絵本『ハンバーグハンバーグ』
作者武田美穂さんにインタビューしました!
『となりのせきのますだくん』『すみっこのおばけ』『ありんこぐんだん』などなど、子ども達に大人気の作品を沢山描かれている絵本作家武田美穂さん。子どもの気持ちを代弁してくれるかの様な内容を、とても明るい絵とユーモアたっぷりのお話で楽しませてくれるその作品の数々は、多くの読者から共感を呼んでいます。
そんな武田美穂さんの二年ぶりとなるオリジナル絵本が発売されました。
テーマは「おいしいおいしい絵本」。一体どんな内容なのでしょう。
武田美穂さんご本人にお伺いする事ができました!
また、現在開催中のちひろ美術館・東京「武田美穂の絵本づくり展」(2009年11月15日~2010年1月31日)の様子についても語ってくださっています。その作品の魅力をたっぷり味わってくださいね。
■ とにかく美味しそう!武田美穂さんの最新作『ハンバーグハンバーグ』
武田美穂さんの作品のファンは特に驚かれるかもしれません。今度の新作『ハンバーグハンバーグ』には、なんと食べ物しか登場しません!いつも大活躍する子ども達は絵本の画面の中には出てこないのです。ところが、読んでいくうちにそのあまりにも美味しそうに出来上がっていくハンバーグの様子に口を半分開けながら見入っている子ども達の姿がありありと思い浮かんでくるのです(笑)。
『ハンバーグハンバーグ』
武田美穂・作 ほるぷ出版刊 絵本の詳細内容・みどころはこちら>>>
―― 「ハンバーグ」を題材に絵本を作ろう!と思われたきっかけなどあるのでしょうか?
ほるぷ出版の担当編集者さんとご飯を食べながら、「小説の食事のシーンとか、なにげに好きなんだよね。おいしそうに書いてあるとお腹がすいてくるよねー。」なんて話をしていて、「じゃあ絵本で、おいしそうー食べたーい、おなかグー、みたいなの作ろうよ。」と編集者さんが言い出して。
「武田さんになら絶対おいしそうに描けるよ!」との言葉につい気分よく乗ってしまいました。
その場でいくつかの料理を考えたのですが、やっぱり親しみやすいし、作る過程がおもしろいし、子どもは大抵好きだよね、ということでハンバーグで合意!
―― 小さな子でも楽しめる内容となっていますね。特にこだわりの点などはございますか?
リズム感のある、テキスト(文)にすること。
ハンバーグおいしそ~とか、うわ~あのぐちゃぐちゃやりたい~…とか思われる絵にすること。
―― 大人の私が読み終わった後も、思わず「ハンバーグが作りたい!」と思ってしまいました。この作品の為に実際にハンバーグはかなり作られたのでしょうか?また、ハンバーグは武田さんの得意料理なのでしょうか?
作りましたとも(笑)。
まわりはいい迷惑・・・。
昔、弟が好きでよく作ってあげてたので、自分では得意料理のつもりでいましたが、弟に言わせれば、よく焦がしてたよね、と。
―― ハンバーグに焼き目をつけていくシーンは本当に臨場感たっぷり。音、温度、においまで伝わってくるような。食べ物を描かれるということで苦労された点、面白かった点などございますか?
まさに。音、温度、においまで感じて欲しいと思って描きました。
資料写真をそのまま描いてはダメだけど、リアルさは出したい・・・と、少しずつアングルを変えたり塗り方を変えたり、何枚も描きました。
苦労したけどおもしろかった。
▲ジュージュー聞こえてきますよね!
―― この作品をどんな風に楽しんでもらいたいですか?
この本は、是非、お母さんお父さんに読み聞かせして欲しいです。
(お兄ちゃんお姉ちゃん、おじいちゃんおばあちゃんにも)
ことばのリズム、めくりのリズムを工夫して、最初はリズムにのって、絵本にうたわせるように読んでみてください。
子どもさんが反応したら、二度目はゆっくり。見たいページはじっくり見せて。
読み終わって「ハンバーグ作って」と言われたら、はい、読み聞かせは成功です。
子どもたちにも、是非フレーズをおぼえて楽しく唱和してほしいです。
▲『ハンバーグハンバーグ』の帯より。あまりに可愛かったので掲載してしまいました!
