これは、ポポー王国の王子レオンスと、ピピー王国の王女レーナの物語。
国同士のとりきめによって、一度も会ったことがないのに結婚させられることとなったふたり。
そんな結婚を望まないふたりは、それぞれがお供を連れて、自分の国から逃げ出しました。
ところが、逃げた先でレオンスとレーナは、偶然にも巡り合うこととなるのです。
そして互いの正体も知らないまま、ふたりは恋に落ちてしまって――。
ドイツの劇作家、ゲオルグ・ビューヒナーによる名作喜劇が絵本に!
月明かりで淡く白んだ夜と、赤くまがまがしい月とのコントラストが、なんとも魅惑的な表紙。
描くのは、国際アンデルセン大賞を受賞するなど、世界的に高い評価を誇るリスベート・ツヴェルガー。
日本でも根強いファンの多い、オーストリアの絵本画家です。
王族で世間知らずなレーナとレオンスのキャラクターは、その詩的な独特の台詞回しと相まって、とってもユーモラス。
「よくも、このうえなく甘美な自殺の機会をうばってくれたな! あおつらえむきの月夜だったのに。もうその気はうせてしまった……」
とあるささいな原因で川に飛び込もうとしたレオンスは、それを止めた従者にそう怒鳴ります。
なんと浮き世離れした王子さまでしょう。
本作は戯曲が絵本として手軽に楽しめるという点はもちろんですが、それ以上にみどころなのがツヴェルガーのイラスト。
「この劇の台詞は華麗で、言葉遊びがある。そんな台詞を絵に『翻訳』しようとしました」
本作についてそう語るツヴェルガーのイラストは、狙いどおり遊び心にあふれ、シックで洗練された魅力をまとっています。
本作は絵のページと文章のページとで分かれているのですが、文章ページの余白に描かれた、蝶々や草花といった小さな挿絵のひとつひとつさえ、愛らしい存在感を放って、読者を楽しませてくれます。
レオンスとレーナが見つめ合う、月夜の表紙に惹かれたのなら……
ツヴェルガーの描く不思議な戯曲の世界に、あなたもきっと魅了されるはず。
(堀井拓馬 小説家)
続きを読む