旅するわたしたち On the Move
- 訳:
- 広松 由希子
- 出版社:
- ブロンズ新社
絵本紹介
2023.08.21
ぽっかりと夏空に浮かぶ雲を眺めていると、「ここではないどこか」へ想いを馳せたくなるものです。
人間は、移動や旅と切り離すことができない生き物です。いまの人類(ホモ・サピエンス)がほかの大陸に移動をはじめたのは、およそ12万年以上も前のこと。種を残すため、災害から逃れるため、好奇心を満たすため、さまざまな目的で旅をしてきました。旅への憧れは、古より人間のDNAに刻まれているのかもしれませんね。
夏休みは旅行だけでなく、ご先祖さまを偲ぶお盆や、戦争について触れる機会も多い季節。非日常に接する機会が多いこのタイミングにこそ、世界を旅する絵本を味わってみませんか? 物理的な移動以外に、自分の内面へ潜っていくことや、過去や歴史を知り未来を想像することも、立派な旅のひとつです。
ご紹介する本を、旅の案内人としてお頼りください。お子さんにとって今は難しい内容でも、年齢が上がるにつれて理解できる部分が増えれば、いつしか手を取り合って、自分だけの新しい世界をひらいていける頼もしい一冊となることでしょう。
みどころ
400万年前、2本足で立ちあがり、歩き出してから、私たちは一歩、また一歩、何万年も旅してきた。
くつをはき、スキーやカヌーが発明され、他の大陸に移動し、気候の変動や災害などを理由に旅に出て、定住しない人たちもあらわれた。陸の上を、水の中を、空をわたって。
その目的もさまざま。知らない場所へ、自分だけの道をもとめて。海の底から世界のてっぺんまで、あるいは地球の果てまで。さらに遠く、未知の宇宙へと旅を続ける。時には迷い、方向を変え、自分を見失いそうになりながら。私たちは旅をする。地図やコンパスもなしに移動する生きものたちもいる。
新型コロナウィルス感染症が世界中にまん延し、人々の行動が制限された2020年にウクライナで刊行されたこの絵本。万物の行動原理である「動く」ことをテーマに、「移動」や「旅」「冒険」を、歴史や文化、人類の進化をたどりながら、壮大なスケールの物語を美しいビジュアルで見せてくれます。
新しい世界、出会い、自由。これは、一人ひとりが生みだしていく、自分だけの物語でもあるのです。私たちは旅を続けます。いつか懐かしい風景が見えるまで……。
この書籍を作った人
絵本作家、アーティスト。共に1984年生まれ。ウクライナのリヴィウを拠点に活動する。リヴィウ国立美術大学を卒業。アートスタジオAgrafka主宰。2011年、ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)で出版社賞を受賞。本作は2015年に刊行され、ボローニャ・ラガッツィ賞を受賞し、世界15言語に翻訳出版されている。2017年BIB世界絵本原画展金牌を受賞した『目で見てかんじて 世界がみえてくる絵本』、2018年ボローニャ・ラガッツィ賞受賞の『うるさく、しずかに、ひそひそと 音がきこえてくる絵本』(共に、広松由希子訳 河出書房新社)など、世界が注目する新進気鋭のユニット。
この書籍を作った人
編集者、文庫主催、ちひろ美術館学芸部長などを経て、現在フリーで絵本の文、評論、翻訳、展示企画などを手がける。ボローニャ国際絵本原画展、ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)など国際絵本コンペの審査員を歴任。立教大学、武蔵野大学、横浜美術大学兼任講師。JBBY副会長。著書に『日本の絵本 100年100人100冊』(玉川大学出版部)『きょうの絵本 あしたの絵本』(文化出版局)など、絵本作品に『おかえりたまご』(しまだ・しほ絵 アリス館)『おめでとう』(茂田井武絵 講談社)など、絵本翻訳に『はしれ、トト!』(チョ・ウヨン作 文化出版局 日本絵本賞翻訳絵本賞)『ヒキガエルがいく』(申 明浩共訳 岩波書店)『パライパンマンマ』(申 明浩共訳 ポプラ社)などがある。
この書籍を作った人
東京生まれ。出版社勤務を経て、翻訳家・編集となる。JBBY会長、「アフリカ子どもの本プロジェクト」代表。青山学院女子短期大学教授。著書に『エンザロ村のかまど』(福音館書店)、『どうしてアフリカ? どうして図書館?』(あかね書房)など。アフリカ系アメリカ人を主人公にした絵本の翻訳に『ローザ』『わたしには夢がある』『つぼつくりのデイブ』『かあさんをまつふゆ』『むこうがわのあのこ』『川のうた』『リンカーンとダグラス』(以上光村教育図書)、『ひとりひとりのやさしさ』(BL出版)、『きみたちにおくるうた』(明石書店)、『イライジャの天使』(晶文社)、『ふれ、ふれ、あめ!』『ぼくのものがたり あなたのものがたり』(以上岩崎書店)、『じゆうをめざして』(ほるぷ出版)などがある。翻訳で産経児童出版文化賞、日本絵本賞、ゲスナー賞などを受賞している。訳書に『ゆき』『シャーロットのおくりもの』(ともにあすなろ書房)、『くらやみのなかのゆめ』(小学館)、『ひとりひとりのやさしさ』『やくそく』(ともにBL出版)など多数。
みどころ
ものがたりを かこう!