―― オリジナル絵本を出版されるのは二年ぶりだとお伺いしました。この作品に寄せる想いなどお聞かせ願えますか?
家族の介護で仕事を減らしていたので、オリジナルはだいぶブランクができてしまいました。
再出発の気持ちで、自分の原点にたちかえって作りました。
・・・といっても、ほんとのことを言うと、最初は、コマ割り入れたり、キャラを出したり、いくつかのバリエーション作ってみたりしてたのですが、
ある時ふと、シンプルに、ことばやめくりのリズムで料理の過程を追っていったら、すとんとお腹におちるものが出来ました。
喫茶店で、担当者相手にラフの読みがたりをしました。
「おもしろい、なんか美味しそう」と言ってもらえて、「おし!」と。
こみ入った物語じゃなくても、ひとつの料理を作る過程の中にも、起承転結…ささやかなドラマがあるんだ、とそんなのもやりたかったです。
■ 絵本作家武田美穂さんについて、少しお伺いさせて頂きます。
明るくてユーモアたっぷり、子ども達の日常に寄り添った内容の武田さんの作品。それでいて、繊細な心や結構大変な毎日をしっかり描かれていて、まるで子ども達を応援してくれているかのよう。武田さんの作品が学校や図書館で大人気なのも納得なのです。
―― 武田さんご自身、特に思い入れのある作品はございますか?
たくさんのお手紙をいただいて、読者を強く意識した『となりのせきのますだくん』と、ナンセンスに徹し、やりたいようにやった『ありんこぐんだん』は、特別な二作。
それぞれの編集者に、機会を与えてくれてありがとうと言いたい。
自分の中に強く残るシーンを絵本の中に入れ込んだ、『きょうはすてきなくらげの日』『か・げ』は個人的な思い入れのある作品。
『吾輩は猫である』は、尊敬する漱石さまと組めて?ただただ、感激の一冊。
―― 絵本のアイデアはどんな所から浮かぶのでしょうか?
結構日常のささいなきっかけで浮かんだりします。
こどもたちの手紙を読んでいて…という作品もあります。
―― 絵本作家になられた良かったなぁ、と思った瞬間を教えて頂けますか?
デパートの中の書店で、子どもが私の本を選んだのを偶然見たときは、うわーうわーうわー、という感じでした。
しかもお母さんがお金を払って、本を受け取ったら、その子、自分で持つ、と主張。
大事に抱えてくれるのを見たらもう、走っていって、「わたしがその本描きました~!」と言いたいような。
・・・やりませんでしたけど。
―― 今後こんな作品をつくってみたい!などございましたら教えて頂けますか?
笑える本。
ことばのリズムを大事にした本。
こどもの気持ち。わくわくや、不安や…。
・・・題材としてとりあげたいものは、いっぱいあります!
■ 原画をはじめ、絵本づくりのひみつも覗ける展覧会「武田美穂の絵本づくり展」
ちひろ美術館・東京で現在開催中の企画展「絵本はたのしい!武田美穂の絵本づくり」(開催期間2009年11月15日~1月31日)についてお伺いしました。
『となりのせきのますだくん』より 1972年 ポプラ社
詳細はこちら>>>
―― 今回の展覧会では、原画の展示を始め、武田美穂さんの絵本づくりのひみつについても覗くことのできる内容になっているそうですね。武田さんご自身も美術館にたくさん顔を出されているとか。どんな雰囲気になっているのでしょう?
