジャック・デプレ
訳:藤田 尊潮
出版社:世界文化社
はじめての哲学 愛すること
文:オスカー・ブルニフィエ
絵:ジャック・デプレ
訳:藤田 尊潮
出版社:世界文化社
はじめての哲学 哲学してみる
文:オスカー・ブルニフィエ
絵:ジャック・デプレ
訳:藤田 尊潮、村山 保史
監修:村山 保史
出版社:世界文化社


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