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絵本『かわいいことりさん』他
翻訳者石津ちひろさんにインタビューしました!

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それぞれ個性的な翻訳絵本『かわいいことりさん』『サラちゃんとおおきなあかいバス』『おばけやしきにおひっこし』(全て光村教育図書刊)。これら3冊の翻訳をされているのは絵本作家、翻訳家として活躍されている石津ちひろさんです。

更にこれから発売される最新刊『ふゆのようせい ジャック・フロスト』の発売を記念しましてインタビューが実現しました!それぞれの作品の魅力について翻訳された石津ちひろさんからの口か語られるこの企画。何とも贅沢だと思いませんか?
インタビューを通して、絵本作家としての石津さんの魅力についてもたっぷりお伝えできると思います。どうぞお楽しみください。

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石津ちひろ
1953年愛媛県生まれ。早稲田大学文学部仏文科卒業。3年間のフランス滞在を経て、絵本作家、翻訳家として活躍中。『なぞなぞのたび』(フレーベル館)でボローニャ児童図書展絵本賞、『あしたうちにねこがくるの』(講談社)で日本絵本賞、『あしたのあたしはあたらしいあたし』(理論社)で三越左千夫少年詩賞を受賞。訳書に『リサとガスパール』シリーズ(ブロンズ新社)他多数。

石津ちひろさんの作品はこちらから>>>
            

お会いした瞬間から、太陽の様に明るく気さくなオーラが伝わってくる石津ちひろさん。最初から笑いの絶えない楽しい雰囲気の中、取材をスタートさせて頂きました・・・。


◆特別な一冊『かわいいことりさん』                                                    

まず最初の一冊は、石津さんもお気に入りというこんな絵本についてお伺いしました。          

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かわいいことりさん』 
クリスチャン・アールセン・作 石津ちひろ・訳  光村教育図書刊
※作品の内容詳細・みどころはこちらから>>>


最初に出会った時から・・・。
小さな頃から鳥が大好きだったという石津さん。モチーフとしての鳥も好きで、色々小物を集めたりもされていたそうです。だからこそ、この絵本は、表紙をひと目見てとても気に入ってしまったそうなんです。

「でもそれ以上に、読んでみてその内容に強く心を惹かれました。人間にとって、避けて通れない「死」というものが大きなテーマになっていて、本当は悲しいお話なのですが、でも、もしこんな形で人生の最期が迎えられるのであればそれは幸せなことなんじゃないかと思えたんですね。この絵本の登場人物たち(鳥を観察するのが仕事のプリュームさん、鳥のさえずりが好きな奥さんのマドレーヌさん、そして孫娘のチェリーちゃん)みんなが鳥を通して密接なつながりがありますよね。そこのところがうまく出せればいいなと思いました。」

個人的にもすごく思い入れのある一冊
そもそも「動物が好きな人に悪い人がいない」という想いがあるとおっしゃる石津さん。この作品も、とにかく好きなお話だなと思って、心を込めて翻訳されたそうです。でも完成した後、石津さんにとって大きなある出来事があったそうで・・・。

「この絵本が出来上がったあと、(本作を出版された)出版社の方にお会いしたんです。その時に、なぜかしきりに自分の父の話をしたんですよね。普段あまり父の話をすることなんてなかったのに。実は、そのちょっと前から父は具合が悪かったのですが、出版社の方にお会いした後すぐに容態が悪くなったと連絡が入り、慌てて駆けつけて、その10日後に亡くなったんです。
そういうかなり悲しい事があって。でもこの本があったおかげで、『父はいつもそばにいてくれるんだ、見守ってくれているんだ』と思えて、支えになってくれたところがあったんです。絵本の中のチェリーちゃんのように、父から受け継がれていくものがあるんだろうな、と。父が最期に『みんながいるから幸せ』と言っていたのがとても心に残りました。
そんな風に自分の事とも照らし合わせながら、例えば悲しい思いをした人でも、この絵本を読めば何か救いを感じるんじゃないかな、と考えて。だからとても大切な一冊なんです。」

