しかけ絵本作家デビッド・A・カーターの魅力!
絵本ナビでは特集を組みながら、たくさんのしかけ絵本をご紹介しています。
その中から、こんな作品をご覧になった事はありますか?
「あかまるちゃん」
可愛らしいネーミングの入ったこの表紙を開けると、
想像を超えた形としかけが次々と飛び出してきます。
その数々の見事なしかけの中には必ず「あかまる」が隠れているのです。
その「あかまる」を探しながら進んでいくという設定に、子ども達は大喜び。
また、そのセンス抜群の色や形はまさにアート作品。大人をも魅了し続けています。
詳しくはこちら>>>
昨今、精巧なしかけや、派手で華やかなしかけなどが話題をさらい、
賑わっている「しかけ絵本界」、本当に楽しいですね。
でもその中で、ちょっと異色を放っているこの作品。
(続きに「あお2ちゃん」「くろまるちゃん」「きいろしかくちゃん」があります。)
一度目にしたら忘れられない、その卓越したセンスとユーモア感覚溢れるシリーズ、
持ってはいないけど、とても気になっている・・・
という方が多いのではないでしょうか?
絵本ナビでも、この作品の作者デビッド・A・カーターの魅力をもっとお伝えしたい!
そう思い、日本で彼の作品を出版されている大日本絵画さんに
御協力をお願いしました。
早速大日本絵画さんにお邪魔し、
いつもたくさんの楽しいしかけ絵本を紹介して下さる嵐田さんと、
日本語版のデビッド・A・カーターのしかけ絵本の訳と編集を
全て手掛けられてきた北村さんに、
彼の作品について、またその魅力についてなどなど、
沢山のお話をお伺いしてきました!
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デビッド・A・カーター(作品はこちら>>>)
1957年生まれ。
現在カルフォルニア州Auburn在住。
1987以来、50~60ものポップアップ絵本を作り続けている。
1988年の「How many Bugs in a Box」(邦訳『はこのなかにはなんびきいるの?』品切れ)
に始まるBugシリーズ(むしむしシリーズ)が各種あわせて600万部を超えるベストセラーとなった。
「One Red Dot」「Blue2」「600Black Spots」(邦訳『あかまるちゃん』『あお2ちゃん』『くろまるちゃん』)
で、2007年ニューヨークタイムズベストイラスト本を受賞している。
最新作は「Yellow Square」(邦訳『きいろいしかくちゃん』)など。
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◆二面性の魅力
まずずらりと並べられた彼の作品を前に、
「デビッド・A・カーターには2面性の魅力があるよね。」と嵐田さん。
改めて作品群を見てびっくりしたのですが、
今話題の「あかまるちゃん」シリーズに代表される、洗練されたアートの様な雰囲気の作品。
一方で「むしむし」シリーズや「しあわせならてをたたこう」などの様にとても可愛らしい雰囲気の作品。
それぞれ好きなしかけ絵本として手に取った事はあったのですが、同じ作者の作品だという事に驚かされます。
ただ、どの作品にも通じる彼の大きな特徴として
絵もしかけも彼自身がつくっているという事があります。
その優れたセンスと磨かれた技術を持ってすれば、
イメージする作品を、好きなように作品として再現できているのではないでしょうか。
それでは、それぞれの作品に共通する思いというものはあったのでしょうか?
◆初めて出会った彼の作品は・・・
大日本絵画で紹介されているデビッド・A・カーターの作品を
全て手掛けられてきた編集者の北村さん。
彼の作品を出版するきっかけとなったのが、
今から25~30年前に初めてご覧になったという、
「ほらあなたんけん」「かいがんたんけん」という作品だったそうです。
当時、他のしかけとは一味も二味も違うとても斬新なものを感じられたそうです。
↑こちらは「かいがんたんけん」。※現在絶版です。
↑海岸に打ち上げられた流木。めくってみると・・・
↑えびやざりがに、貝も出てきて。更に貝をめくって・・・。
↑最後のページにはオチと大胆なしかけも用意されています。
こちらは「ほらあなたんけん」。※現在絶版です。
↑岩を覗くと、虫がもぞっと動きます!
↑シンプルでもしかけも絵もセンスを感じます。
2作品とも、ただ驚かすだけのしかけではなく、
例えばめくりしかけの中に更にめくりしかけが用意されていたり、
シンプルなでも、どのページも全部違うしかけになっていたり。
勿論、びっくりさせてくれるページもあります。
このように、同じしかけにも一工夫されていたりして、とてもユーモアセンスを感じられたそうです。
切り絵で表現された絵も、洒落ていますよね。
「是非これを出版したい!」と北村さん。
大日本絵画でのデビッド・A・カーター作品第1号となったそうです。
◆アイデアの根底は・・・?
