ヨーロッパの北には、サーメとよばれる先住民族が住んでいます。
サーメ人の男「ネイネ・パッゲ」には大事なものがふたつありました。
ひとつは飼っているトナカイたち。もうひとつは、ひとりむすめの「チャルミ」。
チャルミはとても美しく、かしこい女の子です。
ある日、チャルミは、山の上に住むおそろしい巨人に見初められ、求婚されてしまいます。
サーメの人たちを苦しめる巨人から、親子は逃れることができるのでしょうか。
この絵本のおはなしは、スウェーデンのラップランド地方を舞台としたサーメのむかしばなし”Stalobruden”を再話したものなのだそう。
物語のなかで、チャルミと巨人との知恵比べが、生き生きと描かれます。
「冬には気温が零下数十度までさがる、雪と氷におおわれた原野でのくらしは、とくにむかしの人にとっては、つねに自然の脅威をかんじる命がけの日々であったでしょう。
ですから、このおはなしをはじめ、サーメのむかしばなしにたびたびでてくる巨人は、ときに容赦なく人々の命やくらしをおびやかす存在という意味で、自然の脅威の象徴ととらえることができます。その力の大きさをしりつくしているからこそ、サーメの人たちはむかしから主人公チャルミのように、知恵をしぼり自然とむきあってきたのでしょう。また、たのしいむかしばなしを語りつぐことで、きびしいくらしをゆたかな気もちできりぬけてきたのかもしれません。」
――――「あとがき」より
美しく親しみやすいことばでサーメの物語を再話するのは、『パパが宇宙をみせてくれた』(BL出版)や『おじいちゃんがおばけになったわけ』(あすなろ書房)など、北欧の児童書を中心に翻訳を手がけている 菱木晃子さん。
物語を、柔らかなタッチと美しい色彩の絵で彩るのは、平澤朋子さん。
極寒の北の風景、トナカイたち、色鮮やかなサーメの民族衣装の模様……、
生活の道具や衣装の小物など、ページはすみずみまでみどころがたくさん!
平澤さんは、絵を描くにあたって、実際に厳冬のラップランドへ足を運んだのだそうです。
その空気が本の全体に息づいているような、きりっとした存在感のある一冊です。
(掛川晶子 絵本ナビ編集部)
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