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作者クリスチャン・アールセンの魅力について
石津さんの目から、この作品の具体的な魅力についてもお伺いしてみました。

「登場人物、鳥、果物、ケーキなど、出てくる全てのものをすごく丁寧に描かれていて、愛情が感じられますよね。日常生活をとても大切にされている感じが伝わってきて、いいなと思います。色づかいもとても鮮やかで、お子様が見ても親しみやすいんじゃないかしら。それに、悲しみも喜びも感情を色で表現されていてるのも魅力的。
重厚なテーマを扱っているけれども、読んだ後にほのぼのとした気持ちになれるんですよね。それでいて大切なものは残る感じ。それは、絵の力によるところも大きいのかもしれませんね。『死』というものをいい意味で身近であたたかく描かれているところにとっても共感できます。」


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翻訳について
静かに淡々と、でも楽しさや愛らしさも伝わってくるような文章がまたとても魅力的。翻訳される時に気をつかう部分はあるのでしょうか?

「翻訳している時はいつも無意識ですね。原書の雰囲気を壊さずにと思って表現しています。しっとりと落ち着いた感じで、でも重くなりすぎず・・・という感じに自然と表現できたかな、と思ってます。」

原書のフランス語のニュアンスも出ていると喜ばれていた編集の方。きっと、英語とフランス語、両方に堪能な石津さんならではの表現もあるのでしょうね。

読み終えた後に・・・

「この絵本を読み終えた後に、家族や親子、または兄妹、夫婦間など少しでも感想を述べ合ったりしてくれたらいいなと思いますね。一冊の絵本なんですけど、一つの演劇、映画を観終わったような感じってあると思うんですよね。絵本以上の広がり、深みがあるような気がします。まだ小さいチェリーちゃんですが、こういう思い出があれば、きっとこれからの困難も乗り越えていけるんだろうな、なんて思ったりします。」



 ◆子どもの心に寄り添うお話『サラちゃんとおおきなあかいバス』                                                 

次にご紹介するのは、小さな女の子が主人公のこんな絵本。

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サラちゃんとおおきなあかいバス
ジェーン・ゴドウィン・作 アンナ・ウォーカー・絵 石津ちひろ・訳 光村教育図書刊
※作品の内容詳細・みどころはこちらから>>>

取材日の2~3日前に出来上がりを見られたばかりという石津さん、ちょっとほっとされた様子で話して下さいました。

まず名前をつけるところから
「原作では主人公の女の子は『LITTLE CAT(リトルキャット)』と表現されているんです。愛称なのかな?それで、まず女の子に名前をつけたいと思ったんです。親しみが持てるように『~ちゃん』がいいなと思って。絵本の中でも一番小さいですしね。それから、日本にもありそうだけど世界共通の名前は・・・と考えて。そしたら知り合いの娘さんの「サラちゃん」っていう子が思い浮かんだの。(石津さんの)娘に聞いてみたら『うん、ぴったりぴったり。』って言ってくれて。」

そうして決まった名前サラちゃん。

「親しみやすくて、愛おしい存在。でも本人にはすごく不安な気持ちがあって・・・。そんな感じが出せたらいいなと思ったんですよね。」

石津さんにとってのサラちゃん

「最初、原書で『LITTLE CAT』と表現されていたこともあって、猫好きの私としては、この子のことを見守ってあげなきゃいけない存在だなと思ったんです。でもそれと同時に、私自身、子どもの頃二人の姉の後ろをついてまわっていて、サラちゃんに自分を投影するような感じもあって。立場として両方の感情がありましたね。」

