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ゆびたこ(ポプラ社)

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野生の生態をふまえながら…

─── 『ふうと はなと うし』は「14ひきのシリーズ」よりも絵がやわらかいような…絵の感じがちょっと違いますね。画材を変えていらっしゃるんですか?

「ふうとはな」は、少し水彩を足しているところもありますけど、ほとんどパステルです。ふうとはなを可愛く、やわらかくソフトな感じで描くにはどうしたらいいかなと思ったのと、「14ひき」みたいにきっちりペンで描くような感じでなくやりたかったんですね。鉛筆とかパステルとか、こういう画材はもともとすごく好きなんです。「14ひき」はやりだすとすみからすみまできちんと描いて…それも好きなんだけど、そういう自分の性格が少し嫌だっていうのもあるんですよね(笑)。今回はもうちょっとのんびりした絵にしたいというのがありました。

─── 「14ひきのシリーズ」は、木に穴をみつけると、その穴のなかにほんとうにネズミの14匹家族が暮らしているかもしれないとわくわくする…そこが魅力ではないかと思います。「ふうとはな」の新シリーズにあたって、主人公の動物たちの、描き方に違いはありますか。

「14ひき」ではねずみの家族をかなり擬人化していて、服をきて、洗濯をしたり、ごはんをつくったり、ほとんど人間のような暮らしをしています。でも雑木林のなか、木の根元、穴のなかに暮らすというところは、ネズミの生態とやや近いところですね。
それよりも、リアリティがあるのは、「14ひき」の絵本のなかの雑木林がある風景、木や草を、かなり観察して丁寧に描いているところじゃないかと思います。じっさいにある雑木林や草はらの世界と重なるのでしょう。植物をいいかげんに書いていると、あまりリアリティが出ない。私自身が雑木林のなかで暮らしながら、よく見て、描いてきたことで、じっさいの世界に「14ひき」がいるような感じがするんだと思います。

いわむらかずお さん 「ふうとはな」は、「14ひき」よりはじっさいの野生の生態をふまえながら擬人化しようと思っています。「だれかがきても、くさのかげで、じっとしているんだよ」とお母さんがいつも言う。野うさぎの野生ですね。常にそういう身の危険があるということが、自然の仕組みなのであって。そういう野生の自然の生きものたちの生き方をふまえながら、かつ擬人化して、子どもたちの見る絵本につくりあげていくという、矛盾せざるを得ないようなことをやっていかなければいけないというのはありますけれども。
どういうふうにそれがうまくできるか、というのは、私にとっての課題でもありますね。でもふうとはなのように、自然のなかで生きるものに出会うという感動は、この生きものたちも人間の子どもたちも、変わらないものでしょうからね。

─── それでは「ふうとはな」はシリーズとしてつづくんですね。

ええ。こういうふうに野原や雑木林、農場へ出かけていっては、なにか生きものに出会うというふうに。できれば何冊か書いていこうと思っているんですけどね。

─── そのなかでふうとはながどうやって成長していくかというのは「お楽しみ」ということですね。

そうですねえ。実際の野うさぎの成長を考えると、もう夏にはけっこう大きくなってしまいますからね(笑)。秋、冬にはもう一人前になってしまって。おっぱい飲んでる期間なんかそう長くないですから…「ふうとはな」の冬のバージョンはないでしょうねえ。野うさぎは春に生まれるか、夏にうまれるか、どっちかですからね。
この次の絵本で、ふうとはなの名前について、なんでふうとはななのか、というのを書こうと思っているんです。 "花"はいのちのはじまりであり、やがて種が実り、子孫をのこしていく、大事な役割というか過程ですよね。実るために花があるわけでしょ。そして"風"は種をとばしたり、花粉を飛ばしたり。いちばん大きな役割は水を運ぶということだと思います。雲は風で運ばれていきますよね。いのちを育んでいくという、大事な役割をもっているのが風。
…と、野うさぎのおかあさんがいってました。「ふうはね、と」(笑)。

絵本ナビ読者の皆さんへ

─── はやくも2作目が楽しみになってしまいました(笑)。
それでは最後に、絵本ナビ読者の皆さんへメッセージをお願いできますか?

絵本と子どもの出会いはいろんな意味で増えていると思いますけれど、なんといっても親子の結びつきが、絵本のもつ役割としてはいちばん大きいんじゃないでしょうか。お母さんやお父さんがだっこして、肌がふれあうような、ぬくもりが伝わる距離で読んであげるということが。その時間が素晴らしい時間なんだと思います。親子ともに至福の時間だと。私のように、かつて子どもとそういう時間を持った世代からすると、そんな幸せな時間、あっという間に終わってしまう。今の時代、いろんな種類の、たのしくてうつくしい絵本がいっぱいあるんだから、お母さんやお父さんの目で自分の子どもたちに選ぶところから、愛情なんじゃないですか。ほんとうに好きな絵に出会ったら、ほれぼれとしてそこから動けなくなってしまう…。それが絵ですから!自分で選ばないなんてもったいない。最初はわからないと思っても、美術館などで絵を見ることを重ねていくと、だんだんこれはいい絵だなあとか、絵本を味わえるようになってくると思いますよ。

─── ありがとうございました。

えほんの丘の「くさっぱら広場」を探索してくださいました!
いわむらかずお さんと

<取材を終えて>

―「私が子どものときは、戦争がありましたから。終戦のとき6歳で、絵本を読んでもらうなんてことはもちろん、親子の幸せな時間をもつ、ということはできなかった。戦争のために、家族がばらばらになっていましたからね。そのことが、「14ひきのシリーズ」を描かせてるんじゃないか、と。…年齢を重ねてくと、そんな気がしてならなくなりましたね」と語ってくださったいわむらかずお さん。生き物へ、親子の時間への愛情がにじむようなその言葉がとても印象に残りました。えほんの丘で出会う生き物や植物をまるで隣人の話をするように楽しそうに語られるお茶目ないわむらさんの姿も忘れられません!

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いわむら かずお【岩村 和朗】

作品紹介

ふうと はなと うし
作・絵:いわむらかずお
出版社:童心社
税込価格:¥1,260(本体価格:¥1,200)
発行日:2010年10月
ISBN:9784494001958


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