上記の「ほらあなたんけん」のしかけにも現れていますが、
デビッド・A・カーターのアイデアの根底には、小さい頃の遊びの記憶があったようで・・・?
「彼が小さい頃、一日中外の家の周りで岩や石をひっくり返しては、
『中に何が入っているだろう。』とわくわくしながら遊んでいたそうですよ。
ひっくり返して何が見つかるか・・・というその時味わったスリルを、
今度は彼自身がつくった絵本の中で、子ども達に楽しんでもらいたいと考えているようです。」と北村さん。
彼の一番好きな表現に、
「めくりしかけ」があるそうです。
しかけをめくると何かが隠れている・・・。
石をひっくり返すと虫が出てくる・・・。なるほど、同じ気持ちになりますね。
更に、そのめくった中で何かがもぞっと動いたり、
めくったけど、更にめくるしかけが出てきたり、
めくったら思いもかけない数の虫がいたり。
そんな遊び心を目一杯表現しているのが
「むしむしシリーズ」です。こちら>>>
日本でも人気のシリーズで、数多く出版されていましたが、
原書の出版事情で、現在購入できるものは一部。
(でも、再販に向けて準備中だそうです!近いうちにまた手に入りそうですよ。)
その第1作となっているのがこちら↓
「はこのなかにはなんびきいるの?」
↑めくると小さな虫が隠れています!ページごとに数が増えていき・・・。
隠れ方も違うんです。
↑いたずら心たっぷり!でもこのしかけ、あかまるちゃんにも通じるものがある!?
こんな風に、ストーリー性も持っているので、
絵本の中を巡りながらめくったり、ひっぱたり、探したりしながら、
次のページ、次のページとめくりたくなるのです。
またしかけの種類もバラエティーがとても豊富(ひっぱったり、まわしたり)。
根底に、遊び心、いたずら心、ユーモアがある事を感じずにはいられませんね。
25年位前にデビッドにお会いされたという嵐田さん。
その頃から御本人もとってもユーモアのある楽しいお人柄で
まさに作品のイメージそのままだったそうですよ。
↑「むしむし」シリーズだけでこんなにたくさん! しかけの種類も本当に豊富。
◆「あかまるちゃん」シリーズ誕生のきっかけは
改めて「あかまるちゃん」の魅力についてお伺いしてみましょう。
この作品を作ろうと思ったきっかけとして、
彼はこの様に語っていたそうです。
「例えば美術館に行った時、彫刻作品などに触りたくてしょうがなかった。
でも、美術館にあるようなアート作品に触る事は現実的には無理だよね。
だから、子ども達でも誰でも触れる事のできるアート作品が作ってみようと思ったんだ。」とてもわかりやすい動機だと思いませんか?
だからこの作品のつくり方としては、
一場面ごとに独立して「面白い形を・・・」とアイデアを練られたそうなんです。
↑全部で9場面。それぞれがアート作品として独立しています。(飾りたくなりますね。)
どおりで印象もしかけもそれぞれが全く違うはずです。
そしてこの作品のもっと凄いところは、
意外としかけのしくみがシンプルだという事。
今まで培われてきた経験と、センスとを組み合わせながら表現される事によって、
同じしかけでも、印象が全く違うものになるのだという事を証明してくれる様です。
と言いましても、素人の私達にはちょっと見てもその違いがわかりません。
そこで、一番わかりやすいのが
嵐田さんも大きな衝撃を受けたという「くろまるちゃん」からこの場面↓
最初のページを開いてびっくり!
驚いた後に良く見ると、何と白い紙を切って端をそれぞれのページに貼っているだけ。
「これはユーモアセンスがないと思い浮かばないよね。」と嵐田さん。
「やられたー。」と悔しがる快感もあるんです。
「経済効率は度外視だけどね(笑)。」とは北村さん。
(確かにこのシリーズの制作は本当に大変そう・・・)
「くろまるちゃん」
◆今までの作品と共通する部分も。
デビッド・A・カーターの作品には2面性の魅力があるとお伝えしました。
確かに、子ども達の遊びの目線に降りたわかりやすい作品と、
アートとも言える洗練された雰囲気の作品の違いがあります。
ところがよく伺ってみると、共通する部分もたくさん浮かび上がってきます。
「あかまるちゃん」シリーズはどの作品も、場面それぞれが独立したところから考えられています。
他のストーリー性のある作品とは違うようにも見えますが、
そこに「あかまるちゃん」が登場する事で、全ての場面がつながっていきます。
探しながら、次へ次へと進みたくなってくるのです。
更に、大きなしかけの中から「あかまるちゃん」を探す行為は
まさに「岩の中に何があるだろう・・・?」というスリル感と同じではないでしょうか!