赤いバスとサラちゃんの関係
そんな小さなサラちゃんと対照的に、とても大きな存在として描かれている赤いバス。その関係性の変化もこのお話の大きなみどころですね。

「サラちゃんにとってのこの大きな赤いスクールバスというのは、楽しいのだけれど、どこかちょっとやっかいな存在でもあるんです。(お姉ちゃんはすぐに友達の所へ行ってしまうし、好きな場所にはなかなか座れないしね。)だけど憧れの存在でもあって。ある日、ハプニングがあったけれど、サラちゃんは一番前の特等席に乗って一日過ごせるんです。まるで自分だけの秘密ができたみたいに。『わたし、一番前にのったことあるんだもん。』って。その満足感でこれからの日々、もう赤いバスのことはずっと好きなんじゃないかなと思えました。
赤いバスというのは、『物』なんだけれど、サラちゃんにとってすごく大きな存在で、社会でもあるわけですよね。自分が小さいばかりにいつも損な立場にあるんだけど、ある日一人で不安な思いをして、でもそのおかげで一番前に座れるというラッキーなできごとがあって。」

そんなちょっとした事が、サラちゃん自身をリラックスさせるかけがいのない思い出になったのでは、とおっしゃる石津さん。大人の目線から見ると、本当に些細で微笑ましい出来事なんだけれども、確かに自分がサラちゃんの目線に降り立ってみると・・・これは大事件ですよね。サラちゃんの目線を追っていくうちに、子どもの頃の不安な気持ちを思い出したり、自分の中のそんな経験と結びつけて思い出したりして。
(実際この取材時にも、それぞれみんなの小さい頃の思い出や、バスの中での出来事などが次々と飛び出して大いに盛り上がったんです!)

「そんな心情の変化やバスの存在感の変化が、絵によって繊細に細かく、そしてとても愛らしく表現されています。読みながら、また眺めながら、子ども達は自分に照らし合わせて、また大人は思い出したり見守ってあげたりしながら楽しんでほしいですね。」



◆立派なご意見番!                                                              

少し話ははずれますが・・・『サラちゃんのおおきなあかいバス』についてのお話の中で、名前を決定される時に娘さんに相談されたとおっしゃっていましたね。

「娘には普段から色々手伝ってもらってるの(笑)。小さい頃からバレエを習っているので『くるみわり人形』などのバレエの絵本では、ポーズを全部チェックしてもらったり。作品についても意見を聞いたりするんです。結構ダメ出しがあるんですよね。『全然ダメじゃん。』『うん、随分よくなった。』『これじゃ石津ちひろじゃないよ。』なんて(笑)。」

ご家庭での雰囲気も伝わってきます。そんな一面が垣間見られると、石津さんにぐっと親しみを感じられて嬉しくなっちゃいますね。
さて、次にご紹介する作品では、そんな娘さんがご意見番として大活躍されたそうで・・・。



◆娘さんもお気に入り!『おばけやしきにおひっこし』                                                    


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おばけやしきにおひっこし
カズノ・コハラ・作 石津ちひろ・訳 光村教育図書刊
※作品の内容詳細・みどころはこちらから>>>

テンポの良い絵本の翻訳は結構大変!?

「この作品は絵がとってもくっきりしていて、文章が短くて、リズムがあって、きびきびしていて。軽やかな感じを・・・と思って訳してみたんです。そしたら娘から『全然ダメ、テンポが良くない』ってはっきり言われて(笑)。それでまた最初から全部やり直したんですよね。」

確かにこの作品は、先に紹介した2冊とはがらっと雰囲気が変わりますね。石津さんに対するこちらの勝手なイメージで想像して、こういうパキっとした感覚の作品の方がご自身に近くて翻訳しやすいのかなと思っていると・・・。

「翻訳の時は結構しっとり系の方がすんなりと出来上がるんです。言葉遊びなんかを作っていると、歯切れのいい言葉づかいがぱっぱと浮かぶんです。それが翻訳になると、こういうタイプの作品は、結構何度も何度もやり直しながら、絵と合わせてしっくりくるように完成させていく事が多いんですよね。(『リサとガスパール』シリーズなんかもそういう感じなのだそうです!)娘が感覚的にダメ出しをしてくれることも多いですね。」

それでも次に出来上がってきた石津さんの文章は、編集の方もはっとする程がらりと変わっていて、本当に感動されたのだそうですよ。結果的には、娘さんもこの作品が大のお気に入りとなったそうです!


