「ねぇ おかあさん…ねぇ おかあさんってば!」
お人形を抱えた女の子が呼んでいます。
女の子の名前はみなちゃん。
「ねぇ! おえかき いっしょにして!」
「おかあさん みて!」
あかちゃんのお世話で大忙しのお母さんは、なかなかみなちゃんをふりむいてくれません。
ごはんのしたく、あとかたづけ。
やることはいっぱい。
「いまいそがしいの あとにして」
「おねがい みなちゃん あとにして」
お母さんは言います。
あかちゃんが泣き出し、ミルクがこぼれ、どうしたらいいかわからなくなったみなちゃんは……暗いクローゼットにかくれます。
おねえちゃんだから、はみがきだっておきがえだってがんばったよ。
でもいっつもひとりぼっちみたいだったの。
なんでおねえちゃんになったんだろう。
いつまでおねえちゃんなの?
みなちゃんの気持ちを思うと、切なさにぐっと来てしまいます。
心もとなさと子どもの強さが、みやこしあきこさんが描くやわらかい線に浮かび上がります。
作者のLEEさんは『ヨクネルとひな』(酒井駒子・絵)の文章を手がけている作家さん。
みやこしあきこさんとはじめて組んだ作品です。
クローゼットのなかでひとりぼっちに思えたみなちゃんですが、ひとりぼっちではありませんでした。
みなちゃんを待っていてくれた、くまのヨーンやうまのモクモク。
みなちゃんがいつも遊んでいる世界のなかにも、みなちゃんを支えてくれるものがいるんですね。
(人形たちの表情の愛らしさが、さすが、みやこしあきこさんです。)
「みてみて!」にいつもふりむいてあげられなくても、こんなふうにおいしい時間を一緒にすごせたらいいな。
最後の場面にほっとして、子どもを抱きしめたくなる絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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