●SF好き、ハリウッド好き
───このシリーズは絵がカラフルなのも素敵ですよね。『いただきバス』の町の場面は、近未来な感じもしてワクワクしちゃいます。
あ、それはぼくのSF好き、ハリウッド好きが、絵に出ちゃってるのかもしれませんね。
あるときは「ブレードランナー」(1982年公開のアメリカ映画。SF映画の金字塔と言われる)のようであり、アニメ映画の色みたいでもあり。「シュガー・ラッシュ」(ディズニーのCGアニメ)も好きだし。
ティム・バートンの「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」もリスペクトしています。山がやたらと尖ってたり、地面がまるかったりするでしょ。ティム・バートンの世界はもっと暗いおばけ色だけど、明るい色ならどうなるかなと。
これを描きはじめたとき、もう派手な色しか使わないって決めて描いてます。黒っぽく見える色も、じつは黒は使っていなくて、ビリジャンとピュアレッドと濃いフタロシアンブルーの3色を混ぜています。黒色は文字だけで、絵には黒は使っていない。画面が楽しいほうがいいじゃない。
大学時代に絵本を片端から読んだとき、いちばん「すごい!」と思ったのは長新太さんと五味太郎さんです。五味さんの絵がかわいくていいと言う人もけっこういるけど、ぼくはそれよりも五味さんの物事の見方や、言葉のセンス、間の取り方のセンスが最高だと思う。
そしてのびのびさ加減は、なんといっても長新太さんがつきぬけている。長さんの絵本は、水平線や地平線をぴゅーっと描いて、そこからなにかが出てくるようなスケール感がありますよね。あの子どもの生理にあう、直接子どもに訴えかけるような感覚、長さんはすごいですね。
ぼくの場合、もっとぐにゃぐにゃしたい感じなの。地面がいつも水平じゃおもしろくない。山も何もかも、たいてい地面がまるいでしょう。まるい面にバスをのっけたくなっちゃうんだよね(笑)。
あとは「コント55号」。知ってる?
───えーーっと、萩本欽一さん……?
そうそう。ぼくにとっては欽ちゃんは「コント55号」の人なの。
坂上次郎さんが「飛びます! 飛びます!」って言うやつね(一躍有名になったコントの台詞)。
「飛びバス! 飛びバス!」。わかった?(笑)
───えええ〜〜〜〜〜っ。なるほど〜〜〜!
「コント55号」の初期のコントを渋谷公会堂で見ましたよ。ぼくは「ザ・ドリフターズ」も「オレたちひょうきん族」も好きだったし、コントが大好きだったんだよね。
だからぼくの絵本は、五味太郎さん・長新太さんへのリスペクトに、ティム・バートンを加えて、さらにドリフターズやコント55号をあわせてブレンドするとこうなるんだねえ(笑)。その感覚をどうにか子どもの本に引き寄せようとしているんですね。
●ページをめくる、その“間”が絵本ならではのエンターテインメント
───まさかティム・バートンとドリフターズが一緒に出てくるとは思ってもみませんでした(笑)。
絵本って本来、めくってなんぼのもんだから。めくると、あっと驚いたり気づいたり、世界が変わって何かが起きる。この本は11回めくるという数の“間”で見せなきゃいけない。テンポがとても重要なので、その回数で何ができるかなとすごく考えます。
ぼくは絵本の間合いを村上康成さんの絵本に学びました。『よーいどん!』(中川ひろたか作、村上康成絵)で、「よーいうどん」と大人がふざけている場面のはしっこに、子どもの足だけが描いてある。「うわー、そこ切るんだ!?」と何度思ったことか。緊張をためて、めくった次のページで解放する。爆発させる。ほろりと来たり、爽快感があったり。その間合いこそが絵本の真骨頂ですね。
ナンセンス絵本は、はっちゃけちゃったほうが存在意義があると思います。お話も絵も「えー!?」と子どもが思うものを見せてあげたい。ナンセンスは理屈じゃない。「いただきバス」シリーズもファンタジーというか……やっぱりコントだね(笑)。
アップテンポにすることは意識しています。スピード感。次々場面がすっとんでいくでしょう。
もう一つ、“子どもの語彙”や“子どもの言葉”を深く考えるようになったのは、歌詞を書きはじめてからですね。 1991年に絵本作家デビューして、1993年に中川ひろたかさんに言われたんですよ。「藤本さー、絵本かけるんだったら、詞もかけるよね」って。ぼくは中川ひろたかさんの8歳くらい年下で、ぼくが大学生のときにもう会ってるの。
───藤本さんは大学で絵を勉強していたわけじゃないですよね。卒論のテーマはなんだったんですか?