作品の魅力
表紙からぱっと目をひくこの作品。オレンジと黒の2色の風景に、白い紙をはったような表現のおばけがとってもユニークです。作者はイギリスで活躍されているカズノ・コハラさん。まだとてもお若い方なのだそうです。翻訳者の石津さんの目から、その魅力を語って頂きました。

「使っている色自体はとても少なくて、構図もシンプル。でもここまでみごとに表現できるなんてすごいなと思いますね。人を引き込む力があるんですよね。すぐ目の前でその出来事を見せてくれているような。版画で表現されているんですけど、リアルに目の前で展開しているような躍動感があって。お話の方も、テンポが良くてぐいぐい進んでいきます。読み聞かせ会などで読んだとしたら、例えば絵本に慣れていないようなお子様でも引き込まれていくでしょうし、みんなが楽しんでいる様子が目に浮かぶようですね。」

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マージョリィとオスカー
この作品も、原書では名前はついてなかったそうです。そこで親しみを持ってもらうために名前をつけようという話になったそうです。ところが、カズノ・コハラさんは日本人の方なので(イギリスを拠点に活動されているので、原書は英語。)翻訳版を出版するにあたって、コハラさんご自身の指定で新たに名前がつけらたそうですよ。
女の子がマージョリィで、ねこがオスカー。魔女らしく、それでいてとってもキュートな名前ですよね。



 ◆最新刊は『ふゆのようせい ジャック・フロスト』                                                  

以上3冊に加えて、最後にご紹介するのはこれから発売される新刊『ふゆのようせい ジャック・フロスト』。『おばけやしきにおひっこし』の作者カズノ・コハラさんの新作です。取材時にはまだ出来上がっていなかったので、どんな内容なのか、石津さんに少しご紹介して頂きました。


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ふゆのようせい ジャック・フロスト
カズノ・コハラ・作 石津ちひろ・訳 光村教育図書刊
※作品の内容詳細・みどころはこちらから>>>

『おばけやしきにおひっこし』とはまた違った魅力!

「『おばけやしきにおひっこし』と同じ作者の方の新刊なんですが、雰囲気がまたガラっと変わって。こちらは冬の冷たくて澄み切った空気、ひやっとする感じが伝わってきますよね。色が本当にきれいで、空気感がすごよく伝わってきて。」
今作の舞台は冬。きれいな青い風景に、まばゆいばかりの白い線がとても印象的!

「季節は冬。退屈していた男の子の所へ、ジャック・フロストという『ふゆの精(日本語で直訳すると霜の精なのだそうです!)』が現れるんです。ジャック・フロストと一緒に、男の子は雪や氷の上であらゆる冬の遊びをします。この場面は実際に一緒に体験しているようで、見ていてすごくワクワクするんですよ。
でもある時男の子が聞くんです。『ねえ、ずっといっしょに遊べるの?』
ジャック・フロストは『遊べるよ。でもぼくの前で春の話はしないでね。魔法がとけちゃうから』と言うのですが・・・。(続きはお楽しみに。)
ちょっと切ない部分もあるのですが、最後にとてもあたたかい気持ちになれる内容です。
もちろん、雪がたくさん降る地方の子どもたちが読んでも楽しいですし、反対に雪を見たことがない様な暖かい地方の子ども達も、憧れの気持ちで楽しんで読めるかもしれませんね。」

