今回、お話を伺うのは絵本作家の西村敏雄さん。『バルバルさん』(作/乾栄里子 出版社/福音館書店)や『うんこ』(作/サトシン 出版社/文渓堂)などの絵でおなじみの方も多いことでしょう。西村さんの作品の中でも特にあっけらかんとしたユーモア絵本『コロッケです。』について、お話を伺いました。自ら「サイン会やインタビューは苦手で……」と語る西村さん。絵本ナビでは2010年に「遊びに来てくれました」で林木林さんと登場して以来となります。とっても貴重なこの機会、お楽しみください。
●「変なおはなし、でも面白かった!」と思ってもらえたらいいですね。
───『コロッケです。』は町のコロッケやさんのコロッケが、「どこかに あそびに いきたいな〜」とお店から逃げ出して、野球のボールに紛れてみたり、動物園のサル山に紛れてみたりする、とっても楽しいストーリーの絵本です。元々このおはなしはどのように生まれたのでしょうか?
まず、食べ物の絵本を作ろうと思って、どんな食べ物を使うか、おはなしをどうするか考えました。そうしたら、「コロッケ ころころ ころっころ〜」という言葉が思いついたんです。何度か声に出して言ってみると、とてもリズムがあって、心地よい。それで「コロッケのおはなしにしよう」と決めました。
───作品の中に何度も登場する印象的なフレーズですね。コロッケって子どもが大好きな食べ物ですよね。
そうなんです。うちの息子たちも大好きで、一昨日も夕食に出たくらい(笑)。それと、「コロッケ」という名前が良いですよね。ビジュアルもコロコロ転がっていく感じがして……。ぼくは結構絵本を作るときに、声に出した時の言葉のリズムから考えることが多いんです。『ブーブーブー どこいった』(学研)も「ブーブーブー どこいった」と「まちがえました ごめんなさい」という音のリズムから絵本が生まれました。
───では、絵本を作るときは何回も声に出して読んでいるのですか?
そうですね。絵は見やすく、文章は読みやすく。ぼくの絵本は特にその2つを心掛けています。文章は特に、読む人がどんどんノッてくるようなリズムを持つ言葉を思いついたときは嬉しいですね。
───『コロッケです。』では、「コロッケ ころころ ころっころ〜」という言葉が出てきた後、どのようにストーリーを考えたのですか?
フレーズが浮かんだら、次はどういうシチュエーションにするか考えます。『コロッケです。』のときは、コロッケがどこかに転がっていって、いろいろなところに隠れるのはどうかな……と思い、どこに紛れ込むのが良いか考えました。コロッケが紛れ込んだときにクスッと笑える「可笑しさ」のあるところ、でも隠れるのが不自然じゃない「似たところ」もあるところ……。そう考えて出てきたものを絵にしました。
───野球、動物園、じゃがいも畑と続きますが、この3つ以外にもコロッケが隠れる場所を考えたのですか?
はい。候補は多めに出しておいて、そこからどんどん削っていきます。野球も、サッカーなどほかの球技も候補に出してみて、野球のボールのサイズとコロッケは近いかもしれない……と絞っていきました。
───絞っていくとき、最終的な決め手となるものはあるのですか?
『コロッケです。』はユーモア絵本にしたかったので、頭を使って考えるような難しさは抜きにして、パッと見て「可笑しい」、そしてどこか「ゆるさ」を感じられるように作りました。コロッケが転がっていって、いろいろなところに隠れる。そこに起こる「クスッ」とした笑いを大事にしたいと思ったんです。悩んだのはラストの終わり方ですね。
───まさに「おお、あんな ところに コロッケが!」という終わり方ですね。
最初に考えたラストは、月がコロッケを美味しく食べてしまうという終わり方でした。でも、ここまで自由気ままなコロッケを描いておいて、最後に食べられてしまうのはちょっとあっけないなと思って、今のラストに変えました。
───コロッケを見つめているお月様の表情がとても優しいですよね。
この月は、お母さん的な存在なんです。コロッケは、もともとお店から逃げ出して、ボールに紛れてみたり、おサルに紛れてみたりするけれど、自分の居場所はここではないと感じて、本当の居場所を求めて移動しているんです。いろいろ巡って、コロッケの材料であるジャガイモのところに行くけれど、やっぱりここではないと思う。
───すごくきれいにはまっているように見えるけれど、実は違和感を持っていたと……(笑)。
そう。だから、夜になって現れたお月様を見て、今度こそ本当の居場所かもしれないと思って、出かけていくんです。……というのはもちろん後付けの理由です。
───本当の自分を見つけるためのコロッケの大冒険ストーリーだったのかと思いました。
そういう風にいろいろ考えてもらうのも面白いなと思っています。今話したのは後付けですけど、このコロッケは小さい子どものような無邪気さを持たせたいとは最初の段階から思っていました。興味があるところにずんずん行って、しれっとおさまってしまう。でも、別のところに興味を持ったら、またすぐ出て行ってしまう。そんな多感で好奇心旺盛なキャラクターを描きたかったんです。
───ボールやジャガイモの中に隠れているときの、表情、どこか誇らしげな感じも漂ってきます。そして、ロケットに乗ったときの表情も凛々しい!
いろいろ矛盾を考えはじめたら、このおはなしは楽しめないと思います。何かおはなしから教訓を受け取ろうとせず、残るとしたら、「変なおはなし。でも面白かった」という感想がいいですね(笑)。