どっどどどどうど どどうど どどう、
教室のガラス戸がギシギシときしむくらい風の強い日に
赤い髪をした風変わりな謎の転校生がやってきた。
彼の名前は、高田三郎。
子ども達は、三郎のことを風の神様の子「風の又三郎」だと思い
どこかおどおど様子をうかがいながらも
好奇心たっぷりに三郎と交流していくのだが・・・。
宮沢賢治の名作を影絵作家の藤城清治さんが渾身の祈りを込めて制作した『画本 風の又三郎』。
これまでも賢治童話を題材にした素晴らしい影絵作品をいつくも世に生み出してきた藤城清治さん。
日記風に綴られたこの短編の中から特別に印象に残る名場面を切り取って絵日記のように仕上げたのがこの作品です。
その名シーンの数々が、幼い頃に読んだ「風の又三郎」の記憶をかき立てます。冒頭、三郎と子ども達が出会う趣のある木造の校舎が印象的な小学校のシーンでは、今にも軋む音がきこえてきそうな窓ガラスや壁や机や窓枠の木の素材までが、驚くほど緻密に張り詰めるほど美しく表現されています。子ども達と三郎が交流する深く生い茂る瑞々しくも荒々しい山や木々の彩り。豪雨の中、生き物のように流れる青紫に光る激しい川の流れ、そして子ども達の光輝く目をのせた生き生きとした表情。全てのページにハッと息をのむ美しさが凝縮されています。
「風の又三郎」は、宮沢賢治が改作を重ねて転校生の正体をあかさないまま世に発表された永遠の未完成の名作といわれた作品。それに応えるように、真っ向から作品に取り組み、全身全霊で挑んだ18枚の名シーンの数々。藤城さんの影絵は、1日剃刀を100枚だめにしてしまうほど何度も何度も色のフィルターを削っては重ねて、微妙な色調を調整していく誰にも真似の出来ない魂のこもった手法を使っているのです。
大人になった今でもこんなに心が揺さぶられる本を子どもの頃に出会えていたらどんなことを感じられたのかとても気になります。そして手にとって読んだ人がどんな出会い方をしてくれるのか、そう思うと胸が躍る作品です。
(富田直美 絵本ナビ編集部)
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