これから要注目の作家さん
この作品では、前作とはまた違った魅力を発揮しているカズノ・コハラさん。冬の風景の描き方など、とても大人っぽく上品な雰囲気。でも登場人物たちがとても可愛らしく、そんなバランス感覚が何とも絶妙と石津さんも絶賛!コハラさんの作品は、出版されたイギリスでまず火がつき、更にニューヨークでも『おばけやしきにおひっこし』(初めての絵本!)でニューヨークタイムズ・ベストイラスト賞に選ばれるなど、世界が注目する新進気鋭の絵本作家さんなのです。これからの展開も本当に楽しみですね。

翻訳版にだけ登場!
最後にとても石津さんらしいエピソード。『ふゆのようせい ジャック・フロスト』では男の子と一緒にワンちゃん(犬)が一緒に描かれています。原書では文章には登場していないそうなんですが、石津さんの翻訳バージョンにはちゃんと一緒に登場しているそうです。

「(編集の方に)言われて、『あぁ、そういえば』って気がつきました。ワンちゃんとか動物が出てくると無視できないんです、私(笑)。自然と登場させていました。」

そういえば『おばけやしきにおひっこし』でも、猫にもしっかり名前が与えられています。本当に動物が大好きなんですね。

今回ご紹介頂いた作品4冊に、石津ちひろさんが直筆サインを描いてくださいました!

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気になる作品がありましたら、是非チェックしてみてくださいね。
続いて、絵本作家石津ちひろさんについてもお伺いさせて頂きました。



◆絵本作家 石津ちひろさんが生まれるきっかけ                                                    

今回の特集の様に、絵本の翻訳家として大活躍されている石津ちひろさん。(「リサとガスパール」シリーズも全て石津さんが翻訳されてます!)でも「言葉の魔術師」と評される通り、回文やなぞなぞを初めとして言葉遊び絵本をたくさん生み出されている作家さんでもあります。その他絵本作品も合わせると、絵本ナビに登録されているだけでも170作品以上!そのラインナップを見ていくと、意外と慣れ親しんでいた絵本が実は石津さんの作品だった・・・という方も多いのではないでしょうか?そんな石津さんに、絵本の仕事に携わるきっかけとなったエピソードをお伺いしてみました。

全てのきっかけは回文から

「絵本の仕事を始めさせて頂くきっかけとなったのは『まさかさかさま 動物回文集』(絵・長新太 河出書房新社刊)でした。」
と石津さん。全ては回文がきっかけなのだそうです。

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「パリに留学していた時に、たまたま集まっていた2~3人の日本人のお友達とカフェでお茶をしていた時、『回文の作りっこをしよう。』という話になったんです。その当時、回文なんて知らなかったので聞いてみると『上から読んでも下から読んでも同じもの』とのこと。で、『例えば・・・きしゃのやしきとか?マカオのおかま?』なんて口に出してつくってみたんです。そしたらお友達が『紙に書かないで出来るんだ。すごーい、天才!』なんて言うから、『てんさい?じゃあ・・・さいさんててんさいさ。』どんどん出来たんです。それがすごくお友達に受けて。私こんなに受けたことなかったかも!なんて思った事が回文作りの最初のきっかけでしたね。」

うーん、何とも軽やかなきっかけ。口に出してみたら出来たなんて、石津さんらしいエピソードです。でも、ここからがもっとスゴイ。

回文が本になるまで

「それから日本に帰ってきて。暫く回文の事は忘れていたんですけど、ある日部屋にかすみ草を飾った時にふと『カスミソウ?逆さに読むとウソミスカ。じゃあ・・・わたし かすみそう うそみすかしたわ』できた!と。他にも『きりん ねていて ねんりき』『ちんぱんじいから かいじんぱんち』なんて色々思いついたんです。お友達に話してみたら、『それ絶対面白いよ!動物ばっかりで作ってみたらどう?』って言ってくれたんです。それで10個位書いてたんですよね。」
このお話を聞きながらも、石津さんの口からスラスラ出てくる回文に驚かされっぱなしです。いくらでも出てきそう・・・。

