夏のある日、ぼくが川の浅瀬に見つけたのは大きな魚。のんびりと、よどみの中でじっとしている。そっと近づいてつかまえようとして、足がすべった!
水の中でもがきながら、のばした指に魚がふれる。
「にがすもんか にがすもんか」
必死になってにぎると、それは手の中でぐりぐりあばれ……。
忘れられない少年の頃の原体験をテーマに、絵本作家田島征三さんが何年もかけて新たに取り組まれたというこの絵本。まずひきこまれるのは冒頭からの臨場感。狙った魚を手にした瞬間、そこで感じるのは確かな命。ぬるぬるして、体温があり、必死で逃げようとあばれている。
そして、話はここで終わらない。とった魚を横にして、ぼくは夢を見るのだ。彼をだいて、だかれて。いつしかぼくにとって魚は同士になっているのだろうか。目が覚め、ぐったりしていた彼に驚き、慌てて水の中へ連れていく。
「しんじゃだめだ! しんじゃだめだ!」
絵本の中を力強く走り回る少年の一挙手一投足、逃げる魚と飛沫をあげる川の水、そしていつでもそこにある草むらと遠くに見える木々。80歳を過ぎた今もなお精力的に描き続けるその筆の線は全てが力強く生きていて、生命がほとばしり、子ども達の心に直接訴えかけてくるのです。
読んだ後、もし心がうずうずしてきたら。なんだか身体が落ち着かなくなってきたら。それはもう大正解、とにかく走り出してみるのをおススメします。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
続きを読む