準備するのは、えんぴつを一本か二本。おっきなけしごむとえんぴつけずり、おやつもちょっぴり。それから、目も耳も鼻も指もあこがれの気持ちも、全部使う。
ものがたりを生み出すのは、簡単なことじゃない。何も浮かんでこなくて、時間ばかりがたって、時にはなげだしたくなることもある。けれど、あきらめないで、もういちどえんぴつをにぎってみる。世界でたった一つの「きみだけのものがたり」をかくために。
ゴールデン・カイト賞を2度受賞し、ストーリーテラーとして評価の高い作家デボラ・ホプキンソンが描き出すのは、「生みの苦しみ」と、それを切り抜けるためのアイデア。
なにかを生み出そうとした時。それが大変な作業だということは、一度でも経験したことがある人ならわかるはず。絵本の中に登場する「きみ」も、言葉が出てこなくて、紙の山ばかりが大きくなって、他の人が書いたものがたりを読んで楽しみ、あきらめそうになる。でもきみは、あることに気づき……。
抽象的なことに挑戦しているようで、その取り組み方や、考える方法の描き方はとても具体的。だからこそ、この絵本を読んではげまされる子どもたちや、勇気をもらう大人も多いことでしょう。その一歩をふみだしたなら、きっとどこかへつながる道があるはず。巻末には、さらに詳しくアイデアを形にするためのヒントも書いてありますよ。
この書籍を作った人
東京生まれ。同志社大学卒業。主な翻訳絵本に『しりたがりやの ふくろうぼうや』『ケーキがやけたら、ね』『ババールの美術館』『おねがい パンダさん』『女王さまのぼうし』『あたし、うそついちゃった』『たった ひとつの ドングリが―すべての いのちを つなぐ』『まほうの さんぽみち』『この まちの どこかに』「あおい ちきゅうの いちにち」シリーズ(すべて評論社)などがある。
出版社からの内容紹介
新進気鋭の冒険家・春間豪太郎氏による小学校高学年〜中学生向けの待望の児童書!
第1章 モロッコで行商人にあこがれ冒険!
第2章 キルギスで勇者をめざして冒険!
第3章 チュニジアで砂漠を自由に冒険!
動物と一緒に野宿旅≠ニいう前代未聞の冒険(リアルRPG)を続ける春間さん。
しかし、その道中は難敵ぞろい。
モロッコでは暴れん坊のロバと前途多難の野宿旅!
キルギスでは羊と犬と一緒に極寒の山で遭難!?
チュニジアではラクダに乗ってしゃく熱の砂漠を横断!
次々と襲ってくるトラブルを動物たちと乗り越えていけるのか…?
周りとなじめずに悩んでいる子どもや他の子どもとは異なる特性をもつ子どもたちに生きるヒントを与える、ワクワクドキドキの感動ノンフィクション。
この書籍を作った人
1927年6月6日 オランダのアムステルダム生まれ。有名なジャーナリストでイラストレーターでもある父の影響を受けイラストを描くようになります。海軍で兵役を終え、オランダで雑誌記者をつとめた後、1952年にアメリカへ渡りニューヨークでイラストの仕事を始めます。以後100冊以上の絵本のイラストの作品を生み出しています。初めて文も手掛けた「きつねのとうさんごちそうとった」ではコールデコット・オナーブック、「ノアのはこ船」では1978年コールデコット賞を受賞しています。現在は奥さんのキャサリンさんとロングアイランド在住。
この書籍を作った人
1931年、東京に生まれる。高校卒業後、詩人としてデビュー。1952年に第一詩集『二十億光年の孤独』(創元社)を刊行。以後、詩、絵本、翻訳など幅広く活躍。1975年日本翻訳文化賞、1988年野間児童文芸賞、1993年萩原朔太郎賞を受賞。ほか受賞多数。絵本作品に『ことばあそびうた』(福音館書店)、『マザー・グースのうた』(草思社)、『これはのみのぴこ』(サンリード刊)、『もこもこもこ』(文研出版)、「まり」(クレヨンハウス刊)、「わたし」(福音館書店)、「ことばとかずのえほん」シリーズ(くもん出版)他多数の作品がある。翻訳作品も多数。
文:栗田奈緒子 編集:木村春子