企画段階で、ちひろ美術館の担当の上島さんに「長い会期なので、会期中、どんどん変化していく展示にしませんか!?」と提案されて、それは楽しそうだな、と、行くたびになにかしら持っていきました。
案内板を作らせてもらったり、いろんな場所にキャラクターをちょこちょこ貼らせてもらったり、・・・トイレにまで。(笑)
あこがれの美術館にこんなことしていいの?ちひろさま、すみません~、と心の中で詫びつつ・・・、楽しくて、行くたび、増殖させちゃいました。
二階の展示室は、デビュー前のちょっと恥ずかしい作品(汗)から、となりのせきのますだくん、コマ割り、ナンセンス、ハンバーグハンバーグ前のオリジナル「か・げ」まで、年代を追って、見せる工夫を凝らして展示していただいてます。
コマ割り作品については、本当に、前日遅くまで「どうやれば、面白くわかりやすく見せられるか」と、いろいろやっていただきました。意見を取り交わし、それによって全部できていたガイド版を、いきなり総取り替えしたり。
妥協のない誠実な仕事に感激。
あっ、「ざわざわ森のがんこちゃん」も、展示してます。ひみつの引き出し♪というのがあるので、是非見てください!
門外不出?の設定資料入ってます。ふふふ。
一階の多目的展示ホールは、それこそ会期中ばんばん変わっていってます。
今のメインは子供たちと作ったお化けとかいじゅう型秘密基地!
かっちょいいです。
もひとつ。ハンバーグハンバーグの制作過程を展示。本当は出したくなかった仕事修羅場時のお部屋の写真も公開…。(汗汗)
▲『となりのせきのますだくん』の原画。その下には、その制作方法の説明なども展示してあるのです!
▲最新作『ハンバーグハンバーグ』の制作過程も展示してあります。
更に、打ち合わせの様子からハンバーグを実際に作っている様子の写真まで!
▲武田美穂さんのお仕事部屋のお写真も大公開!ここから数々の作品が生まれていくのですね。
▲仕事修羅場時のお部屋!壁は『ハンバーグハンバーグ』のラフで覆いつくされています。下からちらっとのぞいているのは、実際にハンバーグを作った写真ですね。
▲この立派なオブジェは、美術館のワークショップで武田美穂さんと子ども達が一緒につくった「怪獣型秘密基地」。
―― 今回の展覧会の期間中には、子ども達とのワークショップも開かれたそうですね。
私のワークショップは、なにか教えるのではなくて、楽しく考えたり作ったりするための時間と場所と素材を用意して、はい、どうぞ!という感じ。
でも、こどもたちってもともとクリエイティブ。お互いの作品にも刺激しあって、びっくりするようなものを作ってくれちゃいます。
こどもたちのオリジナリティあふれるたくさんのおばけたちと、秘密基地、是非見てください!
▲秘密基地を真剣に制作する武田さんと子ども達。
終了後に、子どもたちが武田さんに宛てたお手紙には
「みほさん、てつだってくれてありがとう」と書いてあったそうです!
■ 絵本ナビ読者の皆さんへ
―― 最後に絵本ナビ読者に向けて一言メッセージをお願いします!
よく、読みきかせする本の選び方を聞かれますが、
まずは自分が読んで、面白かったものを!それが一番大事だと思います。
小さい頃、自分のたからものを大切なともだちに見せたくてたまらなかった、あの気持ちで、
こどもたちに自分の大好きな絵本の良さを、伝えてあげてください。
(でも、それでも迷ったら、是非私の本を!)
▲ こんな素敵な直筆メッセージを描いてくださいました。
可愛い!そしておいしそう~。
武田美穂さん、ありがとうございました!
会期中、イソザキも息子を連れて展覧会を見に行ってきました。
原画がたくさん見られるだけでなく、その制作方法やアイデアの工夫なども垣間見ることのできる、とても充実した展示内容なのです。
「エンターテイメントに徹する」という武田さんの言葉がとっても印象的でした。
更に「怪獣型秘密基地」。息子はもぐり込んだままずーーーっと出てこなくなってしまい、困ってしまいました。子ども達にとっては居心地が良すぎるようです(笑)。
※展覧会の最終日、1月31日(日)14:00〜16:00にはみんなで作った秘密基地とおばけ達を公開解体するそうです!誰でも参加できるそうですよ。
詳細はこちらでご確認くださいね>>>