このシリーズは「アートをもっと身近に!」という彼自信への挑戦でもあり、
また「子ども達に遊んでいる時の感覚と同じような気持ちで楽しんでほしい。」という全作品に共通した願いも感じられる作品なのですね。
全部で5部作なのだそうですよ。
残すは後一作品。果たして完結編は何色?どんな形?
楽しみに待っていましょう。
◆他にも魅力的な作品がたくさん
彼の作品の中でも、現在出版されて販売可能なものは残念ながら限られています。
北村さんも翻訳したい絵本はまだまだあるそうですが、
なかなか実現は難しいそうです。例えば・・・
↑「I‘m shy」目のところがギョロっと動きます。
大きさも小さくてシンプルだけど、驚きもあります!
実はしかけが単純なほど心をくすぐられる、という心理もありますよね。
あー、これが出版されたら欲しいなぁ・・・。
その他にも「におい」が出るものや「音」が鳴るもの。
アイデアも自由奔放。
そんな遊び心満載のカーターの作品は
言葉もかなり自由奔放だそうで、翻訳作業は毎回大変!?
(日本ではわからないような遊び言葉がいっぱい)
そこに、北村さんご自身の遊び心を取り入れながら翻訳作業をされているそうです。
そんな彼の新作は、ちょっとまた変化球↓
詳細はこちら>>>
それから、嵐田さんもお気に入りの絵本がこちら
↑手をたたく場面では、実際にパチパチ音が出ます!お話会の合間にみんなで歌ったりする時に使われたりして
人気があるそうですよ。
◆しかけの技術を伝える本!
デビッド・A・カーターは、御自身のサイトなどでもしかけ技術の情報を
提供されているそうです。
そして、彼のしかけの技術がぎゅっと詰まったこんな絵本も出ています!
「実物で学ぶしかけ絵本の基礎知識ポップアップ」
これはスゴイです!
しかけのしくみを一つ一つ丁寧に解説。
こんなしかけも中を覗けるようになっています。
そのしかけを全部合わせると、こんな画面が出来上がります。
「これを超えるものは今のところないよね。」とお二人。
保育系の先生方や、建築やデザイン関係の方もよく買われています。
こんなに丁寧に書かれていると、何だか作れそうな気がしてきますね。
「むしむし愛ラブユー」のこんな可愛い場面の・・・
作られている様子も載っています!
「実物で学ぶ ポップアップを作ろう」
誰でも飛び出すカードが作れるようになっているこちらも
とってもオススメです!
◆しかけ絵本の魅力
最後に大日本絵画さんで出されている全しかけ絵本を含めまして
その魅力などを語って頂きました。
大日本絵画で出されたしかけ絵本の
第1作目が1962年「まりとけんのかくれんぼ」です。
(品切れ重版未定です!)
その魅力は今でも伝わってきますね。
その当時からしかけ絵本は人気があったのでしょうか?
「しかけ絵本というと、例えば絵本の専門店や図書館などでは
絵本として認められない・・・という雰囲気は確かにありましたね。」と嵐田さん。
それでも、実際に手に取って見ている子ども達の喜び様は、
今と全く変わらないそうで、置いてくれていたお店では当時からよく売れていたそうですよ。
どうやら人気は今も昔も変わらないようですね。
それは、実際に手にとって見た方には説明などいらない事実かもしれませんね。
「しかけ絵本というのは、立体的に作られています。
通常の絵本に1次元増えるだけで、こんなにも違う世界の表現が出来るんですね。
例えば、カーターの作品なんかも、360度あちこちから見させる様になっていますよね。」
見せ方次第では、赤ちゃんでも楽しめるしかけ絵本。
(いないいないばあ、の原理と同じですよね。)
楽しめる年齢層がとても幅広いのも大きな魅力の1つかもしれません。
今後も色々なタイプのしかけ絵本が登場するそうで・・・
とても楽しみですね。
ちょっとだけ見せて頂きましたよ!
手を入れて遊ぶ絵本!すごいインパクトです。
海辺の生き物の鳴き声がかなりの高音質で流れます。癒される・・・。
どちらも来年の出版になるそうです。
最後に記念にパチリ。
嵐田さん、北村さんお忙しい中、ありがとうございました!!