教育学部だもの。絵の勉強をしていたわけじゃないです。卒論のテーマは「個性化教育」。「総合的な学習」とも言います。学校建築もかかわってくるんだけど、子どもがそれぞれやりたい勉強をコーナーでするという考え方です。全員が教室で同じ方向をむいて、教科書で同じ学習をするのではなくて。学校教育のオープン化という試みですね。
子どもに関わることがやりたいというのは高校くらいから一貫したぼくのテーマだった。大学生当時図書館でバイトしたり、子どもキャンプに参加したり、そんなとき出会ったのが、湯浅とんぼさん、中川ひろたかさん、新沢としひこさんというあそびうたを作っている人たちでした。
彼らが自分たちで雑誌を作っていたので、絵を描けるなら手伝ってよと言われて、たまたま家の近くだったから自転車でキコキコいったの。中野駅から5分くらいのところでメンバーの一人が塾をやっていて、塾終了後の小さい机で、手作業でみんなで作っていました。
今思えば子ども文化のトキワ荘みたいなところでしたね。ぼくが通っていたのは1984〜6年頃かな。そこから後にケロポンズやたにぞう(谷口國博さん)も出てくるんですよ。
歌の詞(ことば)を書くようになって、活字は、言葉の全体像をともなって目から入ってくるけど、歌詞や耳からの言葉は、空間を波にのって音波で入ってくる。ちっちゃい子たちにすっと入ってくる言葉って何だろう? とすごく考えるようになりました。
子どもを喜ばせたい。笑わせたい。その基本はずっと同じです。だから絵本制作だけではなく、作詞作曲やあそびうた、保育あそびの活動もずっと続けているんだと思います。
───藤本ともひこさんにとって「子ども」とは何ですか?
おもしろがりはみんな子どもだと思っています。100歳でもおもしろがれる人だったら子ども。3歳でも5歳でも、100歳でも、年齢関係なく素直におもしろがれる、楽しめる。そんな人がぼくにとっての「子ども」です。
だからもちろん親でもいいんです。隠れちゃっている“子ども心”を開きたい。親が開くともっとおもしろくなるよね。
───「いただきバス」シリーズが楽しいのは、きっとみんなが“子ども心”を刺激されちゃうからなんですね。
最後に「いただきバス」シリーズ、そして新作『まめまきバス』をどんなふうに読んでもらいたいですか?
絵本ナビ読者にメッセージをお願いします。
「節分をこんなふうにしてみちゃいました! どーお? 見てみてね!」ってことに尽きるかな。
「たすけるんジャー!」の場面、おとうさんだったらどんなふうにカッコつけて読んでくれるかな、おかあさんだったらピンクレンジャーでしょ(笑)。
ここはふざけていいところなんだよ! ちゃんとふざけてねと。誘ってるんだから!
───「誘いに乗ってくださいね」ってことですね(笑)。
「ふざけていいの?」「いいのよ」(笑)。この絵本で人生をもっとおもしろがってもらえたら嬉しいです!
───ありがとうございました!
編集後記
思いっきりふざけてるのに、すごくマジメ。マジメにふざけてるから面白い! そんな印象の藤本ともひこさん。お話をうかがえばうかがうほど「だから藤本さんの絵本は子どもたちにこんなに人気があるんだ!」と納得することがいっぱいでした。
一冊にかける制作時間、制作過程での編集者との紆余曲折、40歳で保育園に飛び込んだときのエピソードなど、ナンセンス絵本の裏側にある作者の真剣さに、内心じわりと感動が湧いてくるインタビューでした。
「子どもたちにはただただ笑ってもらいたい!」という思いで作られた「いただきバス」シリーズ。喜んで楽しませてもらっちゃいましょう! もちろん、読み聞かせのときはちゃんと”誘いに乗って”、張り切って読みますよ。
まずは『まめまきバス』の「おには〜そと! ふくは〜うち!」から。子どもたちの反応が楽しみです!
インタビュー・文: 大和田佳世(絵本ナビ ライター)
撮影: 所靖子