「ある日、何かのきっかけで河出書房新社の方から『お茶でも飲みにいらっしゃい。』と誘われたんですよね。飲みにいらっしゃいと言われても、何も持っていかないのも・・・と思って、作った回文を10個位持って行ったんです。そしたら『これ、面白いかも!』と言ってくださって。この動物回文を80~100個位書けたら本に出来るかもしれない、と言われたんです。」

もう、その帰りからずっと回文を考え始めたという石津さん。この頃お子様が誕生されたばかりで、なんと0歳の赤ちゃんを抱えながらずっと作っていらっしゃったそうです。目に見えたもの何でも回文にして・・・。

「そしたら130個位出来たんです。」

130個!そうして本を作る事になったら、今度は絵を長新太さんが描かれることになって。今では回文を書きながら絵が同時に浮かぶ事も多いという石津さん、この時の長さんとのやりとりで色々学ばれた事が多かったそうです。何ともうらやましい話ですね。その後も藤枝リュウジさんと組まれた人気シリーズなど、回文や早口言葉など言葉遊びシリーズは沢山出されてます。

お子様との生活の中で生まれた「なぞなぞのたび」
それにしても、まさに子育ての思い出と、回文作成の思い出が一緒になっている感じなのではないでしょうか?

「そうそう。だから娘は小さい時、原稿用紙のマスを○で埋めながら『オシゴト』『マシャカシャマよ』なんて言ったりしていましたね。ちょっと大きくなると、幼稚園のお迎えの自転車の上で『ママ早く帰りたい』って言うから、お腹空いたのかな?と思ったら『いい絵の考えが浮かんだの』なんて口にされて、驚いたこともあります(笑)。」

「そんな風にして家でずっと仕事していたから、じゃあもう日曜日だけは仕事をやめよう、娘となぞなぞでもしよう!・・・で生まれたのがこの『なぞなぞのたび』なんです。」

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まさにお子様との遊びの中から生まれた絵本だったんですね。この絵本、小学生に大人気です。この日も石津さん自ら出題してくれました。

「あさにはなくて ひるにあらわれ よるのあいだは ずっといて 
 あさになると またきえる さていったいなあに?」
さあ、皆さんも考えてみてくださいね!絵を見ながら考える問題なので、気になる方は本を覗いてみてください。(※答えは記事の最後で)

更につながっていって・・・
その『なぞなぞのたび』を、あるイベントでみんなの前で読む機会があったそうです。たまたま新沢としひこさん(シンガーソングライダー・絵本作家)が司会をしていらしたそうで。(新沢さんはすごく回文がお好きだったらしく、石津さんに初めて会われた時も「あの『まさかさかさま』の石津さんですか!』なんてすごく喜ばれていたそうなんです。)

「なぞなぞをいくつか読み終えた時に、新沢さんが『石津さんのなぞなぞって、何だか詩みたいだよね。』って言うから、照れ隠しに『知らなかった?私詩人なのよ。詩を書かない詩人なの。』って言ったんです(笑)。」

それをたまたま会場で編集者の方が聞いてらして、数日後、石津さんに声をかけられたそうなのです。「詩集を出しませんか。」って!それがきっかけで出来上がったのが『あしたのあたしはあたらしいあたし』。

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ここまでお伺いしていて多くの方も感じられているでしょうが、本当に<お仕事のしりとり>みたいだと思いませんか!何だかとっても不思議なお話です。その後も絵本のお話を書かれたり、翻訳の仕事をなさったり。大活躍の石津さんなのです。
石津ちひろさんの作品一覧はこちらからどうぞ>>>




◆娘さんとの貴重なエピソード!                                                 

お話の中で、度々登場している石津さんと娘さんとのエピソード。子育て中の方が多い絵本ナビ読者にはとっても気になる部分ではないでしょうか。そんな皆さんの為にとっておきの微笑ましいエピソードも教えてくださいました!

「実は、リサとガスパールの絵本の中でよく登場するセリフ『ひゃー、やっちゃった。』というのは、娘の口グセだったんです。よく驚いた時に『ひゃー!』って言ったり、失敗したら『やっちゃった。』なんて言っていて。」

そうだったんですね!あの可愛らしいセリフは、シリーズを通してもとっても印象的ですよね。あれ、そういえば『あしたうちにねこがくるの』の中にも「ひゃー、かわいい」というセリフがありますね?

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「あ、そうそう。これもそうですね。」
それから思い出したように・・・
「そういえば、娘が小学生の頃に移動教室をかねて山登りに出かけた事があったんです。その日に担任の先生が宿泊先から家に電話をかけてくださったんです。どきっとして、『何だろう?』 と思っていると、先生が『実は・・・娘さんが、猫を拾ったんです。』って言うんです。『それが・・・とっても可愛いんです。2匹なんです。』って(笑)。」

娘さんは猫を連れて帰りたいと泣くし、校長先生に確認をしなければならないし、ミルクをやらなければならないし、ちょっとした騒動になっていたようなんです。

「それで、家でわくわくしながら待っている間に私が考えたんですよね。『どんな猫なんだろう?』『山にいた位だからすごく弱ってるのかな?』『目は何色なんだろう?』なんて。そしてたらすご―く可愛かったんです!!まさに『ひゃー、かわいい!』です。あの絵本は、実はこの出来事がきっかけで生まれたんですよ。」

そのまま2匹の猫は石津さんのご家族になられたそうです。



◆最後に・・・                                                  

絵本作家になられて良かったと思われる事はありますか?

「もちろん、自分の作品が本として出来上がるというのはとっても嬉しいことです。でも、何よりも・・・これは答えにはなっていないかもしれないんですけどね。絵本の仕事を始めてから、この業界の方達が本当にいい方ばかりなので嫌な思いをした事がないんですよね。絵本作家の方にしても、編集の方にしても。とてもいい方に囲まれて生活できるというのが、本当に幸せなことだなあって思うんです。」

絵本ナビ読者に向けてメッセージをお願いできますか?

「絵本っていうのは一冊ずつ完結していますよね。でも、例えば自分の好きな猫の絵本であったり、乗り物の絵本であったり、テーマを決めて読んでみたり。そういう風に系統をつけながら読んでいくと、世界が広がっていって楽しいですよね。
それからなぞなぞだったら、お子様に読むだけでなく、自分自身も一緒に考えたりして楽しんでほしいですね。更に自分でもなぞなぞをつくってみたり、回文や折句なんかを考えてみたり、参加してみる事を是非おすすめします。
他にも、例えば今回ご紹介した『かわいいことりさん』の本を読んだ後だったら「鳥を見つけてみよう』とか、「サラちゃん~」だったらバスに乗ってみようとか、シーツでおばけになってみようとか、絵本を読んだ後、日常生活に結び付けて考えてみると楽しめるかもしれませんね。」

なるほど、そんな風に絵本を楽しめるのも実際に子育てを楽しんでこられた石津さんならではなのかもしれませんね。

「それから大きくなってから絵本を読む事によって、子どもの頃の感覚を思い出せるという効果もあると思うんですよね。自然体だった頃の感覚を思い出したり、小さい頃に親に読んでもらって嬉しかった時の感覚を思い出せたり。そういう意味では、親子で絵本を読む時間っていうのは子ども達にとっては宝物のような、本当に大切な時間なのでしょうね。」

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ありがとうございました!
色んな方との出会いがとっても嬉しいとおっしゃる石津さんですが、話していると、こちらの方が何だか幸せな気分になってくるんです。きっとまわりの皆さんもそう思われているのでしょうね。ついつい長い時間お話をお伺いしてしまいました。
翻訳のお話から回文のお話、更には子育てエピソードまで、本当に独自の才能に溢れている石津ちひろさんに魅了されっぱなしのインタビューでした。

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最後に記念にパチリ!
この後、ご一緒にお茶までお付き合い頂いたのでした・・・。


※なぞなぞの答えは・・・「る」


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